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心の豊かさより経済的なゆとり、世の中はすべて金、機会平等なら格差容認
マネーや蓄財に関する価値意識は、今後、どのように変化するのだろうか。
統計的な説明力を分析し、ライフサイクルによって循環する意識と、世代交代によって変わっていく意識のふたつに分けて考えてみる。まず、ライフサイクルによって循環する意識は次の三つである。
ライフサイクル差
第一は、「心の豊かさより、経済的なゆとりのあることの方が大切だと思う」という意識である。この意識は時代とともに低下していくものと思われている。しかし実際には、青年期、壮年期、老齢期の三つのライフサイクルによって循環していることがわかる。数値をみてみると、青年期には、「経済的なゆとり」が大切だとする比率が26%と高く、壮年期で15%、老齢期で12%と半減する(図表1)。若いうちは経済的なゆとりが大切で、壮年期、老齢期で「心の豊かさ」を大切に思うようになる。
第二は、「世の中、お金がすべてだ」という意識である。この意識は、バブル崩壊やリーマン・ショック直後などには、強欲を代表する意識として常に批判にさらされてきた。しかし、「そう思う」比率は24%である。この意識もライフサイクルで変わるが、青年期で29%、壮年期で22%、老齢期で17%である(図表2)。若い頃には、「世の中、お金がすべてだ」と思っているが、壮年期、老齢期になると次第にそう思わなくなる。
第3に、「機会が平等であれば、結果に差がついてもよい」の意識である。この意識もどちらかといえば、時代の変化と思われがちである。しかし、統計的にはライフサイクルで変わるものである。全体では58%と過半数を超え、青年期で56%、壮年期で54%、老齢期で67%である(図表3)。青年期ではやや容認、壮年期でもっとも低く、老齢期で再び容認意識が強くなる。これは企業の階層で考えるとわかりやすい。青年期は組織のボトム層におり、同僚であれば収入や地位の差がないので、機会が平等であれば結果の格差は容認できる。しかし、壮年期になると組織のミドル層となり、収入や地位に差が生まれはじめ、結果の格差を容認しがたくなってくる。その後、老齢期になると同期入社でも収入や地位に大きな差が生まれることがあるが、このライフサイクル局面までくると、多くの人々は結果の格差を受け入れざるを得なくなる。このような意識の変化が、企業内だけでなく、社会的なライフサイクルにおいても繰り返されているのである。
「心の豊かさより経済的なゆとりが大切」という価値意識、「世の中、お金がすべてだ」という拝金主義、「機会平等なら結果格差は是認する」という意識は、ライフサイクルの変化によって繰り返されるものである。マネー志向は青年期で強くなり、壮年期、老齢期へと生活局面があがるにつれて弱くなる。どの世代も、ライフサイクルを通過するごとに同じような変化を繰り返しているのである。
マネーを批判する楽曲や文学作品が大衆的心情を捉えるテーマであり続けるのは、マネーの意識がライフサイクルによって繰り返されるものだからである。そして、日本人のマネー嫌いの価値意識は、今後も一定の水準で維持されると思われる。