不況よりも怖い「嫌消費」世代の登場

2009.10 代表 松田久一

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 「ガムを噛むのは疲れる、ビールなんて苦くて飲めない、薄型テレビなんていらねえよ、ワンセグで十分じゃん、地下鉄があるのに車を持つなんてバカじゃないの、ローンを組んでまで買うなんて考えられない」。こんな発言をする若い世代が消費市場の主役として登場してきました。

 不況で収入が減って売れないのは当たり前です。従って、景気が回復して、収入が増えればまた売れ始めるかもしれません。しかし、売り手にとって、本当に脅威なのは、消費そのものが嫌いで、節約疲れとは無縁の若者たち、つまり、「嫌消費」世代の登場です。

 彼らは、バブル崩壊を感受性豊かな小学生で体験した八〇年代生まれの若者たちです。彼らは収入が増えても支出を増やす意欲を持っていません。この世代はこれから結婚などの家族形成期のライフステージを迎えます。このステージは、自動車、家電や家具、海外旅行や住宅などの選択的耐久消費財やサービスの需要が期待される時期です。しかし、この世代のこうした商品サービスへの関心は依然として低いままです。

 この理由は、非正規雇用が多く、収入が低いことが主因だと考えられがちですが、実際はそうではありません。正規雇用率、賃金水準や賃金上昇率は他世代に比べて必ずしもよくないとは言えません。むしろ、好条件かもしれません。問題は、彼らの時代体験から生まれる共通の世代心理やものの見方にあります。売れないのは不況で収入が減っているせいだけではありません。世代への対応が十分ではないからです。この世代の人口は少ないですが、次第に上下の世代に共鳴者を増やしています。消費好きのアメリカ人にも共感が広がり、「オタク文化」に次いでグローバルトレンドになる可能性さえ持っています。

 彼らに売りの説得をするにはどうしたらいいでしょうか。彼らは、他のどの世代よりも、仲間から「スマート」だと思われたいと思っています。逆に、彼らが一番嫌がるのは、友達からバカにされることです。彼らにとって他人にバカにされることは、子供時代に苦い経験を持つ「イジメ」と同じです。彼らは、他の世代よりも、早く出世し、お金持ちになりたいと思っています。なぜでしょう。彼らが拝金主義だからではありません。友達より、「上」を行けばイジメに遭うことがなくなる、と思っているからです。従って、他人から「割高」だと思われるようなブランドや商品サービスは、いくら欲しくても選択から外されてしまいます。彼らへの売りの説得にはまずは「スマートな選択」だと感じて貰えることが重要です。

 メリーゴーランドに乗ったような眼の回る「乱世」です。目先を見ていては変化に振り回されてしまいます。こんな時は遠くを見るのがいいようです。世代論は時代の少し先を見るツールです。皆さんの「売る」悩みに少しでもお役に立てればとまとめました。是非、ご一読下さい。

[2009.10 MNEXT]

書籍イメージ

2009.11 東洋経済新報社 発行
定価 1,500円+税

「嫌消費」世代の研究

独自の大規模調査をもとに、若者の「買わない心理」の深層に迫る。

「クルマ買うなんてバカじゃないの?」
若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、大規模な統計調査とインタビュー調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。 「世代」という観点から市場を捉え、世代論の手法で将来を遠望した一冊。