5冊でわかるマーケティングと戦略経営の実際

2015.08.06 代表取締役社長 松田久一

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 2009年~2015年までの約7年間で5冊の単著を出してきた。これも読者やクライアント、そして、編集者の皆様のご協力の賜であり、改めてお礼を申し上げる。

 しかし、ここで改めて、著者本人からそれぞれの著書の目的などを紹介させて頂きたい。というのは、著作がウケを狙ってそれぞれを書き、読者のみなさんには、バラバラに見えるのではないかと懸念するからである。確かに、売りたいためにウケを狙ってはいる。しかし、著者自身としては、5冊が、少しずつ重なりながらも、ひとつの発展的な体系になっていると思っている。五つのピースを集めると、時代を認識して、企業などの経済組織が継続して存続するための意志行動体系となっている。現代風にいうなら「総合政策論」である。

 企業、産業や経済がどんな政策をとるべきかというのは、少数を除けば、社会科学の研究外にあった。独自の思想を持つ日本の市場をベースとして、あらゆる思想を海外から受け入れて、この穴を埋めるための、挑戦をしたいと願ってきた。

 マーケティングは、19世紀末から20世紀初頭に、アメリカで生まれ、戦後の1950年代に日本に輸入され始めた。しかし、P.F.ドラッカーは、アメリカとほぼ同時期の明治維新後の日本にも、すでに生まれていたと指摘している。これは日比翁助の三越の経営を指していると推察できる。日本の歴史を踏まえて、地に足のついた企業の意志論としての政策論を模索してきた。

 世代論は、著者にとっては、時代を認識するツールである。歴史観なき現代、浮遊する現代をリアルに捉えるための道具である。そして、それをもとに、主に企業の意志論としての政策論や戦略論を書いている。企業という法的な人格の意志は、「資本の論理」と呼ばれるような利潤追求だけではない。利潤追求だけでは会社はやっていけない。時代使命こそが会社存立の必要条件であって、利潤追求は十分条件である。従って、会社は企業家精神を持った経営者が、時代使命を閃き、革新的な製品やサービスを創り上げる。そして、一定の成功を収め、関与者が生まれて、ライバルが登場し、産業を形成する。会社は、自社の強みと業界環境に応じて、時代の偶然に振り回されながら自らのマーケティングと戦略で生き残りを模索する。企業の戦略経営とは、「資本の論理」に還元されない、生き残りの意志である。

 著者は、時代認識に対応する企業の意志論としてのマーケティングや戦略をどこまで知識化できるかを目指してきた。消費者行動分析をベースとするマーケティング政策、戦略経営論、産業及び経済政策である。それをさらに経済システムにまで拡大してみた。

 単なる市井の実務家が、細分化され、専門化された職業研究者の成果を生かしながら、実務に生かせるように取り組んできたフュージョンの結果である。利用している方法論は、科学、特に、自然実在論への拘りと解釈論である。

 読者のみなさんにはこのような狙いを知って読んで頂くと、また、別の視点での読み方ができるのではないかと思っている。そしてそれが、みなさんの利便性に繋がれば幸いである。

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消費世代論 - 『嫌消費』世代の研究

松田久一
「嫌消費」世代の研究
東洋経済新報社
「嫌消費」世代の研究

 「クルマ買うなんてバカじゃないの!」という発言を聞いた時は正直驚いた。若者はクルマが欲しいものだと思い込んでいた。ローンや借金への強い拒否反応も驚いた。大学卒業時に150万ほどの平均貯金があると聞いて、もうこれは「人類」が違うと思った。多くのクライアントから若者がものを買わないという悩みを聞く機会が増えた。このような実感を追求し、詳らかにしたのが本書である。

 本書では、世代交代を消費の長期低迷の説明要因にして、バブル崩壊後の消費減少による景気低迷を説明している。特に、クルマ離れ、オーディオ離れ、アルコール離れなどの様々な消費離れを、収入などの経済的条件よりも、価値観に集約される世代交代で説明できることを実証した。