眼のつけどころ

BABYMETALのロングセラー化戦略を考える
―めっちゃ私見と戦略思考鍛錬として

2017.12 代表 松田久一

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2020年3月22日付、WEBメディア「アーバン ライフ メトロ」に、松田久一寄稿「東京が育んだ「BABYMETAL文化」は世界征服の夢を成し得るのか」が掲載されました。ぜひお読み下さい。

01

永遠であって欲しい

 私は、「還暦」過ぎのBABYMETALファンのひとりに過ぎない。しかし、BABYMETALが永遠のブランドになってほしい、という願いがある。それがこの拙文の狙いだ。早々に引退して欲しくない。他方で、年齢を重ねて醜態をさらして欲しくもない。永遠であるためには、どうすればいいのか、ファンの心情とビジネス思考との狭間でロングセラー化戦略を考えたい。

02

2016年の東京ドームへの満身創痍での参戦

 BABYMETALのファンになっておよそ2年、2016年の忘れもしない「東京ドームコンサート」の「Red night」 と「Black night」に2夜連続で「参戦」し、2夜目は、東京への台風直撃下で会社の階段を踏み外し、這いながらタクシーに乗った。運転手さんに病院に行った方がいいと助言されながらも、東京ドームの医務室での手当を受けて参戦した。当日は、緊急で処置してもらい、翌日の病院では「大腿四頭筋断裂」で通常なら手術適応という診断だった。悲惨だったが、体に残る一生の「記憶」になった。「THE ONE」(ファンへの告知サイト)にも加入して、チケットの抽選やグッズを購入している。私は、この程度のファンだ。メイトさんには申し訳なくて、メイトさんになりきれない。

03

BABYMETALのブランド確立-埼玉スーパーアリーナ(SSA)の参戦

 ドーム参戦から約1年ぶりに、「巨大キツネ祭り in JAPAN」の「さいたまスーパーアリーナ」に2夜連続参戦してきた。約3万人収容できる大きな箱での1年ぶりのコンサートだけに、ファン(Mate)の期待感は高まるばかりであった。

 感想は、いい意味で「裏切られ」たが、感動した。

 裏切られたというのは、もっと新しい事を期待していたからだ。昨年の東京ドームは音が悪かった。舞台装置は大がかりで、「モッシュピット」もなく、3人が並んだダンスパフォーマンスも少なかったが、5万人を超えるメイトの興奮に圧倒された。

 今回は、テレビなどでお馴染みのWembleyのようなステージになり、セットリストも定番だった。2夜で曲目が変わったのは2曲だけだ。多くのメイトが期待した新曲発表もなかった。実際、ネットでの書き込みでも不満がみられた。

 「いい意味で」というのは、こちらの期待に対して、「BABYMETAL」は、「Back to the Basic」、つまり、定型的な定番のスタイルへと回帰したことだ。

 この意味で、2017年は、BABYMETALのブランドが確立した年である。ブランドとは、顧客が楽曲、アルバムやグッズを購入する際の「選択の手がかり」のことであり、他のミュージシャンとの差別的な特徴のことである。私見では、彼女たちのポジショニングは、音楽市場では、ヘビーメタルセグメントでの「女の子らしい順社会性」というイメージ上のポジショニングである。見事なボーカル、シャウトと切れのあるダンス、シンプルなメッセージ性があり、パロディやメロディアスな楽曲、日本人らしいスキルを生かしたエレキのディストーション(音の歪み)などが差別的な特徴である。

 SSAはそれを象徴するコンサートだった。東京ドームよりは収容人数は少ないが、音が「マシ」で、液晶の5枚の大スクリーン、「モッシュピット(激しく踊る場所)」も細かく設営され、3人が並んだダンスパフォーマンスを十分に楽しめた。

04

ブランド確立の功罪

 ブランド確立には功罪がある。

 BABYMETALは、年初から大物海外メタルバンドのゲストに招かれ海外活動。国内では、「サマーソニックコンサート」で、2年連続でメインステージに立って、キツネ祭りコンサートを経ての単独SSAコンサートを行った。ここでおよそBABYMETALの「型どおり」のスタイル、つまりブランドが確立された。

