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FAQでわかるマーケティング実務と戦略経営入門
弊社代表が素朴な疑問や悩みに答えながら、マーケティングや戦略、ビジネスの基本的な知識が理解できるコーナーです。

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FAQでわかるマーケティング実務と戦略経営入門

マーケティングとはなんですか?(2015/08)

誰に売るか(STP)、何を売るか(Product)、どんな価格(Price)で売るか、どんなプロモーション(Promotion)をするか、どこで(Place)売るかの4つを決めて実行することです。

<著者からの回答>
 日本語の世界で言えば、広義は「営業(business)」、狭義は「販売(sales)」といことです。難しくいえば「市場創造」です。売り手が製品やサービスなどを買い手が支払ってくれる対価に変換させる機能のことです。

 19世紀末から20世紀初頭のアメリカの「産業発祥の地」であるミシガン湖を利用していた商人達が販売先の開拓という意味に使っていたようです。産業革命でどんどん物が生産されるのに東海岸の卸商などは西部市場の開拓に興味を持たなかったので、製造業者が自ら顧客を開拓するという意味で名詞化したようです。(R.バーテルズ参照)

 従って、マーケティングとは、誰に売るか(STP)、何を売るか(Product)、どんな価格(Price)で売るか、どんなプロモーション(Promotion)をするか、どこで(Place)売るかの4つを決めて実行することです。つまり、この4つが、市場創造及び市場化の基本機能だということです。経済学は、市場化後の現象を抽象的に扱いますが、マーケティングは市場化前を具体的に対象とします。

 多くのマーケティングの教科書は、最新の企業の市場化努力の事例を分類し、整理していますが、ネット時代の現代でも基本は4つです。
(松田久一)

「マーケッティング」と「マーケティング」は、どちらの表記が正しいのですか?(2015/08)

「マーケティング」が常識化しています。

<著者からの回答>
 「マーケティング」が常識化しています。日本語発音なら「マーケッティング」と促音(つまる音)の方が馴染み易いのですが、最近ではほぼ100%と言っていいほど「マーケティング」と表記します。逆に、「マーケッティング」と表記すると、恥ずかしい感じがしてマーケティングの素人であることの証となってしまっています。
(松田久一)

4Pって古くないですか?マーケティングは必要でしょうか?(2015/08)

マーケティングの全体は「ST+4P」で十分捉えられます。

<著者からの回答>
 アメリカのマッカシーという人が製造業をベースに1960年代に考えたものです。古くて製造業向けなので、4P発想は大事です。  ひとつは、マーケティングを機能として捉える場合に4つでいい、つまり、単純で覚えやすいという便宜上からです。Pの語呂合わせで覚えやすいです。どんな製品(Product)を、どんな価格(Price)で、どんな流通(Place)で、どんなプロモーション(Promotion)をすべきかを考えるだけでいいということです。単純は最大の武器です。

 P.コトラーのマーケティングの教科書の発展の歴史を見ると、マーケティングがどのように変わってきたがよくわかります。つまり、現状の企業のマーケティング活動に対応して、製造業の基本的な4Pマーケティングにたくさんの機能を追加してきたのです。もうコトラーの教科書では、「製品」という名辞はあまりでてきません。その代わりに「オファリング(提供財)」になっています。マーケティングの主体として情報サービスを含んでいるからです。

 マーケティングは「大理論」があって、それをもとに進化発展してきたものではありません。従って、マーケティングの教科書は、現状の企業活動にあわせてどんどん変わっていきます。特に、コトラーは整理の名人で、コトラーの教科書は毎年改訂される六法全書のようなものです。ひき方さえわかっていたら、いつでも最新の法令がわかります。そのひき方が4Pマーケティングと考えればいいと思います。

 もうひとつは、マーケティングを全体として捉えることができるということです。当事者が製品サービスを消費者に売る政策を考えるとします。やるべきことはたくさんあります。その際に、売るためのたくさんの活動を全体として捉える必要がでてきます。あるいは、これまでのすべての活動を革新する際にも全体を捉える視点が必要です。4Pマーケティングは、やるべきこと、やっていること、やってきたことを、全体として捉えるフレーム(枠組み)を与えてくれます。全体を捉えることができたら、活動の過不足、整合性や合理性がわかります。つまり、マーケティングを全体として捉えるフレームとして便利だということです。

 私は、マーケティングの基本は、「ST+4P」で捉えろ、と人様に教えさえて頂く際は言っています。STPとは、消費者のセグメント(segment)、ターゲティング(targeting)、ポジショニング(positioning)のことです。顧客を何らかの基準で「区分」し、そのセグメントのどの層を標的化し、どのような心理的なポジショニングをするか、ということです。しかし、テレビCMで心理的なイメージを形成できる時代は、ポジショニングによるブランディングは有効でしたが、現代では限界があります。従って、ポジショニングは製品サービスなどの差別化を含む製品の「P」やプロモーションの「P」に入れた方がいいと思います。

 マーケティングの全体は「ST+4P」で十分捉えられます。
(松田久一)

経営者でもない平社員が経営のことを学ぶ意味がありますか。(2015/05)

文明、科学や技術は発達しましたが、根本的な人間行動はあまり変化していません。

<著者からの回答>
 一生平社員でいよう、という覚悟をして仕事に臨むなら学ぶ必要はないと思います。また、それも人生の立派な選択です。昔の言い方なら「生涯一労働者」、「包丁一本の職人」でいるということです。しかし、昔ならともかく、実際にはこの選択は難しいことです。自身が中間管理職になったり、勤めている会社が非合理的な経営を行ったりすることが、長い社会人としての人生で起こります。昇進を拒否し、経営陣の愚策に従い利益を失うのは自分自身です。民間企業では、会社の経営によって給与や雇用が左右されます。経営のイロハを知っていれば、自分にとって有利な判断をすることができます。また、管理職は経営者と平社員の中間に位置し、経営者の考えを知っておくことで仕事を有利に進めることができるはずです。また、リタイア後の資産運用などでも経営や戦略の知識が役立つでしょう。「生涯一労働者」でいることが難しいならやはり経営や戦略という考え方を知っておいた方がいいと思います。
(松田久一)

