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戦略を読む
企業活動分析の活用のすすめ
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1.はじめに 戦略思考をどうやってみがくか
 この「企業活動分析の活用のすすめ」は、実務で自社の戦略構築に携わっている方、戦略思考を鍛えようとする方に向けて、当社メンバーシップサービスの「戦略200+・企業活動分析」をどのように活用していただきたいかを、お伝えするものです。
 当社のメンバーシップサービスでは、事実とフレームをもとに整理した100社の企業活動分析と、460を超える個別戦略ケースを閲覧することでができます。自分の経験は限られていますから、これら他者の経験と理論に基づいて整理された分析結果を自分のものとして利用し、戦略思考をみがいてください。
 戦略とは、「目的を明確にし、手段との関係を明らかにすること」であると我々は捉えています。会社の理念が目的であり、その目的を達成する売上などの目標があり、それを達成するための商品サービスの品揃え、マーケティングミックス、生産方法、研究開発などがある、というように目的手段関係は階層的に多様に連鎖しています。これらを結びつけるのが戦略思考であるといえます。「戦略」という概念は、戦争の歴史とともに発展してきました。「戦略」をめぐる戦争と経営には共通性があり、競争戦略のポーターをはじめとして現代の経営戦略論は軍事戦略を基礎として成り立っているといえます。 戦略思考をどうやって身に付けるか、その方法論について戦略家リデル・ハートが教えています。
 「愚者は体験によって学ぶという。私は他人の経験によって学ぶ」というビスマルクの言葉を冒頭に上げて、リデル・ハートは戦史を軍事教育の基礎とすることの合理的妥当性について述べています。彼はビスマルクの言葉を次のように解釈しています。
「実際的経験には、直接、間接の二種類があり、そのうち間接的経験はそれが無限に広いという点からはるかに価値がある」(リデル・ハート「戦略論」より)
 直接的経験の範囲と可能性は非常に限定されたものであるのに対して、多種多様の条件下における多数の人々の経験であるがゆえに、間接的経験の価値ははるかに大きいということです。
 我々が戦略志向を身に付ける、または戦略を学ぶためには、現代の企業間競争における他者の具体的な事例を間接的経験として取り入れることが必要であるのは、戦争と経営がともに経験的知識に基づく経験科学であるという共通性にあります。経験科学の方法は、直接的間接的経験から帰納的推論、仮説検証を通じて、原則を導出し、多様な条件に適応、応用していくことです。
 リデル・ハートからその方法について述べている部分を引用します。
「もしも同様な結果が基本的に同様な行動に続いて起こったときには、その行動の際の条件が性格・規模・日時の点で非常に各種各様であるとしても、われわれはそこに明らかに根底的な関連を認めるものであり、そこから「共通の原因」を論理的に抽出することができる。そしてそれらの条件が変化に富むものであればあるほど、その演繹した結論は強固さを加える。」
 この演繹した結論が「原則」と呼ばれるものです。
 戦略思考をみがくためには、歴史、戦史、事例に学び、組織的な人間的経験を積み重ね、理論を勉強して現実で検証し、経営トップの立場で思考実験を繰り返すことです。こうした自分の経験と他者経験を通じて、得られるものがオリジナルの戦略の原則です。

 企業活動分析は、時系列活動分析表、価値活動分析表、業績推移、の三つのパーツから構成されています。時系列活動分析表は、企業の活動を主活動と支援活動に大別しさらに九つに分けた活動(主活動:購買物流、製造(オペレーション)、出荷物流、販売マーケティング、サービス、支援活動:調達、人事労務、技術開発、全般管理)ごとに企業のとった行動を事実に基づいて時系列に整理、精査したものです(詳しくは「戦略を読む・競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案」参照のこと)。価値活動分析表は、当該企業の強みと弱みを九つの価値活動表の中に位置付けています。これは、時系列分析表の事実からの解釈によって生み出されます。
 戦略ケースは、個別企業の特定の問題に着目してどのように解決しようとしたのか成功事例、失敗事例を記述したものです。その時々の市場環境や業界事情があるのですぐさま自身の解決策にはなりませんが、似た課題や同じような状況が存在します。これら具体的な他社の事例を参照することで、解決策のヒントや切り口を得ることができます。

