新しい消費への離陸
バブル崩壊から長く人々の生活にしみついた節約、倹約消費のトレンドが弱まり、新しい消費ノルム(規範)や贅沢への欲求水準が上昇している。四半世紀ぶりの転換である。
消費が離陸したきっかけは、政権交代によって経済政策への信頼感が醸成され、上昇したことである。異次元の金融緩和の発表だけで、円安になったり輸出企業の株価が上昇したりし、金融資産価値の上昇が、日本経済の将来見通しをよくした。これが誘因となって、ほぼすべての層においてマインド好転に波及した。
さらに、世代効果とライフステージ効果の実態的な変化も見逃せない。21世紀に入って10年、節約消費を牽引してきた「バブル後世代」が、否応なく消費支出の増える家族形成期に入った。彼らの次の「少子化世代」や「ゆとり世代」は、彼らよりは将来の見通しが明るく、倹約もするが多彩な消費を楽しんでいる。バブル消費を経験した「新人類世代」が収入のピークを迎え、子供の大学進学期にあわせ、「今でしょ」型の教育投資を活発化させている。リタイヤした「団塊の世代」の収入は年金受給で安定し、旅行を楽しむ余裕ができはじめている。子供世代の晩婚化によって子供が30代になるまではスネをかじられ通しで、収入のピークも過ぎた、残念な50代の「断層世代」を除けば、全世代で消費は浮上し、離陸しつつある。
消費の長期波動の転換もある。消費を長期でみるならば、およそ20年単位で、倹約や節約の時期と、贅沢や奢侈の時期を繰り返している。長期波動でみれば、1980~1990年代はバブル経済とその崩壊期にあたるが、この時期を支配した消費ノルムは「3K」であった。家電満載の持ち家(Kaden and Home)、自動車(Kuruma)、子供への教育投資(Kodomo)である。生涯年収の約40%はこれらのローンで占められていた。この消費ノルムは、バブルでピークを迎え、その後は、持ち家離れ、家電離れ、私学離れなど、「消費離れ」の倹約と節約の時代が約20年続いた。そして、2010年には倹約や節約のピークを越えている。これからは、3Kに代わる、新しい消費ノルムへの模索が始まる。2014年の消費税対策も重要だが、この消費の長期波動を見逃すべきではない、というのが、本白書で最も強調したい点である。
どのような消費ノルムが生まれ、どのような贅沢が選好されるのか。本書では、「まなざし消費」を満たす階層消費、豊かで美味しい時間消費などのキーワードをあげている。売り手は、新しい消費ノルムと贅沢をもっと提案する時機を迎えている。他方で、顧客接点も異次元に多点化している。インターネットはもちろん、スマートフォンの普及は消費者と消費者の関係を大きく変えている。個人よりも仲間や家族などのネットワーク、マス接点よりもネットワーク間の結節点、リアルな売場における想定外の楽しさ、などが購買を誘発している。新しい顧客接点に対する、マーケティングソリューションの革新が必要とされている。
[2013.11 消費社会白書2014]