マーケティングや戦略とは関わりない部署で働いていますが、こういった知識を学ぶことで社会人としてどんなメリットがあるでしょうか。(2015/04)

会社全体をどう動かしていくかを方向づけているのは、経営方針や年間計画などと呼ばれている「戦略」です。

<著者からの回答>
 経理や総務を担当している人にとってマーケティングや戦略は一見関係ないことのように思えるかもしれません。しかし、会社全体をどう動かしていくかを方向づけているのは、経営方針や年間計画などと呼ばれている戦略です。従って、製造、オペレーション、研究開発、経理、企画といった各部署の役割を、全社の戦略から理解することは、よりよい仕事をする上で重要なことです。

 特に日本企業では、ゼネラリスト的な仕事の仕方を求められることが多いからです。そのため、経理担当だから、マーケティングや戦略は関係ないという訳にはいきません。

 また、自分自身で投資をする場合、その会社が本当に優れた活動をしているのか見極めるためにも、こういった知識を生かすことができます。
 そのほかにも、就職や転職の際、その会社を見定めるためにもこういった知識を活用できます。老後の投資にも会社や業界の長期的動向や流れを知っておくことで、うまい運用に繋がるはずです。
(松田久一)

おかしな話ですが、自社の何に注力していいのか分かりません。どれも中途半端ですが、思い切って何かに集中するのが怖いです。(2015/05)

現状を変えるには、限られた資源(人、モノ、カネ)を、リスクを負って集中する必要があります。

<著者からの回答>
 現状を変えるには、限られた資源(人、モノ、カネ)を、リスクを負って集中する必要があります。集中することができなければ、資源は分散し、現状は変わりません。もちろん、その集中によって失敗を招くこともあるでしょう。しかし、リスクをかけて集中することで、現状から浮上する可能性が生まれます。

 受験勉強は典型です。いわゆる偏差値上位校に入る学生は、限られた資源(時間)を、合格するために必要な教科(点数にバラつきが大きく、差がつけやすい教科)にうまく集中しています。例えば、先生の教え方がうまくなく、みんなが嫌いな数学などは差をつける絶好の教科です。

 従って、上位校に入る生徒は、目的に合わせて合理的に動ける学生であり、中高生からこのような資源集中発想ができるように育てられています。一般に、教科に好き嫌いが生まれるのは、教え方のせいです。また、勉強だけでなく、社会の様々な事への関心が広がる時期です。14才や17才は、人生に悩む時期です。入学目的に自分の限られた資源を有効に集中できるかが受験の成功のポイントです。

 会社も同じです。問題を乗り越えるには資源集中という決断が必要です。しかし、多くの中高生が目標学校への合格目的に資源集中できないように、多くの会社もできません。悩みが多いからです。そんな際は、外部のアドバイスをもらうことも有効です。
(松田久一)

「事件は現場で起きている」という有名な言葉がありますが、会議室で決めた戦略通りに、本当に商品は売れるのでしょうか。営業回って、一件でも多くのお客さまの声を聞いた方がよくないですか?(2015/08)

顧客の数が少なく、売る商品数も少なく、組織が小さな会社であればその通りだと思います。

<著者からの回答>
 顧客の数が少なく、売る商品数も少なく、組織が小さな会社であればその通りだと思います。何が成功し、何が失敗したのかがはっきりわかり、組織みんなで情報を共有できて行動できるからです。しかし、顧客が増え、商品数が増え、組織構成員も増えてくると、事情は変わってきます。難しく言うと、市場の多様性が増加してくると、これまでの組織では処理できなくなります。予算、設備、人材の再配分の計画が必要になります。  それが計画ということです。個人で言えば、やるべき事がひとつであれば計画やスケジュールを立てる必要がありませんが、やるべき事が増えてくれば、計画的に進めなければどれも実行できなくなります。

 会社組織では、そのような計画を専門にする要員(スタッフ)が生まれます。そして、スタッフが計画を立案し、ライン(現場)が実行するという制度が生まれます。この仕組みをつくったのが19世紀に生まれたドイツの「参謀本部制度」です。これは、法、合理的なルールと手続きによって物事が遂行される「官僚制度」でもあります。そして、企業は、組織の巨大化にともない、この制度を模倣しました。

 日本の警察組織はこの典型です。
会社が大きくなり、計画が必要となり、組織もスタッフとラインに分化します。スタッフが計画し、ラインが実行に移し、結果をフィードバックして、再び、計画に反映させるというPDCサイクルが作動すればいいのですがなかなかうまく行きません。このサイクルが柔軟に、スピーディに、臨機応変に行われないとさまざまな官僚的な弊害が生まれてきます。

 本来のラインの目的である販売するということよりも、手段的なルールや手続き優先されることも起こります。現場としては、「所轄の青島刑事」のように、「事件は現場で起きている」の代わりに「販売は現場で起きている」と言いたくなります。会社や行政組織への不満が、「踊る大捜査線」のヒットの背景にあったのかもしれません。

 しかし、現場にすべてを任せばいいかと言うと、先ほどのように、逆に、現場での裁量がなく対処できなくなってしまいます。  それではどうすればいいのでしょうか。ひとつの解決策が、特定の課題を対処するためのプロジェクトチームや「独自の機動性をもたせた組織」の設置ということになります。

 中村吉右衛門さん主演のドラマ「鬼平犯科帳」の冒頭に、「独自の機動性をもたらされた」という「火付け盗賊改め」の説明がでてきます。これは、通常の犯罪は「北町」や「南町奉行所」で対処するが、「火付け盗賊」などの凶悪犯罪に関しては、あらゆる犯罪を取り締まる奉行所ではとても対応できないので、奉行所とは別に動ける組織をつくったという意味です。