 功(メリット)は、「型」が決まることである。ファンがいつも満足を得られるパターンだ。BABYMETALのほとんどの曲は、定番となり、それぞれに楽しめるパターンがある。観客の「合いの手」も、曲ごとに決まっている。

 罪(デメリット)は、マンネリと思われ、飽きられることである。コンサート終了後のファンの声やネットでの反応には、「新曲」がなかったことへの不満が散見された。

 しかし、ブランド確立とは、飽きられてこそブランドの証明となる。

 従って、ブランドをロングセラー化するには、マンネリを維持しながら、変えるものは変えていかなくてはならない。変えなくてはいけないのは、固定ファンが減少し、新たな固定ファンを取り込むためである。

 製品ブランドでは、30年以上のブランドは星の数ほどある。「ペプシコーラ」、「リーバイス」、「マクドナルド」などを想起してもらえばよい。このようにブランドを超ロングセラー化するには、固定ファンの入れ替えが大切になる。

 なぜなら、あるブランドが現在の20代だけにしか受け入れられなかったならば、30年後には、すべての固定ファンは、マンネリに飽きて減少して、残った50代だけになってしまう(図表1)。

図表1 シェア減少 ― 固定層の減少と高齢化
図表

 ロングセラー化には、現在の固定ファンをマンネリで満足させながら、変化によって新しい固定ファンを取り込み、入れ替えることが大事だ。

05

ブランド確立期の固定ファン形成

 SSAのコンサートは、私のようなファンにとっては、「無限の光を放たれ阿弥陀如来がご来迎」された有り難い心持ちであったことに違いはない。キツネ信仰や稲荷信仰とは少し違うが!?

 しかし、新曲が出なかった、成人アーティストのコンサートよりも曲数が少ない、SU-METALが20歳を迎える。YUI-METALの身長が伸びた。MOA-METALがより女性らしくなった。みんな大人になった、というのが、会場及びTwitterなどで拡散した評判である。

 2017年は、「認知的不協和」を通じて選別したコンサートになったのではないか、と思う。

 ちょっと古典的な社会心理学的な理屈で説明してみる。

 SSAのコンサートは、一部のファンにとっては「型どおり」の期待を充足してくれて満足だった。他方で、一部のファンの新曲期待は充足されなかった。これは、ひとりのファンのこころのなかにある矛盾=不協和と思っていい。この場合は、期待充足はプラス情報になり、未充足情報はマイナスになる。BABYMETALに好意的な態度を持つファンは、コンサートで、プラス情報とマイナス情報にさらされることになる。この際に、こころのなかで生じるのが矛盾であり、葛藤であり、不協和である。これは居心地が悪いので、解消しようとする。それには、マイナス情報をもとにファンをやめるか、プラス情報をもとに、マイナス情報を否定して、BABYMETALにより強固な好意を抱く「信者」のように「態度変容」するかである。

06

大いなる「マンネリ」でどこが悪い

 新曲も披露して欲しかったが、私はファンを通過して「信者」に変容した。メイトさんには申し訳ないので、ファンから固定ファン、そして、BABYMETALを世間に広めようとする「信者」になった。アップル製品を他者に普及する「信者」と同じである。強いブランドには、必ずこのような「信者」がいる。「クラシックコーラ」があるのは「コーラ信者」が予想以上にいたからだ。

 大いなる「マンネリ」こそが、メタルバンドの長寿化の王道だ。欧米のメジャーメタルバンドも、マンネリばかりだ。新曲など必要ない。マンネリこそが、BABYMETALという音楽ブランドのロングセラー化への道である。ブランドには寿命がない。従って、BABYMETALにも寿命はない・・・と考えるような信者になったということだ。

 マンネリでブランドが形成されることが、アイドルグループでないことの証明でもある。

07

信者だけではロングセラー化できない

 固定ファンや信者は、マンネリを期待する。ロングセラー化には、「よいマンネリ」が大事だ(眼のつけどころ 「ブランドのロングセラー化の鍵は「うまいマンネリ」づくり ―市場溶解期のブランド再構築」参照)。