2.ひとつの試み-ブランド差別化のために何を考えるべきか
 モデルケースとして戦略ケースから課題を設定し、活動分析事例から解決策を導出してみます。
 ある自動車メーカーX社のブランドについて検討します。圧倒的な強者トヨタに対して、規模の違うX社は、限られた車種に集中して一定の成果を収めてきました。目下の課題は、来年モデルチェンジする自社2番手ブランドYの導入戦略をどうするかということです。Yは国内乗用車市場が伸び悩む中で、同じように売上が漸減していて、この機会に何とかてこ入れを図らねばなりません。自社のポジションからいって国内に集中して独自の差別化路線を追求するしかないと考えていますが、どのように差別化していったらいいのでしょうか。

(1)戦略ケースからのヒント(仮説)

 最近の戦略ケースの中から、差別化して成功した事例を探すと、「ミシンから情報機器への事業転換、崖っぷちからのV字復活をとげたブラザー工業(会員版戦略ケースはこちら)があります。このケースで描かれているブラザーの成長の軌跡を要約すると、
  1. 北米市場にFAXを投入、低価格化(標準品の半値)によって一気にシェアを拡大
  2. 小型の複合機に特化させてSOHOユーザーに浸透、欧米でHPにつぐ第2位のシェアを獲得
  3. 販売台数を拡大して消耗品で継続的に儲ける
  4. 北米、欧州、アジアと地域を拡大し海外で2桁成長、海外売上比率が65%を占める
ということです。
 はじめは低価格ということでSOHOユーザーに入ったと思われますが、そのニーズを深掘りして、小型複合機に特化して世界のSOHOユーザーに拡大して成功したと解釈できます。また不況の日本市場でなく90年代中ごろに海外市場で展開したことも成功の条件になっていると思われます。この成功によってミシンのブラザーからインフォメーション&ドキュメントカンパニーへと変貌を遂げました。今ブラザーは、この勝ちパターンを国内に展開しようとしていますが、成果はこれからです。
 また、花王の「健康エコナ参入!マヨネーズ戦争のゆくえ(会員版戦略ケースはこちら)は、マヨネーズ業界でシェア60%を超える強者キユーピーに対して花王が異業種から参入して挑戦したケースです。エコナは99年に食用油に参入し既に実績を作っていますが、2002年9月に「健康エコナ マヨネーズタイプ」を発売しマヨネーズにラインエクステンションしました。生活習慣病を気にする層に向けて中性脂肪がつきにくいと機能訴求して、グラムあたりトップブランドの約2~2.5倍の高価格で売上を伸ばし、大手寡占市場の中で量販店では10%近くのシェアを獲得したというケースです。
 海外市場と国内市場、情報通信機器と調味料と市場条件は大きく異なりますが、差別化して成功するひとつのヒントとして、2社とも成長するターゲットを発見しそこに向けて製品とコミュニケーションを集中させることによって差別化したケースといえそうです。根底にはターゲットで差別化する、ということがありそうに思えます。

(2)5社の企業活動事例よりー差別化して成功した企業の事例

 次に、企業活動事例の中から、業界トップではないが、この5年間に業界の平均成長率以上に成長したという高いパフォーマンスを示した消費財メーカーを取り上げて、差別化しているかどうか、どのように差別化しているのか、品揃えの幅、ターゲットの捉え方を中心に整理し解釈してみます。
 選ばれた事例は、情報通信のブラザー工業、加工食品のカゴメ、飲料の伊藤園、トイレタリーのユニ・チャーム、自動車のホンダの5社です。