 もうひとつの理想的な解決策としては、組織の構成員が、多様な問題解決のために自主的に自由に最適なチームを組んで、官僚的な弊害のない組織や文化を構築することです。個人が高い自由と自主性を持てば、部門や役職などの階層は必要なく、問題を解決する日常的な組織運動があればいいのです。経営トップは、その問題解決運動に、予算、人材と設備を配分すればいいのだと思います。

 しかし、現実は、人間には運動を固定化した組織が必要です。従って、組織には、計画、そして、その裏付けとなる構想、すなわち戦略が必要です。弊害として、スタッフの作成した計画は現場の事情をすべて反映していません。柔軟な修正が、現場判断で行われるような仕組みが必要になります。
(松田久一)

弊社では、ITソリューションを企業様向けに提供させていただいております。弊社のようなB2Bビジネスでも、マーケティングは役に立つのですか?消費者向け、というイメージがあります。(2015/08)

BtoBの市場の方がより強くマーケティングの有効性を発揮するかもしれません。

<著者からの回答>
 BtoBの市場の方がより強くマーケティングの有効性を発揮するかもしれません。理由は、BtoBでのマーケティングの導入が遅れているからです。BtoBのマーケティングは「生産財マーケティング」と呼ばれてきました。買い手が企業の場合、その企業のニーズを満たす製品やサービスを提供するのがBtoBビジネスです。その企業の受注を得るためには、消費者行動と違って組織の購買行動というものがあります。消費者よりも、購買の意志決定プロセスが複雑で関与者が多くなります。従って、関与者ごとのアプローチが必要になります。例えば、住宅の部材を売り込む場合、決定者は、施主ですが、部材が指定される設計図を書くのは設計者、実際に工事し発注するのは、工務店などになります。部材を販売するには、施主、設計事務所、工務店などの施工者のそれぞれにアプローチする必要があるのです。医家向け薬、美容院向けのシャンプーやリンスなどの販売も同じです。そして、BtoBは、BtoBtoCへと価値が繋がります。つまり、売り先のニーズを追求するには、売り先の売り先である最終消費者の満足を追求する方法を提案することが売り先企業の競争優位に繋がることになります。工務店の直接の顧客である施主に喜んでもらえるように工務店に提案し、工務店の施主評価を高めることが大事になります。

 このような発想をし、施策を展開することが、マーケティングであり、低価格競争に陥りがちなBtoBビジネスを差別化して、競争力のある仕組みを創造することになります。
(松田久一)

あとから考えたら、特に必要ない商品やサービスを衝動買いしてしまうのは、企業の戦略に上手にのせられているのでしょうか。現代人は必要ないものをたくさん買っているように思います。(2015/08)

ある意味で、衝動買いした商品は、「ステマ」で売り手に買わされたように見えて、実は「無意識に自分が選んだ商品」と言えると思います。

<著者からの回答>
 消費者は、自分に必要な機能や属性を持つ商品を、予算制約のなかで購入するというのが、経済学的な合理的な購入です。鉛筆一本購入するのに、この方法をとることはできます。すべての銘柄の鉛筆属性を、ネットで情報を収集し、表計算ソフトで評価し、予算のもとで自分の欲しい属性が最大に得られる銘柄の鉛筆を選べばよいのです。

 それに対して、衝動買いとは、一目で欲しいと感じ、行動に移すことです。後で考えてもなぜ買ったのか、正直言ってよくわからないということもあります。衝動買いには、消費者自身が知覚できない、無意識の模倣欲望が関わっていると考えられます。しかし、その潜在欲望を刺激できる技術も知見も現在のマーケティングにはありません。従って、ある意味で、衝動買いした商品は、「ステマ」で売り手に買わされたように見えて、実は「無意識に自分が選んだ商品」と言えると思います。
(松田久一)

企業は本当に顧客のことを第一に考えて製品開発をしているのでしょうか。(2015/08)

売るためにつくるのですから顧客のことを考えざるをえません。

<著者からの回答>
 製品開発とは、消費者のニーズを満たし、喜んでもらえると言う理念と希望的予測で開発されていることは言うまでもありません。売るためにつくるのですから顧客のことを考えざるをえません。

 しかし、現実には、誇大広告といえるような品質のものもあります。また、こんな新製品を誰が買うのかと思うようなものが増えていることも事実です。「お掃除ロボット」や10万円を越える「高級炊飯器」などの導入期はそうでした。しかし、どちらも大ヒットしました。

 企業の製品開発は、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、自社の技術や原料などのリアルなものからスタートするものです。自社の技術を製品化し、何らかの顧客の潜在的な不満を解決できるような新製品を開発する方法です。トイレタリーや家庭用製品に多い方法です。この方法では、どうしても「押しつけ」製品になりやすい傾向があります。

 もうひとつは、消費者の潜在的なニーズやファンタジーなどのヴァーチャルなものからスタートしてうまく製品化する方法です。意外かもしれませんが、ハイテクやIT製品、健康関連製品、美容やファッション関連製品に多い方法です。例えば、「ダイソン」の掃除機は「凄い吸引力」で綺麗に掃除ができるという夢を満たしてくれます。うまく顧客の潜在ニーズを満たせばいいのですが、この方法では「期待はずれ」製品になる確率が高くなります。

 どちらにしても、製品開発が仮想的な消費者理解にもとづく仮説だということです。消費者は、開発され、提示された仮説としての新製品を評価し、購入するかどうかの判断ができます。しかし、自らは、潜在的な不満やニーズは知覚できません。従って、こんな新製品が欲しいとは言えません。言える人は、買い手ではなく、売り手と同じ立場の人で消費者ではありません。