 よいマンネリとは、ファンの好みやメンバーの成長に合わせて、少しずつ楽曲やパフォーマンスを変えていく必要がある。BABYMETALの2枚のアルバムは、素晴らしい。楽曲が少し違う欧米版もいい。コンサートのブルーレイはいい記念だ。課題は、マンネリを生かしながら、どう新しい要素を付け加え、変えていくかである。

 それには、STの変更が重要だ。ファンのセグメント(S)ターゲティング(T)である。

 私のコンサート会場での観察では、メイトさんやファンの平均年齢は40代半ば以上の男性である。このまま何も変えなければ、10年後にはファンが加齢し、数は減少し、平均年齢は55才以上になる。現在のメンバーも、SU-METALが三十路に、YUI-METALとMOA-METALも三十路に近づく。

 しかし、これでは寂しい。まるで、「××ミン」の「老婆コンサート」や、「自己満足」の「中××ゆき」のコンサートになってしまう。

 もっと新しいファンを獲得しなければならない。それがロングセラーに必要なうまいマンネリづくりだ。メンバーの新しいスキルの獲得、新しい若い層の獲得のためにSTを変えることである。狙い目は、20代女子、2000年以降生まれの「自分に負けない」という価値観を持つ「リオ世代」である。インスタで活躍する「腹筋女子」や「サラダ女子」である。この新しい層を、新しいスキルで表現しながら取り込むことが大事だ。

 2017年の最後になる広島でのコンサートは、20代以下に有利な価格設定になっている(中学生から2017年度成人まで2,000円、それ以上は20,000円の10倍差)。これは層獲得の狙いは上策だが、低価格で20代層を広げるのは下策だ。どうせなら無料にすべきだ。

08

四つの戦略オプション

 BABYMETALのメンバーは「安×××恵」さんのように年をとらない、と思いたいが、そうはいかない。ビジネスとして、ファンを満足させ続ける存在として、どんな戦略をとるべきか。オプションは四つだと思う。

 ひとつは、何も変えないこと。ファンが減少しても、ファンとともに年を重ねていくことである。彼女たちの成長によって、現在のコンセプトやポジショニングに無理が生じてきたら、「山口百恵」さんのように華麗に引退し、二度と姿を見せないという「散華の美学」を追求する。これもありだ。

 ふたつは、アキバ系のアイドルグループのようにBABYMETALのメンバーを入れ替える。女の子らしさというポジショニングを優先して、ブランドを残す方法だ。アイドルグループは、ほとんどこの戦略を採用している。

 三つは、BABYMETALのブランドエクステンションである(図表2)。ファッションブランドの「アルマーニ」は、「ブラックレーベル」をマスターブランドとして確立し、「ディフュージョンブランド」として「アルマーニ・エクスチェンジ」や「マルチブランド」が、少し若い層向けには「エンポリオ・アルマーニ」がある。また、ファッションだけでなく、時計やバッグなどのファッション小物の製品カテゴリーへの「ブランドエクステンション」もすすめている。このように製品ブランドではマスターブランドを生かし、ターゲット層や提供技術を変えて、ブランドの認知資産を生かした展開で、顧客層を増やしていく。ビジネス的には、BABYMETALもこんな展開がとれる。アキバ系の地域ブランド展開のようだが、儲け方としてはある。

図表2 マスターブランド再確立による顧客層拡大
図表

 四つは、「LADYMETAL」への「進化的なリポジショニング」(Evolutional Repositioning)である。つまり、彼女たちの成長に合わせて、「女の子らしさ」を進化させ、ヘビーメタルの王道を女性ユニットとして追求する。海外では集客数ではすでに上回っているが、国内では、BABYMETALも強い影響を受けている「X-JAPAN」を、世界では伝説の「レッド・ツェッペリン」を越える戦略である。つまり、女性本格メタルバンドへの進化である。何を表現し、どんな楽曲で、どんなパフォーマンスをするかはわからない。しかし、LADYMETALへ進化させる展開である。

09

ひとりのファンとして

 個人的には、「LADYMETAL」への進化戦略をとって欲しい。もちろん、ネーミングは変える必要はない。他の戦略オプションは拒否したい。マンネリはダメ、引退ダメ、商売本位ダメ。イジメダメ!!