1) ブラザー工業(戦略200+・企業活動分析「ブラザー工業」

 ブラザー工業は、1908年名古屋で「安井ミシン商会」として創業、ミシンの生産技術を基に多角化して成長していきます。1954年アメリカ、1958年欧州に販売拠点を設立してミシンを販売、1961年欧文タイプライターの生産開始、素早い欧米展開によって、タイプライターのブランドとして浸透、71年世界初の高速ドットプリンタの生産開始など技術主導で製品多角化、海外展開によって成長をとげた企業です。
 しかし、その過程では、電卓から洗濯機、冷蔵庫と総合家電メーカーをめざして製品多角化を図りますが、80年代後半の円高不況によリ業績が悪化、多角化製品の多くを撤退していきます。その結果、タイプライターから、ファックス、プリンタをコアとした現在のインフォメーション&ドキュメントカンパニーに収斂していきます。前述したように、典型的に、SOHOユーザーというターゲットに向けてFAXとプリンタなどの小型の複合機に重点化して差別化していると判断できます。

2) カゴメ(戦略200+・企業活動分析「カゴメ」

 カゴメは83年総合食品メーカーをめざして、多角化をすすめ事業領域の拡大を図りますが、90年代に入ると失速、収益性が悪化します。92年に拡大路線を転換、商品のしぼり込みに入り1万2,000品目を400品目に削減し、「カゴメ101」運動として売上至上主義から利益至上主義へ転換します。96年伊藤社長の就任により、カテゴリーNo.1政策の推進、「トマトと野菜カンパニー」宣言と選択と集中によって、5期連続の増収総益を果たしています。

3) 伊藤園(戦略200+・企業活動分析「伊藤園」

 伊藤園は1966年創業の若い会社です。85年に缶入り煎茶を発売、88年に「おーいお茶」にリニューアルし、チームMDに参画してから、コンビニの店舗増に会わせて売上拡大し、現在、緑茶市場(製茶・問屋・小売)では2位を大きく引き離してトップの地位を獲得しています。
 順調に成長してきたようにみえますが、常に規模に勝る競争相手と闘い、自社が先駆けて発売したものを、競合に奪われることの繰り返しでもありました。サントリー、コカ・コーラ、ネスレなど飲料大手企業は、大量のテレビ宣伝を投入し、組織小売業の売場を獲得していく典型的な量的支配の競争をしています。これら強者に対して伊藤園がとった戦略は、営業力強化、店頭への活動の重点化です。品揃えでは、90年代前半までは自販機の品揃えのためフルライン化をすすめますが、98年からマス宣伝を集中するなどして「おーいお茶」のブランド強化を図り「お茶の伊藤園」の強みを生かす方向に軌道修正します。
 毎年300人の新規採用、「伊藤園大学」による人材育成、営業拠点は全国25地区177まで拡大、大手が回訪しないような細かい需要開拓をして地域密着の営業体制の確立をすすめます。
 また伊藤園は緑茶飲料の原料葉の販売ではシェア30%の最大手企業でもあります。茶葉は農家との直接契約とし、高品質の茶葉を安定的に供給できる体制を確立、原料を支配し原料による自社製品の差別化を図っています。緑茶の飲料化率(緑茶が缶やペットボトルの飲料として飲まれる率)は、現在推定で10%前後ですが、今後20%30%と拡大することをみこして、農協や地元農家を巻き込んで原料産地の開発に乗り出しています。さらに緑茶飲料市場が拡大すれば、自社ブランドでの飲料の売上だけでなく、原料販売においてさらに成長が確保できるというしくみになっています。お茶や容器の製法の開発では2001年にはホット専用のペットボトル入り緑茶を他社に先駆けて発売するなど、緑茶での研究開発に重点化しています。

