戦略を読む
競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案 (要約版)

1999 代表 松田久一

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本コンテンツは、メンバーシップサービス限定コンテンツ「競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案[完全版]」からの抜粋版となっております。

 顧客への価値提供の理念を実現するには、市場で競り勝って、競争に勝利せねば実現できません。グローバルな自由競争の時代、収益向上の鍵のひとつは競争戦略の立案とその実行にあります。市場で売りの完結によって競合企業の競争力を低下させ、自社の市場支配を確立する戦略の原則と手法、そしてデータを提案します。

 グローバルな利回りの時代、収益性を高めなければいかなる企業も生き残れません。一方で、企業収益に大きな格差が生まれています。なぜ、市場の成長性が低下しているなかで収益格差が生まれているのでしょうか。それは企業競争の結果です。市場で競争相手と競り勝って顧客との取り引きに成功し、その個別の勝利の積み上げによって収益はあげることができます。競争に負けている企業は、競合企業が自社に攻撃をかけていることを知らない、あるいは知っていても戦略がない、戦略があっても動けないなかで、競争に負けて収益を低下させているのです。泣きをみている企業はたくさんあります。

 利益の源泉は、顧客、競争、内部コストの三つです。しかし、現実は、内部コストの削減に終始し、競争力を低下させ、顧客を失っています。競争に負けているのに、内部コスト削減にしか収益の源泉に着目しない企業と競争戦略を明確にもった企業との差は一目瞭然です。どうしようもない格差が生まれていると言えます。

 この論文のねらいは、競合企業の分析手法を紹介し、その分析を通じていかに競合企業の「戦略を読む」かです。そして、いかにより賢明な競争戦略を立案するかを提案することにあります。

01

戦略とは何か

 戦略とは何か。戦略とは、企業目的である企業理念を達成するために、企業が成し遂げようとする市場支配システムの運用の術と定義することができます。

 戦略を読む、とはどんな市場支配のシステムを運用しようとしているかを分析することにあります。

 企業は顧客に価値を提供するためにいろんな活動をしています。この活動は大別して大きく二つに、また細分化して九つに分類することができます。ひとつは主活動と呼ばれ、具体的には、購買物流、製造(オペレーション)、出荷物流、販売マーケティング、サービスです。もうひとつは、支援活動と呼ばれる調達活動、人事労務活動、技術開発、全般管理などの四つの活動です。競争をするための競争力はこれら九つの活動によって形成されています。この九つの物理的な活動と企業の文化的精神的側面が一体となって、競争力を形成しています。

 戦略とは、この競争力を実際の市場競争にどう生かし、運用しようとしているのかと言うことです。競合企業の戦略を読んで自社の戦略に反映させるステップは以下のとおりです。

【1】 競合企業を選定する
【2】 競合企業の行動史から活動を分析する
【3】 競合企業の強みと弱みを分析し、解釈する
【4】 将来の行動を予測し、競争戦略を立案する

 最初に、競合企業の選定があります。実はこれがもっとも困難な作業です。

 企業は自社独自の価値を提供していると思いこんでいますので、競争相手がいくら自社のシェアを奪っていても自社は自社ということになりがちです。特に、経営トップにこういう考え方が多いのはやはり企業理念の重要性を認識しているからです。しかし、その理念が、売上、利益などの経営目標になり、その実現には、手段として、市場の競争を通じてしか実現できないのだということの理解が足りないために起こります。自社の商品サービスがどの会社と比較検討されて購入されているのか、その比較され、勝ったり、負けたりしている企業が競争相手です。

02

行動史を読む-時系列活動分析表の作成

 行動から戦略を読むとは、具体的には、時系列別に、先に分類した九つの活動ごとに企業の採った行動を整理、精査することです。情報源は、新聞記事、有価証券、雑誌記事や単行本などです。5W1Hとして事実を正確に整理することが第一です。

 「時系列活動分析表」が十分信頼できるものとして完成したら、どんな戦略を採ってきたのかを解釈していく必要があります。この解釈のねらいは、将来の行動を予測することです。解釈のポイントは四つです。

【1】 時代・社会変化への対応をどのようにしてきたか
【2】 企業収益の起伏で何をしてきたか
【3】 競争企業に対してどう対応してきたか
【4】 トップの人事交代はなぜ起こったのか