 企業の製品開発は、消費者が知覚しない不満やニーズを掘り起こして製品化しますのでどうしても消費者本位の製品開発を疑いたくなります。そして、セグメントを明確にした新製品が多くなり、多くの成熟市場で高価格帯の新製品が導入されていることも、このような印象をもたれるようになっているかもしれません。


(松田久一)

なぜ今、「タテの戦略」という考え方が必要なのでしょうか。(2015/04)

安定した時代の場合は、時間横断的なSWOT分析など、一時点での時代を切り取った戦略で対応可能ですが、今の時代はそれだけでは対応できません。

<著者からの回答>
 戦略経営とは、時代変化をとらえて、会社の舵をどう切るかを決めることです。本書の中で出てくる「タテの戦略」とは、ある意味でドラッカーの考え方に学んだ部分があります。

 歴史を振り返ると、会社とは創業者によって専制的に経営されていました。これはある意味で独裁的な偉人による「人治経営」といえます。こういった経営手法は、17世紀の資本主義の草創期からほぼ1920年代まで長く主流でした。
 やがて、資本の大衆化によって、株式会社の制度が発達して、経営と会社の所有とが分離されるようになった。つまり、会社のオーナーが所有するが、経営は専門家にまかせる。学術的にもマネージメントや経営学が盛んに研究されるようになりました。

 こういった中で、「経営とは何か」をいち早くまとめたのがドラッカー、バーナードや経営学者です。特に、ドラッカーは、戦略を策定し、目標を作り、優先順位を付けて各部署に仕事を割り振るという経営者の仕事を明示しました。そして、時代規定にもとづく経営の原則ということを明らかにしました。現代は、こういう時代だからこういう原則で経営すべきであると説きました。この考えは、本書にあるタテの戦略に近いものです。
 一般的には、現状を時間横断的に分析し、脅威と機会を見いだして、自社の強みと弱みから戦略を策定します。しかし、今の世の中をみると、経済のグローバル化、人々の価値観の変化など、時代が大きく変わろうとしています。

 安定した時代の場合は、時間横断的なSWOT分析など一時点での時代を切り取った戦略で対応可能だが、今の時代はそれだけでは対応できない。ドラッカーが指摘したように、時代変化という時間の時系列的な変化の中に機会と脅威を見いだすことも必要になります。

 戦後に再創業した日本の多くの会社が還暦を超え、自社の商品サービスも普及し、成熟段階や衰退段階を迎えています。当然、会社の役割や、強み弱みも変化しているはずです。個別産業や企業の状況を踏まえつつ、時代変化をふまえた「タテの戦略」の立案が必要だと考えます。
(松田久一)

タテの戦略を考えるときに必要な「時代をとらえる」とは具体的にどういうことですか。(2015/04)

時代を鳥瞰(ちょうかん)する目を養って、自身を相対的に見る習慣を付けてください。

<著者からの回答>
 時代とはある視点からまとめて捉えられる時間的区間のことです。経済でいうと経済成長率の程度のまとまりで時期を区分するということです。具体的には、戦後復興期、高度成長期、安定成長期、バブル経済期などです。

 時代をとらえることが、タテの戦略を考えるときのカギになります。その時代の消費、業界、企業の状態などから、どういうまとまりで時代をとらえるかは、少し練習が必要です。その時代のとらえ方によって、戦略の方向性も変わります。例えば、自動車市場を考えると、日本では衰退産業ですが、新興国で考えた場合は成長産業といえます。

 馬具屋としてスタートしたエルメスは、馬車の時代が終わり、車社会がやってくると予測して、バッグなどの高級革製品を中心としたラグジュアリーブランドへと変化しました。一方で、三越は大衆社会の時代が来ると予測して、ターゲットを一部の富裕層から大衆へと広げ、百貨店へと脱皮しました。

 どのような時代認識をするかによって、その後の戦略は変わってきます。例えばユニクロはカジュアルファッションの時代が来ると時代を規定して、ユニクロの戦略を推し進めているといえます。

 このように時代を捉えるとは、自社の顧客や技術から一定のまとまりのある時期区分をすることです。そして、その独自の時代規定のうえで「タテの戦略」を組み立てることが大切です。時代をとらえることに、いわゆる科学的方法はありません。しかし、経験科学として時期区分することはできます。

 具体的な修練としては、経済史の年表づくりが挙げられます。また、ベーシックな社会史を学ぶことも有効でしょう。普通の人の暮らしぶりや消費を知るためには、弊社の消費社会白書などを見ていただくのもよいと思います。
 時代を鳥瞰(ちょうかん)する目を養って、自身を相対的に見る習慣を付けてください。こういったことを繰り返すことで、時代をつかむという感覚が自然と身についていくと思います。ドラッカーやガルブレイスは時代を捉える「名人」でした。
(松田久一)

企業の歴史を振り返るとき、情報がありすぎて何に注目すべきか判断がつきません。アドバイスをください。(2015/04)

情報を集めて整理するのではなく、問題意識をもって情報を収集することが必要です。

<著者からの回答>
 まずはその情報の出所に注目することが大切です。基本的には、第一次資料(大本の資料や原点、元の文献など)を重視すべきです。また、有名な企業や大企業であれば、米・ハーバードビジネススクールやヨーロッパのビジネススクールなどで作成したケーススタディがあります。それらを参考にするのも有効です。また弊社のホームページでも国内外の主要企業について年表や戦略をまとめています。

 一方で、自分なりの視点を持つことが重要です。売上や利益の変化や、経営者の交代などの変局点に注目するとよいでしょう。自分の中に問題意識がないと、多くの情報の中から、必要な情報を取捨選択することは大変です。

 例えばコダックの運命は1980年代にある程度決まっていたといえます。経営の専門家として同社に招聘されたフィッシャーが、会社が潰れていく土台を作り、株価が低迷し、リーマンショックによってとどめをさされた。この3つが変局点だったといえるでしょう。

 情報を集めて整理するのではなく、問題意識をもって情報を収集することが必要です。
(松田久一)