 進化戦略をとるには、短期的には、先に指摘したように、もっとも元気な20代女子層を取り込むべきだ。アイデンティティ意識の高いインスタ女子だ。

 そのためには、日本の土俗的な狐信仰、スターウォーズのパロディ、アキバ系アイドルとの戦いのストーリーで構成されている演出を変える必要があるように思う。

 この面白さやアイロニーは、企画陣の世代特性が反映され、20代女子にはわからないストーリーである。また、スターウォーズのパロディがうけるのは、ルーカスやスピルバーグを知っている40代、50代である。現在のスターウォーズは、ディズニーがオーナーであり、コンセプトがファン層を中高年男性化しすぎてしまっている。個人的には嬉しいのだが、それではロングセラー化できない。

 もうひとつは、3人のメンバーの成長をうまく取り入れて欲しい。「Sweet16」と言われるように、アメリカでは16才が「花」である。BABYMETALの「女の子らしさ」や「かわいらしさ」は20代前半までは維持できるが、その先は難しい。自然にBABYMETALから、LADYMETALへと成長していく。今後、女性として「気品」、「艶ぽっさ」、「筋肉系」、「色気」などをどう取り込んでいくかが課題となる。例えば、「気品ある腹筋女子系」はどうだろう。

 進化するに際に、やって欲しくないことがひとつある。それは、海外に出すぎて、ヘンに英語の発音がうまくなって欲しくないということだ。日本には英語のうまい男性ボーカリストが登場している。英語で歌い、英語で楽曲を作成することに、意味はない。イギリス人やアメリカ人にとって、英語のうまい日本人ほどつまらないものはない。完璧な日本語の発音で歌う外人演歌歌手のようで、日本人には印象が薄いのと同じだ。現実に、ネイティブ並の日本人が成功した例がない。何度も敗れている。適度なヘタさがいい。「To×××」よりはマシ程度でいい。むしろ、日本語で通すべきだ。

 また、彼女達の人間的な成長を、どう強みにしていくかである。

 BABYMETALの進化を考えて、これからの10年の展開とストーリーを発展させていくべきだ。つまりは、よりアイデンティティの強いLADYMETALへの道づくりである。ファンの期待もあるが、彼女達の「なりたい自分」をもっとも尊重すべきあろう。

 日本の大衆音楽業界史では、全国興行が「美空ひばり」を生み、テレビが「山口百恵」を生み、ネットが「BABYMETAL」を生んだ。BABYMETALの過小評価は禁物だ。この歴史的快挙と必然性を永遠のものにして欲しいものだ。その責任はBABYMETALの企画参謀やスタッフにある。しかし、様々な施策をみると、いい戦略参謀がいるようには見えないのが残念だ。

10

2017年度最後の参戦へ

 最後に、今年最後の広島にも抽選に当たって、12月3日の1日だけ参戦します。メイトさんよろしく。2日の「THE ONE」メンバーのみのコンサートには、2度とも抽選で落ちた。でもなんで広島?「Perfume」の真似?まあ、二十歳を迎えるSU-METALの誕生の地という気持ちはわかるけど・・・。参謀のコンセプトが迷走してないか!?

 否、メイトさんになれない、ただの固定ファンとしては、「阿弥陀如来」の広島への「ご来迎」を喜ばねばならないのだ。

書籍イメージ

2017.11 発行
版形:A4版カラー
本体9,260円+税

顧客接点のメルティングとアイデンティティ消費

発刊以来15年間の知見とデータから「今」を鋭く分析し、「半歩先」を提案
オリジナルの時系列調査から現在の消費者の実像に迫る
中長期だけでなく、短期のマーケティング戦略を構築するための基本データが満載