見えない贅沢品の時代へ-消費回復の主役は誰か

2004.05 代表 松田久一

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消費の実態

 景況感が徐々に回復している。アメリカや中国への輸出が伸び、設備投資も回復している。国内需要も、大型薄型テレビ、デジタルカメラ、DVDプレーヤー等のデジタル家電が好調である。ブロードバンドの普及も世界最速である。企業収益の回復も著しい。実感が伴う景気回復になる鍵は、国民所得(GDP)の約60%を占める個人消費支出の動向である。しかし、肝心の消費は不確実性を増すばかりである。新製品投入、販促経費や投資の意思決定をしなければならない経営者や営業、マーケティングの部門にとっては、消費トレンドと市場の潮の目を見極める正念場である。

 近年、エコノミスト間で、銀行の不良債権処理と将来不安が消費低迷の理由であり経済低迷の背景とする議論が交わされてきたが、いつの間にか主に生産側統計の回復によって等閑視され、不良債権問題は株価上昇によって、将来不安は年金改革問題に矮小化されてしまった。予想外の中国特需とアメリカの景気回復によって何となく景気回復の印象が広がっている。さらに、これまで消費動向を知る基礎資料で「あった」総務省の「家計調査」で見る消費支出は依然低調である。2003年平均の消費支出は1世帯あたり月平均で30万2,623円となり、物価変動を除いた実質で前年に比べ0.8%減った。この実態を見る限り景気回復を唱えるのは信じがたい。しかし、景気回復ムードが先行しているのは、主に、家計調査で明らかにされる統計価値が低下したからである。もはや景気指標を分析する経済統計の専門家間では、経済統計論争の結果として家計調査を主要な景気指標として用いない事にコンセンサスが一致してきたからである。家計調査で捉えられる消費実態と国民所得統計によって集計される消費実態には常に統計的な乖離が見られ、主に、家計調査の調査方法に問題があると結論づけられたからである。しかし、約3,500万世帯の1世帯月平均で約30万の支出を、顧客の好意と購買を巡って約200万社が競争している事実に変わりはない。約1兆円の売上企業で毎月約2,380円を頂戴している計算である。家計調査は、マクロ経済の羅針盤としては失われたが、主に、サラリーマン世帯の支出のリアルな実態を捉える上で有効であることは言うまでもない。

 2004年度の消費はどうなるのか。企業収益が回復し、雇用者と収入が増えれば消費が伸びて本格回復へ、というのが一般的な見方であろう。信用失墜の著しいエコノミストや経済学者はこれしか言えない。しかし、一般的なサラリーマンの生活感覚として、経営者でもない限り、会社の業績が回復して自分の収入が増えると予想することはあり得ないだろう。人件費や経費をトコトン切り詰めて収益回復させていることを現場で知っているからである。2003年度、家計調査の世帯主の職業別支出では、公務員を含むサラリーマン世帯が前年に比べ実質で1.2%減ったのに対し、法人経営者世帯は9.8%増と対称的な結果になっている。約10%の差が、収入予想の生活感覚の落差を見事に物語っている。