今と昔では、社会や経済の状況に大きな違いがあると思いますが、過去の戦略を学ぶことに、どういう意味がありますか。古くさくないですか?(2015/04)

文明、科学や技術は発達しましたが、根本的な人間行動はあまり変化していません。

<著者からの回答>
こういった疑問は当然のことだと思います。時代は、「光陰矢のごとし」、刻々と変わっていると思われているのが普通です。経営も、過去に囚われずに、朝礼暮改、時々刻々と変えていかねばならないというイメージが強くあります。

 他方で、過去のなかに未来を見るという歴史観があります。ドイツの哲学者、ヘーゲルの有名な言葉に「歴史は繰り返す」というものがあります。確かに、過去から学べることも多いことは事実です。事例研究は後者の立場です。

 人類が誕生して2万年ほどです。その中で、人間が生まれて、苦難危機を乗り越えて生き、子孫を残し、死ぬという基本は変わっていません。
 つまり、文明、科学や技術は発達しましたが、根本的な人間行動はあまり変化していません。従って、人間のつくる歴史は繰り返し、過去に未来を見ることができるという史観にも一理あります。究極の知識とは歴史であるともいわれます。

 本書で紹介したエルメスや三井呉服店(現・三越)と、現在の企業を比べてみても、直面する課題や危機への人間的対処にそう違いはありません。
 例えば、コンビニエンスストアはスタート時、独身の社会人男性をターゲットにしていました。そして、少子高齢化の最初のインパクトを受け苦境に陥りました。そして、試行錯誤のなかで、惣菜や弁当を拡充し、徐々に高齢者、中高年層へとターゲットを変えていきました。

 商品を変え、客を変えることで、現在の好業績の企業へと再成長しています。顧客志向を貫くことで危機を乗り越えてきたエルメスや三越の戦略のなかにも、現在の企業にも通用する危機の対処への教訓が生きているといえます。
(松田久一)

なぜ今、ビッグデータが注目されているのですか。(2015/08)

伝統的な統計学での「ゴミ」が、ベイジアン的な発想では「ゴミ」とは考えません。

<著者からの回答>
 ビッグデータとはテラ級のデータのことです。例えば、私の位置は24時間GPSで行動記録として捉えることができます。86,400秒ごとに私のロケーション情報がわかります。例えば、スマホや車を所有しているすべての個人の属性、時間、位置情報がデータとして保存可能です。想像を超えるデータ量です。可能になったのはストレージ技術とインターネットの普及によってです。このデータを処理できる分散処理システムと関連性を分析できるソフトウェアも開発されました。

 何か、凄いことができるのではないか、というのが「ビッグデータ」ブームです。もちろん、IT系の企業がプロモーションを組んで売り込んでいることもあります。

 さて、ここから個人的な意見になります。「ゴミからはゴミしか生まれない」と若いときにデータの分析にのめり込んでいた時代に教えられました。「ビッグデータ」は屑だという見方がひとつできます。他方で、「データは宝の山」だという見方もあります。誰かが「宝の山」を掘り当てるかもしれません。

 従って、一握りの企業、検索、ネット通販やWebサービスをする企業が、ビッグデータとAI(人工知能)の利用によって「宝の山」を見つけるかもしれません。しかし、多くの企業は難しいかもしれません。政府も税金を投入してビッグデータを経済予測などの分野で開発しようとしています。ただ、ビッグデータによる分析は、関連性が明らかになるというだけです。  

 例えば、ビッグデータの分析で「風が吹けば桶屋が儲かる」という関連性が見つかったとします。そして、風を気象情報から予測して、上場している「桶屋」の株を買うシステムを構築します。これは確実に収益をあげることができます。

 つまり、関連がわかれば利益に繋がる「刺激-反応系」のビジネスはあるはずです。しかし、多くの場合、関連性がわかっただけでは政策には繋がりません。人々が納得できる因果関係が必要になります。なぜ、風が吹けば桶屋が儲かるのだろうということになります。これはビッグデータではわかりません。

 繰り返されるIT業界での「MIS(マネジメント情報システム)」などのBUZZになるかもしれません。しかし、この開発を後押ししているのは、統計学が大きく変わっていることが背景にあるように思います。1000万人の意識を調べるのに、1000万人のうちの1000人を「無作為抽出」すれば、サンプリング誤差は数%内で何らかの支持率などが推定できるという伝統的な統計学(フィッシャー統計)があります。無作為抽出とは、1000万人のひとが同じ確率で抽出されることを保証する手続きのことです。これは実際には極めて、コスト高で複雑な手続きが必要です。しかも、プライバシー保護の観点から政府の法律にもとづく統計調査以外はほとんど不可能になりました。

 一方で、近年は、伝統的な統計学がよって立つ「大数の法則」や「中心極限定理」などの理論とは系譜を異にする「ベイジアン統計」が急速に普及し、さらに、数値計算の発展とともに大きな進歩をとげました。その結果、面倒な手続きよりも、検索ロボットを使って、ブログなどの書き込みを収集して、言葉の連関分析をして意識を探った方がいいよ、というようになってきました。これは、伝統的な統計学では「ゴミ」ですが、ベイジアン的な発想では「ゴミ」とは考えません。

 このような統計調査の変貌と統計学の転換が、ビッグデータブームを支えているような気がします。
(松田久一)

スマートフォンやタブレットが消費者の購買行動に与えたインパクトは、どれほど大きいものでしょう。(2015/08)

これからのマーケティングは、この消費行動の二面性に着目していく必要があると思います。

<著者からの回答>
 単純には、ネットショッピングへのシフトやメディアのSNS化などが考えられるでしょう。現実の購買行動がネット化したということでしょう。

 ただ、本質的な影響は、消費行動が極めて情報依存的になったということです。情報がなければ、何かを買ったり、どこかへ行ったりできなくなったということです。そのことによって、生活における情報処理の負荷と時間が圧倒的に増えたことです。つまり、消費行動が、時間のかかる、作業的な情報依存的な合理的行動になったということです。他方で、瞬時に行われ、感情を刺激する直感的な非合理的な衝動行動することの重要性も再認識されたのではないかと思います。