4) ユニ・チャーム(戦略200+・企業活動分析「ユニ・チャーム」

 ユニ・チャームは、71年にベビー紙おむつに参入、74年にユニ・チャームに社名変更してから製品多角化を進めていきます。国内では花王、海外からはP&Gという超巨大企業がライバルです。その中で、紙製品に集中して、ベビー、フェミニン、大人用製品を中核3事業として成長してきました。03年3月期は過去最高を記録し、アジアを中心とした海外市場での成長が大きく寄与しています。

5) ホンダ(戦略200+・企業活動分析「ホンダ」

 ホンダの03年3月期決算も売上利益とも過去最高を2年連続更新ました。その原動力は北米市場の好調と、欧州、アジアなど海外での成長にあります。80年代後半、最上級車レジェンドを導入、トヨタを模倣してセダンの価格帯別ラインナップを展開しますが90年代前半、売上利益とも低迷し危機に陥ります。そこから復活したホンダの勝ちパターンは、オデッセイ、ステップワゴンとSUVに重点化したユニークな車種の投入によります。カローラから小型車市場でトップを奪ったフィットのヒットは、ホンダにとって諸刃の剣となりむしろその独自性を揺るがせる結果になるというみかたもあります。

(3)差別化の原則

 この5社から学べることはいくつもあります。共通していることは
  1. フルライン化、または製品多角化で失敗経験がある
  2. 何らかの契機によって、90年代に戦略転換して事業を進化させた
  3. 特定のカテゴリーに重点化して、カテゴリーNo.1ブランドをもっている
  4. 重点化したカテゴリーは、自社の「コア」を再発見して集中したものである
  5. 自社の「コア」が差別化の源泉になっている
  6. 複数ブランドで「コア」を強化している
  7. グローバル市場で成長している(伊藤園、カゴメ以外)
 各社の強みとして共通しているのが特定市場、特定カテゴリーでのトップシェアブランドをもっていることです。その反面の弱みとなるのが、品揃えの狭さです。これは強みと表裏一体です。そのため国内市場だけでは規模が小さく、成長するためにはグローバルな展開が必要となります。拡張すると、グローバルに通用する強みでなくてはならない、ということになります。キーとなるのはフルライン化して総合化する巨大なトップ企業に対して、自社の「コア」へのこだわりだと思われます。
 業界や市場条件が異なるこれら企業の共通点から、差別化して成長するための原則を五つあげます。
  1. コアへのこだわり:自社の「コア」を発見し、資源を集中すること
  2. カテゴリーNo.1の創出:「コア」を機軸にカテゴリーNo.1をつくること(カテゴリーは創造するものである。)
  3. グローバルセグメント:「コア」は共感する顧客基盤が存在し支持されていること。さらに、グローバルに拡張可能なものであること(グローバル共通セグメントを意識する)
  4. 多様性の確保:複数ブランドで「コア」を強化すること
  5. 危機における組織的集中:分散によって危機が生まれるが危機によって集中が生まれる
 以上から、X社のYブランドにこの原則を応用して解決策を整理します。
 Yブランドは2番手ブランドですが、強いロイヤリティをもつコアユーザーが存在しています。作り手のもつX社らしさのこだわりは、Yブランドのロイヤルユーザーのこだわりと重なっているはずです。それが自社の「コア」発見の糸口になります。「コア」が発見できれば、Yブランドが自社ブランドとのポジショニングを明確にして「コア」をどのように体現するのかを明らかにし、ターゲットの魅力度(規模、成長性)を判定します。グローバルに通用するかどうかの検証も必要です。戦略ケースから見出したターゲットの特定とは、差別化の源が自社の歴史的に形成された顧客との関係から生まれていることの結果として捉えることができます。

 以上のようなプロセスを経て、問題に対する解決策の検討がすすめられます。直面する課題はさまざまです。54の活動分析事例は事実はかわりませんが、照射する光の当て方次第でさまざまな答えを導き出しくれます。オリジナルな戦略構築の素材として活用してください。


主要参考文献

  • リデル・ハート、森沢亀鶴訳(1971)「戦略論」原書房

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