 これらを解釈していくことによってひとつの対象企業の戦略がどのように生まれ、どのように変遷してきたかという戦略仮説が形成されてきます。この仮説を史実のなかで多様な条件のもとで検証します。これにはかなりの経験的知識が必要ですが、多くの人と議論することによって収斂されていきます(図表1.2)。

図表1.ソニーの時系列活動分析表
図表
図表2.ソニーの売上と営業利益の推移
図表

03

強みと弱みを分析する

 時系列活動分析表から現在の戦略が過去の行動のもとで分析できれば、次は、競合企業の強みと弱みの分析に移ります。強みと弱みと言う観点は、事実に裏付けられた完全な解釈の問題です。どこが強みでどこが弱みなのか、それを価値活動表のなかに明確にしていきます。強みの見つけ方のポイントには以下のようなものがあります。

【1】 成功のパターンは何か
【2】 九つの活動のどこに資源(人、物、金)が集中しているか
【3】 九つの活動で独自のやり方、システムは何か
【4】 九つの活動がどのような相互関係をもっているか

 これらが理解できたら、事実を抽象化して、強みを概念化して理解しなければなりません。弱みの分析は強みが整理できれば実は簡単です。強みと弱みは、丁度、コインの裏と表の関係になっているからです。どこかに集中して資源投下をしているということは、他の分野が疎かになっているということです。従って、強みの分析ができれば弱みの分析ができます(図表3)。

図表3.ソニーの強みと弱み-価値活動分析表
図表図表

04

競争戦略の範囲とその立案

 時系列活動分析表によって現在の戦略を明らかにし、価値活動分析表によって競合企業の強みと弱みが分析できたら、今度は自社の競合企業への攻略、すなわち競争戦略を立案しなければなりません。そのためには、競合企業を分析したものと同じ手法を自社に適応して分析しなければなりません。

 自社の分析ができたら、次のステップで、競争戦略を立案していきます。

 競争戦略を組み立てていく範囲と順序は以下のとおりです。

【1】 市場の選択
【2】 市場支配(勝利)パターンの選択
【3】 資源の集中
【4】 作戦計画の作成
【5】 組織・予算への反映
【6】 成果のモニターと修正

 戦略立案の目的は、自社の顧客への価値提供の理念を実現するために、どのように競合に競り勝つかということです。そのためには、市場における個々の具体的な取り引きの場で売りを完結し、競合企業の競争力を弱めていかねばなりません。市場で勝利するということは、競合の競争力を自社よりも低下させることにあります。決定打は売りの完結です。競争の究極の目標は反撃のための競争力を喪失させることです。この目的―目標―手段関係を明確にしておく必要があります。例えば、「世界初」を標榜している競合企業に対して、「世界初」のタイトルを奪うことは競争力の精神的要素に多大の影響を与えることになります。もし、一回きりのタイトル奪取しかできないなら、相手が必死になって追撃している間に、他の市場を攻略することができますし、連続的に競争に勝てる見通しがあるならば、競合の競争力を支える精神的諸力を挫くことができます。競争力は、価値を創造していく活動に精神的諸力が化合されたものです。

 戦略は、競合企業と自社についての客観的な事実、それらの分析資料だけからは組み立てることはできません。原則と理論が必要になります。分析から戦略を創造することは不可能です。残念ながら、日本にはこのような経験科学に基づく原則や事例が豊富にあるテキストは存在しません。戦争についての知識や知見が嫌悪され、廃棄されているからです。この論文では戦略立案のための原則と理論を簡単に紹介してきました。

 大きなもの、数の多いものが競争に勝てるなら戦略は必要ありません。二五世紀に亘る戦争の歴史と三世紀の企業経営の歴史は、経験的知識である戦略の如何によって成果が大きく左右されるという事実を物語っています。戦争と経営は「暴力の使用」という点においてはまったく異なるものですが、組織化された競争活動という点においては共通性をもっています。競争を成功に導くための行動を規制する法則はありませんが、行動の参考とすべき原則はいくつかあります。

 競合分析からより賢明な競争戦略を立案されることを期待します。戦略には正しい、間違っているという評価はできません。ただ、賢愚の差があるだけです。

 また、より賢明な戦略立案のために、みなさんの資料収集の手間と時間を省き、継続的に競争戦略を立案するためのデータベースの提供を開始しますので、自社及び競合企業分析にご利用頂くようお願い申し上げます。尚、この分析は公刊された資料だけに基づくものです。

[1999 J-marketing.net]