 これからのマーケティングは、この消費行動の二面性に着目していく必要があると思います。
(松田久一)

ECが増えると、リアルのお店はどうなってしまうのですか?今後、買い物はすべてネットに置き換わってしまうのでしょうか。(2015/08)

むしろ、相互補完的なものになっていくと思われます。

<著者からの回答>
 ネットの買い物経験が増えてくると、決まったもの以外は、リアルの小売店よりも時間も手間もかかります。従って、主婦の方々の生鮮三品を中心とした食品はネット化が進むのに限界があると思います。むしろ、相互補完的なものになっていくと思われます。商品によって、リアル店舗で現物を確かめてネットで購入する「ショールーミング」型と、逆に、ネットで調べてリアル小売で買う「ウェブルーミング」型へと分化し、全体として融合していくと思います。
(松田久一)

紙削減といって、iPadを導入しましたが、その方がコストがかかっているように思えますが、どうでしょう。(2015/05)

問題は、コスト削減を目的にiPadを導入することの合理性と効果の問題です。

<著者からの回答>
 会社は、コスト削減が必要です。会社のコストはすべてが顧客に支払って頂く対価になりますので、無駄なコストは無駄な対価を頂戴していることを意味します。会計制度そのものは厳格なプロテスタント的な倫理観から生まれていますので尚更です。

 問題は、コスト削減を目的にiPadを導入することの合理性と効果の問題です。会議資料など紙の使用量が問題なのであるなら、無駄な紙を減らすために何をすべきかを検討すべきでしょう。GE(ゼネラル・エレクトリック)では、事業戦略は1枚の紙にまとめることがルールだといわれています。無駄な紙を減らす、そして電子化を考える。目的合理性を考える必要があります。

 戦略とは目的と手段を一致させることが基本中の基本ですが、目的を忘れて手段が一人歩きを始めると、組織が硬直化し、官僚化していくというのは、よくあることです。
(松田久一)

新入社員が、LINEを使って業務連絡をしてきて、困っています。(2015/05)

「最近の若者は・・」というご質問でしょうが、これは会社の業務規則の問題です。

<著者からの回答>
 「最近の若者は・・」というご質問でしょうが、これは会社の業務規則の問題です。LINEを使うことによって、プライバシーなどの就業規則などに違反しないか考える必要があります。社内ではなく、社外ならば会社の就業規則で利用できない旨を説明する必要があると思います。

 多くの企業の業績悪化は、戦略と組織に問題があります。昔は、長い時間の共 有によって「体で覚えた」「あ、うん」の呼吸で動けた強みが日本にはありました。そもそもコミュニケーションには時間がかかります。「あ」と言えば「うん」と部下や同僚が動いてくれたのですから、こんなに効率のいいことはありません。

 「あ、うん」システム育ちは「報・連・相」を部下がしてきたら相当にイラつくでしょう。しかし、もはや「あうん」システムはなくなりましたので、逆に、LINEのようなITを利用した「あうんシステム」が必要なのかもしれません。
(松田久一)

会社が早期退職希望者を募集しはじめました。これまで会社に尽くしてきましたが、モチベーションが一気に下がってしましました。(2015/05)

会社が方向転換する時は、「サシミ(3・4・3)」というルールがあります。

<著者からの回答>
 会社に対して忠誠(ロイヤリティ)を感じ、高いモチベーションで仕事することはいいことです。自分に人的資本が蓄積し、やり甲斐を感じるからです。確かに、早期退職募集は、忠誠心を低下させ、やる気を削ぐと思います。

 会社は、経営危機に陥った際に、人的資本蓄積が高く、会社に忠誠心を持ち、高いモチベーションで仕事をする人材を必要としています。しかし、そんな社員を識別する方法はないのです。そこで、早期退職募集という「シグナル」を発して、社員自らの「自己選抜」で優秀な人材だけを残そうとします。

 従って、早期退職に応じた方が、メリットがあると判断すれば早期退職に応じ、納得できる金銭を得るべきですし、残った方が自分の人的資本が蓄積でき、よりやり甲斐のある仕事ができると感じたら残るべきでしょう。

 会社が方向転換する時は、「サシミ(3・4・3)」というルールがあります。これは、方向転換についてくるのが3割(「さ」)、どうでもいい、もしくはどっちにつくか決めかねているのが4割(「し」)、反対(「み」)を意味します。時間がたつにつれ、真ん中の4割がどっちにつくかを決めていきます。

 会社の打ち出す戦略と組織の動き、そして、自分の利害とマインドを踏まえて判断して下さい。
(松田久一)

システム会社に勤務しています。最近インド人スタッフがチームに加わったのですが、食べられないものがあったりして新年会なども気を使います。(2015/05)

雇用契約や就業規則で規制したり、双方の同意がなければ宗教的なバックグラウンドを無視することはできません。

<著者からの回答>
 組織が国際化すれば仕方がありませんし、多文化化することによってのメリットも生まれてきます。気持ちとしては、「郷に入っては郷に従え」という考え方があります。従って、日本流に慣れろ!ということはわかります。しかし、雇用契約や就業規則で規制したり、双方の同意がなければ宗教的なバックグラウンドを無視することはできません。
(松田久一)

お薦め書籍

フィリップ・コトラー「マーケティングマネジメント」
(プレジデント社、現在は丸善出版から第12版が出版されている)

マーケティング研究の第一人者コトラーによる代表作。マーケティングの役割や戦略的プランニングについて解説している。世界中の...(続きを読む)

大前研一「企業参謀」(講談社文庫)

日本に、アメリカスタイルの戦略的なコンサルティングを紹介し、コンサルタント業界の先駆者となったのが大前研一である。その...(続きを読む)

