レトロフューチャー......懐古的末来感覚の消費現象

1995 代表 松田久一

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MPCのヒット

 景気か不安定な回復状況のなかで、もっとも売れている商品のひとつがパソコンであることは間違いない。年間100万台程度の販売数量であったものが、300万台と言われている。その契機となったのが「テレビパソコン」と言われる家電感覚のパソコンの市場導入、「オールインワン」と呼ばれるソフトと周辺機器一体型の低価格パソコンの市場導入、そして、通信インフラへの巨大投資にともなう「マルチメディア」ブームである。このことによって、マニア市場として成熟化するかにみえたパソコン市場は急成長を始めた。

 80年代のパソコンの一般ユーザーにとっての用途は四つに限られていた。ワープロ、表計算、データベース、通信ソフトである。現在の「マルチメディアパソコン」(MPC)は、この四つのソフトを統合的に扱える「ソフト」(「ウインドウズ」に代表される)を搭載し、映像や音楽を扱えることができる。しかも、一般ユーザーにとって面倒であったこれらのソフトのインストールや周辺機器の接線(「モデム」など)がほとんど不要になっている。しかも安い。この結果、NEC98を中心とするパソコンの勢方地図は、大きく塗り替えられている。もはや、98か、その他かという選択肢はなく、DOS/Vか、MACか、という選択肢になっている。

 しかしながら、一般のユーザーの用途からみてかってのパソコンと比べ家電感覚で使える訳でも、用途が巨大に広がった訳でもない。個人の投資と飽くなき学習が必要なことは言うまでもない。むしろ、投資と必要とされる努力は増えている。何がこのコストと見合っているのかそれは未来のマルチメディア社会のライフスタイルへの期待感であろう。ここに、マルチメディアブームの危うさがある。目が覚めればそこにはタダの箱という事態に引き戻される恐れは十分にあるのだ。