不況で伸びる会社がある。不況は、一般には会社に需要の減少をもたらし、結果として売上げと利益の減少をもたらす。しかし、これは約430万社ある会社の統計的な平均である。従って、平均よりも厳しい会社もあれば、業績を伸ばす会社もある。
2008年度の日本経済は、2002年からはじまった戦後14番目の循環の長い上昇局面が終わり、下降局面に入った。1991年のバブル後では3度目の不況である。この不況を、53社の日本を代表する消費財メーカーはどのように乗り越えたのか。業績を調べてみるといくつかのことがわかった。
大方の予想通り、3度の不況とも減収減益の会社が非常に多くなる。特に、1991年以後の約30ヶ月のバブル後の不況には、約51%も会社が減収減益に陥った。あの不況の厳しさを物語っている。続く1997年不況ではおよそ32%、2000年のITバブル崩壊にともなうデフレ不況では40%である。他方で、不況でも30%ほどの会社は確実に業績を伸ばしている。もっとも厳しかったバブル後不況でさえ、約28%の会社が増収増益を達成している。
このような格差はなぜ生まれるのだろうか。市場規模、成長率、成熟度、競争条件や技術条件の違いがあることは言うまでもない。しかし、これらの事例を分析してみると、むしろ、不況下にとった会社の行動の違いが業績の格差をもたらしているようだ。好況時は、市場の成長を前にして、自社もライバルも同じようなことをしている。同じような商品、品揃え、価格、売り方である。このような条件ではあまり業績に変化は見られない。つまり、ライバルと自社との力関係が均衡状態にある。
しかし、不況になると消費者は財布の紐を締め、需要家は予算を削減する。それにも関わらず、消費水準は落としたくないので、消費者の選択はより厳しくなる。他方で、自社もライバルも販売コストが限られてくるので、売る商品を絞り込み、売り方も集中しなくてはならない。つまり、消費者、ライバル、自社の三者がそれぞれこれまでのやり方を変え、市場の力の均衡が破られる。これが不況期に起こる。従って、消費者の変化にうまく対応し、ライバルよりも限られた資源を効果的に集中できた企業が大成功し、できなかった企業は脱落することになる。不況はライバルを引き離す絶好のチャンスであり、ピンチでもある。バブル崩壊から3度の不況で3度とも増収増益をあげてライバルを引き離した会社が3社ある。茶葉で差別化し、足腰の強い営業力を持つ「伊藤園」、品質とコストにこだわり続ける「キユーピー」、研究開発と資源集中のうまい「武田薬品工業」である。不況には30%の例外に入るための独自の強みが求められる。
[2009.01 日立SQUARE]