M.E.ポーター「競争優位の戦略」(ダイヤモンド社)

アメリカのコンサルタントが経験的に活用していた概念や枠組みを体系化し、経営戦略論を事業の競争戦略論として、前著の...(続きを読む)

カール・シャピロ、ハル・R・バリアン 「ネットワーク経済の法則」
(IDGコミュニケーションズ)

この著作は、インターネットの普及によって、経済学が仮説演繹的に明らかにしてきた原則がどう変わるかを論じたものである。ミクロ経済の...(続きを読む)

Jean Tilore, Jean-Charles Rochet, 「Two-sided Markets: An overview」, JEL

この論文の著者のひとりであるジャン=ティロールは、日本では一部の産業組織論の専門家にしか知られていない。しかし、2014年には、ノーベル...(続きを読む)

P.F.ドラッカー「現代の経営」(ダイヤモンド社)

世界中で読み継がれてきた経営学の古典。経営者のすべきことが書かれている。経営者が何を考え、何をすべきかを真剣に研究したのが...(続きを読む)

ハーバード・A.サイモン「システムの科学」(パーソナルメディア)

いわゆる意志決定アプローチの先駆者である。経営を人工知能で行わせるためには、意志決定をシステム化しなければならない。その...(続きを読む)

クラウゼヴィッツ「戦争論」(岩波文庫)

戦略論の原書と言ってよい。敵国などのライバルに勝って、政治目的を達成するという思考は、古代からあったものではない。それを...(続きを読む)

オクターヴ・オブリ「ナポレオン言行録」(岩波文庫)

「戦争は自然の状態である」、「軍学とは与えられた諸地点にどれくらいの兵力を投入するかを計算することである」。同書では、脳を震撼...(続きを読む)

司馬遼太郎「坂の上の雲」(文藝春秋)

四国松山出身で日露戦争において活躍した秋山好古、秋山真之の兄弟、文学の世界で大きな足跡を残した正岡子規の3人の...(続きを読む)

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 マーケティング研究の第一人者コトラーによる代表作。マーケティングの役割や戦略的プランニングについて解説している。世界中のビジネスマンやマーケティングを選考する学生らの間で読み継がれている。コトラーのマーケティングテキストは、法律や判例にともなって毎年改訂される「六法全書」のようなもので、常に最新の事例と概念的な整理がされている。

 日本に、アメリカスタイルの戦略的なコンサルティングを紹介し、コンサルタント業界の先駆者となったのが大前研一である。その処女作といえるのが本書である。ここには、コンサルタントのビジネスの考え方、問題解決の仕方など戦略的思考について展開されている。長期収益、年功序列、従業員本位などの「日本的経営」の全盛時代に、短期収益、実力主義、株主本位の経営の論理、「資本の論理」を徹底した内容。ヨーロッパ的な社会科学的な知識や教養は顧みられない。当時のドラッカーに心酔していた経営者には衝撃的な内容。企業での中期経営戦略計画や事業ポートフォリオ管理などの方法についても紹介。よくも悪くもコンサルタント業界のスタイルや発想法がすべて詰め込まれている。

 アメリカのコンサルタントが経験的に活用していた概念や枠組みを体系化し、経営戦略論を事業の競争戦略論として、前著の「競争の戦略」を組み込んだ集大成。企業の収益は、業界構造と業界での競争地位によって決まる。従って、会社が収益を上げるには、業界を魅力的なものに変容させるか、ライバルとの競争の巾や競争優位の方法を変え、それを実現する9つの活動からなる価値活動を変えることである。ポーターの競争戦略論では、ライバルにコストで勝るか、差別性で勝るかを明確にし、ライバルの真似のできない活動を構築、実行することが、高収益性に繋がる競争優位の鍵となる。競争戦略論の体系書である。
 ポーターの研究は、ミクロ経済学を基礎にした産業組織論の実証分析からスタートし、多くの事例研究を踏まえて、戦略構築の理論を組み立てている。従って、経済学と競争戦略論との整合性はうまくとれている。ポーターの著作の翻訳は、難しく、誤訳もみられるので、原著を読んだ方がいい。ポーターの明解で無駄ない文章はとてもわかりやすい。

 この著作は、インターネットの普及によって、経済学が仮説演繹的に明らかにしてきた原則がどう変わるかを論じたものである。ミクロ経済の原則は何も変わらないというのが結論である。例えば、情報の価格はどうなるのか。製品の場合は、参入企業が多数で自由競争すれば、市場価格は「限界費用」に一致する。これは、幾つかの公理のうえで導かれたミクロ経済学の命題である。バリアン等は情報も同じだ、という。しかし、情報は、「限界費用=ゼロ」である。つまり、デジタル時代の情報は、デジタル複写によって、ほとんどゼロの費用で生産できる。従って、そこに何らかの制限を加えなければ、情報の価格はゼロになる、という。従って、「スイッチングコスト」、「ロックイン」、「標準化(デファクトスタンダード)」等の仕組みがないと収益をあげることはできないと指摘する。

 この論文の著者のひとりであるジャン=ティロールは、日本では一部の産業組織論の専門家にしか知られていない。しかし、2014年には、ノーベル経済学賞を受賞している。ティロールの「The Theory of Industrial organization」はグローバルな大学院修士レベルの標準的な教科書といってよい。彼の業績は産業組織論の研究にゲーム理論を取り入れて再構築しただけでなく、「二面市場」という新しい市場の捉え方を提示することによって、「プラットフォーム競争」を基礎づけたことである。このことによって、単なる製品競争ではなく、パソコンの「オペレーションシステム」、ゲーム機やグーグルなどの検索市場の競争に新しい分析の視点を与え、市場寡占化のメカニズムを解明できるようになった。ポーターの市場と産業分析が、古典的で一面的な市場の枠組みであるのに対し、ティロールは市場の多面性と競争における関与者の重要性を強調した。
 現代経営の本質は、売り手の提供する製品やサービスや補完的製品やサービスをライバルよりもうまく、買い手である多様なユーザーとマッチングする規格、仕組みや枠組みなどのプラットフォームを提供することにある。そして、多様なユーザーと多様な提供者との関係が、相乗効果を生む「ネットワーク外部性」が強く生まれると、より独占性や寡占性が強まり、企業の収益性は高くなる。このような経済生態系を生み出すことが現代の経営である。もはや、ポーターの描く製品単体を基軸にした競争は一面でしかない。
 「二面市場」や「プラットフォーム競争」を基礎づけ、現代のビジネスモデルの再発見につながる貢献をした論文である。ティロールの主著やこの論文もあまり翻訳されていない。また、多くが英文で発表され、フランス流の難解さはある。しかし、数式がわかれば議論はわかりやすい。

