2013年に消費は大きく変わる。企業のマーケティング努力がなければ、消費水準は低下する。これは、政治混迷に揺さぶられた結果である。若者の消費支出の低迷はすっかり定着するし、エコポイントなどの政策減税を利用して消費水準を上げていた中高年が、消費税アップで巨大な財政赤字を実感した結果、老後不安を強め、老後への準備を進めねばならなくなっている。
消費者の価値観は、震災後の家族を中心にした「絆」志向から、価値意識を共有する身近な友人知人を大切にする意識へと転換が進む。本書では、リアルもネットも含めて「遠くの親戚よりも近くの他人」志向を「近縁充実」と分析している。近縁者間で連絡しやすい無料通話アプリの普及や「街コン」の流行にみられるとおりである。
消費をリードするのは、少ない支出で多くを楽しむ「低燃費」スタイルである。青年期層を中心に、壮年期や老齢期のすべての層へと拡大する。同じ満足を得られるならより安く、同じ支出ならより大きく、より長く満足を得られる商品やサービスに期待が高まる。しかし、低価格志向だけではない。スープもつくれる高回転のアメリカ製高級ミキサー、自然な風を作り出す日本企画中国製造の高級扇風機、ソーシャルゲームも確実に実需をとらえている。
消費者とのメディア接点も捉えなおしが必要である。ヒットしたドラマや商品を分析してみたところ、消費者間には、家族、地域、会社、インターネットメディアなどを核に、メディアの「メドレー化」が加わって、人間関係が形成されている。消費者個人は、ネットで世界の人々と結ばれているが、常時、情報交換をしている相手は数人、と小さな世界に住んでいる。そのネットワーク関係のなかでは、他者へ情報伝達する「スピーカー(拡声器)」や、異なるネットワーク間を繋いでいる「ブリッジ(橋渡し)」の役割をする個人がいる。マスメディアによる認知率拡大や話題性だけでは、ヒットは生まれず、この、ネットワーク内のスピーカーや異なるネットワーク間を繋ぐブリッジへの説得が成功の鍵だった。
消費者の買い物のネット化は急速に進んでいる。すべてのリアルチャネルの業態がネットチャネルに浸食されている。これは、「ロングテールの品揃え」の強さである。もはや、肉・野菜・魚の生鮮3品をネット購入するのも例外ではなくなっている。リアルチャネルでは、コンビニエンスストアが量販店など他業態のシェアを奪っている。
もうひとつ買い物で注目されるのは衝動買いである。食品では約半数の人が「月に1回」、約10%の人が直近のすべての買い物で衝動買いをしている。これには、リアルな予想外の安さや、「今だけ」「ここだけ」の限定訴求が効いているようだ。計画購入やブランド固定ならネットチャネル、衝動買いや商品のバラエティ志向ならリアルチャネルへと棲み分けが進んでいる。
消費の質的な転換が顕著にみられるのは食である。内食から外食へ、外食から内食へ、そして、内食からイエ食へと比重が高まっている。ある日の夕食でみると、長い間成長してきたコンビニエンスストアで、おにぎり、弁当、サラダやビールを買って食べる中食は10%である。それに対して、出来合いの惣菜や加工食品にちょっと手を加えて、冷凍保存したごはんを温めて家(イエ)で食べる「イエ食」が17%ある。
消費の激動は、企業に新しい機会と脅威をもたらす。特に、市場の強者には大きな脅威であり、弱者には機会である。この状況では、脅威を避けて弱みを克服するリスク回避的な戦略がスマートに見える。しかし、先の見えない激動の時代には、機会を捉えて強みを生かすマーケティング革新で活路を見出す機動戦略がより賢明である。
[2012.11 消費社会白書2013]