日本の謎とその要因
「日本の謎(Japanese Puzzle)」とビジネス紙から名づけられた課題がある。2014年4月の消費税増税後の消費回復が遅れている一方で、雇用や給与水準が回復していることである。通念では、先進国では雇用が増えれば、個人消費が増える。ところが、日本は雇用が増えて、個人消費が減っている傾向がみられる(図表1)。
この要因として、主に七つの説がある。消費税負担重圧説、買換えサイクルの長いクルマやテレビなどの駆け込み需要の反動減説、人口の多い断層の世代が通過している60代年金狭間層の増加説(60才でリタイヤし、年金受給は65才の狭間年代)、リタイヤ前層の支出抑制説、年金不安再燃説、将来不安説、非正規雇用増大説である。この白書では、七つの仮説を検証している(図表2)。
結果は、消費税負担重圧説、駆け込み需要反動減の長引き説、60代年金狭間層の増加説は立証できたが、残りの四つの説は検証されなかった。特に、年金不安再燃説、将来不安説、非正規雇用増大説は、明らかな反証データが確認できた。
しかし、立証できた三つの説は、「犯人」ではあるが「主犯」ではない。主犯は、結婚資金、住宅購入、老後資金など「目的の明確な貯蓄」が増え、収入が増えても消費に回らないことにある。
目的的貯蓄の増加のほかに、長寿化も主因である。生涯収入が変わらないのに、平均余命が85歳まで伸びたことで、生涯の消費を合理的に「平準化」しているため、消費水準を低く抑えざるを得なくなっている(図表3)。
そのため、政府は生涯年収を増やす政策をとるべきだ。若者には、アメリカの大学生が自前の借入で教育資金を調達しているように、「計画的借金」の選択肢を提示したり、60-65才前後の年収の急激な落ち込みを解消する雇用支援や、その後の単純労働以外の就業機会の増加支援策をとったりすることが必要である。
消費低下の一方で、消費者の商品サービスの購入所有パターンも通念とは異っている。「脱中流生活」だ。中流生活を支えるものは、性別分業による男性勤め人と、女性の家事、育児や代理購買の分業、家族づくり、職住分離による郊外持ち家、クルマやテレビなどの所有である。中流層の分厚さが日本社会の特徴であり、豊かさの象徴だった。
強まる生き甲斐消費
一方で強まっているのが、個人の「生き甲斐消費」だ。これは、生きていてよかったという実感であり、自己犠牲によって得られる達成感である。山登り、筋トレ、マラソンなどは、苦しんで達成する過程で充実感を得ている。若い世代が楽しむゲームは単純にやり遂げたという実感が得られる。このように、消費は、生き甲斐を追求するパターンへと転換しているようである。
食では、家族の夕食は、「バラ時間(ひとりメシ)」、「バラメニュー」や「汁離れ」が大勢となっている。性別分業から共稼ぎになれば「バラ」行動になるのは自然である。美容健康ニーズは、「心と身体のバランス」へと高度化し、美容に関しても男女差は薄まっている。
住に関しては、職住接近がもたらすアクセスニーズや住居に「グレード」を求める傾向が強い。これらは、若い世代の東京志向と、都心の働き場所に近い高層マンションへの住ニーズの強さに見られる。将来、東京では20%以上が高層マンションに居住すると予想される。
AV分野では、スマートフォンがテレビなどのAV機器にとって変わろうとしている。特に若い世代の女性は、すべてのAV関連機能をスマホ一台で済ませようとする傾向が高い。逆に、男性は、それぞれの専用機を求めるニーズが強い。
こうした基本モジュールは、単独世帯と夫婦二人世帯で過半数を占め、中流生活の典型であった「夫婦と子供」世帯が少数派に変わったことによる。中流条件が失われ、新しい組合せのモジュールへと移ろうとしている。
脱中流生活をリードする七つの層
このような脱中流の代表的なリーダー層を七つに分類した。その代表例が首都圏の高層マンション居住層である。
モノを完成品として考えるのではなく、補完財として他の商品や企業とともに消費者の生き甲斐へアプローチし、多様なチャネルを通じて、顧客接点を持つ「共通土台(プラットフォーム)」を構築することが重要である。これが、ソフトウエアやネットの世界だけでなく、商品やサービスの分野ではメーカーでも構築できることを証明したのが「ウーバー(Uber)」である。「ウーバー」は、世界市場の規制に挑戦し、「世界の移動を変える」と標榜する。
2017年の「消費社会白書」では、売り手の長期戦略とビジネスモデルの再構築を提案している。みなさんのお役に立てば、幸いだ。
[2016.11 MNEXT]