 世界中で読み継がれてきた経営学の古典。経営者のすべきことが書かれている。経営者が何を考え、何をすべきかを真剣に研究したのがドラッカーである。目次を頭に入れておいて、必要な際に取り出して詳細を読めばよいと思う。
 バーナード「経営者の役割」(ダイヤモンド社)は実際の経営者の書いた本である。実務家とは思えない体系性を持っている。経営組織の基礎理論を紹介している。ゴードン、デール、ホールデンなどの実証的研究に対して、サイモンとともに理論的研究を展開。この本を読むと経営はつまらないと思う。

 いわゆる意志決定アプローチの先駆者である。経営を人工知能で行わせるためには、意志決定をシステム化しなければならない。その貢献と挑戦でノーベル経済学賞をとった。ゲーム理論と並び、経営の基礎分野の知識として読めばいい。

 戦略論の原書と言ってよい。敵国などのライバルに勝って、政治目的を達成するという思考は、古代からあったものではない。それをある程度意識したのは、マキャベリであり、市民革命期のナポレオン戦争以後の戦争論を体系化したのは、プロイセンの軍人、クラウゼヴィッツである。本書は、ナポレオンとの長い負け戦のなかで書かれた断片を、クラウゼヴィッツの死後に妹によって編集されたものだ。ロシア革命を主導したレーニンは、これを絶賛し、戦争論の対外戦争の論理を政府に対する内戦と読み変えて、革命戦争を勝利に導いた。
 その結果、「社会主義者」から高く評価され、「弁証法」というレッテルを貼られ、長い間、神秘のベールを被されてきた。戦前には一部が森鴎外によって翻訳されている。
 この戦争論の本質は、戦争とは何か、そして、戦略とは何か、を明確にしたことである。文庫版では「上篇」ですべてが言い尽くされている。戦争とは、「政治」、「暴力」、「摩擦」の3つの「三位一体」であるという。「三位一体」とは何か。これは、ヨーロッパの「一神教」に由来し、カントの影響らしいが、「不可分の3つの側面を持つ」程度の意味である。戦争とは、政治目的の継続であり、その本質は暴力によって自ら意志を貫くことであり、その勝敗には偶然が大きく左右するということである。戦略とは、政治目的を達成するための個々の戦闘をどう遂行し、運用するかということである。ナポレオンとの戦いで敗れ、敗走する中で、日記のように書き綴られた著作である。戦争には、勝利の方程式などない、ということが貫かれている。戦争を一貫した合理性によって思考した著作だ。アメリカは、ベトナム戦争を敗北し、湾岸戦争によって再び復活したが、その際の教訓となったのが本書である。目的達成のための合理的思考としての戦争戦略論の体系である。私見だが、ポーターの1980年代初頭の「競争の戦略」の構成は、戦争論の構成に類似している。ちなみに、クラウゼヴィッツ研究はアメリカがもっとも進んでいる。

 「戦争は自然の状態である」、「軍学とは与えられた諸地点にどれくらいの兵力を投入するかを計算することである」。同書では、脳を震撼させる箴言が続く。「8 戦争について」は指導者のバイブルである。
 ナポレオンが書き残した手紙、布告、戦報などから、意味深く、興味をそそる文章を年代順に記したもの。波瀾に富んだナポレオンの生涯が描き出されている。

 四国松山出身で日露戦争において活躍した秋山好古、秋山真之の兄弟、文学の世界で大きな足跡を残した正岡子規の3人の男達を中心に、明治維新で近代国家の仲間入りをした日本を描く。司馬遼太郎の大河小説の中でも特に評価が高く、社会人をはじめとした多くの人に読まれている。
 塩野七生の「ローマ人の物語」と並び経営者が必ず推薦する本である。理由は、司馬遼郎の書くスタンスにある。「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」。この司馬さんの書いている目線。なんと「上から目線」だろうか。地上で起こっている様々な現象を、空を飛ぶ鳥の目線から見た鳥瞰図でもある。これは、市場、ライバル、自社を冷静に見て、戦略を決定しなければならない経営者視点と同じである。実際、このような上から目線は、学校教育では身につかない。それが経営者の薦める最大の理由だと思う。
 この小説は、念入りに調べられた史実を基にして、描かれている。司馬さんを通じて、戦況の分析、戦略論や組織論が語られる。しかし、司馬さんは、どこからこのような戦史評価や戦略観を身につけたのだろうか。恐らく、司馬さんは戦車部隊にいたが、階級から戦略教育は受けていない。従って、戦後、改めて谷寿夫「機密日露戦史」などの陸軍大学校や参謀の分析や評価を読み、その影響を大きく受けている。それが、乃木希典の過小評価、児玉源太郎の戦略立案能力の過大評価、秋山真之の神秘的な天才という過大評価に繋がっているように思う。乃木の指揮官としての兵士の精神諸力を引き出す強さ、児玉の無謀な奉天会戦で包囲戦、マハンに学んだ秋山の戦略観のなさが気になる。いい意味でも、悪い意味でも、戦史に学ぶ戦略経営の入門書としては面白い。