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中国高級車市場
レクサス始め日系車メーカーの攻略はいかに
楊 亮
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 20年前、ケンタッキーフライドチキン(KFC)で食事をすることはお金持ちのシンボルだった。ケンタッキーフライドチキン(KFC)が北京で初めて店をオープンした頃、あまりに値段が高いため、ファストフードとしてではなく、若者のデートの場所として使われた。そこで食事をすることは当時のお金持ちのシンボルでもあった。その後時代が変わるとともに、富裕階級、成功者の社会シンボルもペット、車、高級マンション、海外旅行へと変化してきた。今回はその代表商品ともいえる車について現在の市場動向を紹介する。

 いま中小都市でも起きているマイカーブームは、中国の車社会への移行を後押ししている。近年、中国自動車市場では低中級車種を中心に、激しい価格攻防が繰り広げられている。国産メーカー各社は販売台数が伸びても、収益が低減するという問題に直面している。しかし一方で、高級車の需要は安定的に拡大している。中国富裕層の高級車に対する熱意とそれを求める意欲の高さはこれまでしばしば海外高級車メーカーを驚かさせた。年間生産台数が4,000台しかないフェラーリ車は、中国での販売価格が300万元(約4,500万円)以上するが、年間の販売台数は100台にも上っている。「アウディA8」は全世界で180台しかないと言われているが、中国でその三分の一を売っている。ベンツの新型「S600」も中国での販売量は全世界の2割を占めている。ベンツの最上級車「マイバッハ」は、輸入関税などが課されるため中国での値段は600万元(約9,000万円)に跳ね上がったにもかかわらず、北京市場に投入してから3ヶ月間で7台も売れた。通常高級車の収益は普通乗用車の3倍と言われるため、外国高級車メーカーは、いま高級車市場において成長著しい中国に注目している。

 中国で高級車は30万元(約450万円)以上の車として定義されている。2005年の中国高級車市場の主役はやはり欧米系のベンツ、アウディ、BMW(中国では"宝馬"と呼ばれている)であった。
 アウディとBMWはすでに中国国内の車メーカーと合弁会社を設立し、現地生産している。2005年上半期において国産高級車の販売は好調で、アウディとBMWの中国国内販売台数(輸入車を含めて)はそれぞれ1万7,000台、9,400台となっている。
 その反面、輸入車市場は、輸入関税が大幅に下がったにも関わらず、年間ベースで輸入高級車は35%減と大幅に低下した。この背景として主にふたつの理由が考えられる。ひとつは、外国メーカーによる新車種の現地生産化が早まったことで、国産高級車の競争力が高くなったことがある。例えば国産高級車市場において高いシェアを占めるアウディは、従来古いモデルだけを中国で生産していたが、高級品志向の強い中国顧客を獲得するため、2005年には欧州市場の最新「A4」、「A6」モデルの中国での製造を開始した。そのために新車種の国産化タイミングに合わせて、それより3年も前から現地での商品の研究開発体制を作った。
 ふたつめは、税の支払い方法の変更である。中国政府は高級車の輸入業者に対して輸入車一台につき、それまで販売した後に支払う関税などを事前に支払うことを義務づけたため、輸入業者は資金の面で圧迫される格好になり、在庫を消化することに注力し、新たな輸入は積極的に行わなかった。

 しかし、輸入高級車が全体的に低迷している中、ベンツは不動の強さを見せている。2005年上半期中国国内での販売台数は8,000台にのぼり、前年同期比で17%も伸びた。さらに今後中国市場で国産アウディに対抗するため、北京でベンツを国産化すると発表、2005年8月に北京汽車との合弁会社「北京・ベンツクライスラー汽車」を設立した。同年12月22日には初の国産ベンツの販売を開始、現地生産で最初に導入したモデルは「E280」と「E200K」である。ベンツの中国現地生産の開始により、中国市場の国産外資高級車の競争はますます激しくなると思われる。

 2005年、欧米系が主導する中国高級車市場で変化が見られた。それはトヨタの高級車「レクサス」の中国での販売開始と国産クラウンの好調など日系車メーカーの台頭である。レクサスが中国市場への正式な進出を決めたのは2004年であった。2005年3月から北京、上海、広州、深セン4都市にある専門販売店6店舗がスタートし、半年で販売台数は合計で目標の1,500台を上回る2,000台を超え、幸先いいスタートを切ったといえる。


 アジアでは高級車は身分の象徴とされるため、高級車ユーザーは欧米よりもっと高いサービスを要求する傾向がある。そのため中国レクサス専門店は欧米市場より高いレベルで設計されている。写真は北京にある「広通レクサス専門店」である。敷地面積は1万7,000m2、建築面積は6,000m2である。24時間のアフターサービスと4年間/10万キロの無料保証制度を提供することによって、部品、メンテナンスコストの高い輸入車メーカーの中で、差別化を図ろうとしている。トヨタはこのような専門店を2006年までに中国で14店舗展開する予定である。

レクサス輸入車と中国の国産欧米高級車の
価格比較表
 さらに、トヨタはクラウンの天津での現地生産に踏み切った。クラウンは中国で高級公用車ブランドとして長い歴史があるが、対抗するアウディの公用車モデルを抑えるためである。7モデルを一気に投入し、初年度は2万3,000台の販売目標を設定した。事前の政府との交渉が成功したことから、クラウン「3.0L」は2005年2月に市場に投入してから僅か7ヶ月で販売台数は1万6,356台となった。

2005年日本超高級車輸入状況
 トヨタ以外の日本メーカーも高級車チャネルを中国で展開する戦略を採用し、ホンダは2006年「アキュラ」、日産は2007年「インフィニティ」をそれぞれ中国市場に投入する予定である。

 高級車市場とはブランドの競争である。日系車メーカーは早期に中国に参入した欧米系を相手に、まだまだブランド力が弱く、そのブランドを浸透させるには時間がかかる。日本の高級車市場も欧米系メーカーの独壇場となっており、日本メーカーが逆襲を図ってはいるものの、その牙城を切り崩すには至っていない。日本市場の今後を占ううえでも中国市場での展開が注目される。レクサスは中国でプレステージブランドとして成功できるかどうか、これから検証されるだろう。

(2006.01)

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