「消費社会白書2022」のご案内
凍結した消費マインドを溶解させるマーケティング
―解除後の消費増加シナリオ

2021.10.04 代表取締役社長 松田久一

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01

消えたV字回復

 個人的には、コロナ禍からのV字回復は、2021年の9月からだと予測していました。

 根拠は、ワクチン接種による高齢者の重篤率の低下、重篤者数の減少によるコロナへの不安感の解消、そして、緊急事態宣言の発令やまん延防止等重点措置の施行の期間に蓄積された預貯金の増加です(前回予測レポート「コロナの出口シナリオ(2月版)の更新―2ヶ月遅れのV回復の予兆」参照)。恐らく、余暇レジャーで消費の爆発が起こると予測しました。

 実際、21年9月30日をもって、全国の緊急事態宣言は解除され、東京都は10月24日までリバウンド防止措置期間を設けています。それでは、V字回復は1ヶ月遅れるだけか、と言えばそうはではありません。

02

消費マインドの凍結

 人々のコロナへの不安感の解消はできず、8月の東京都で、1日5,000人を超える感染確認者数は、マスコミ報道もあって、人々に強烈な印象を与え、不安感を醸成しました。この不安感の学習がV字回復を困難にしています。これをアンラーニングするには、やはり1年の期間を必要とします。消費マインドは8月で凍結してしまいました。

 しかし、この不安感は、重篤者の増加によるもではなく、感染確認者数の増加によるものでした。感染者数の増加は、感染力の高いデルタ株への置き換えによるものでしょう。しかし、実効再生産数はたかだか2.0を少し上回る程度でした。デルタ株の基本再生産数は「5.0~8.0」(英インペリアル・カレッジ・ロンドン)と推定されていますので、極めて抑制的で専門家の予測とはまったく異なるものでした。

03

若者の反乱

 恐らく、専門家が分析できていない、東京の単身世帯の25%という高さ、年代間のコミュニケーションのなさ、そして、自主的自粛行動などの意識の高さが、感染を抑制しています。5,000人まで増えたのは「20代の若者の反乱」によるものです。

 この1年半に及ぶ経済活動の停滞によって、もっとも被害を受けたのは、若者でした。1日2,000人の失業者、残業代の減少による収入減、8月までの自殺者数14,207人うち20代は推定で約1,700人、ワクチン接種の遅れ(都内20代の2回ワクチン接種率は44%、都内12才以上人口の接種率は64%)など、すべての犠牲やシワ寄せが若者に集中しました。

 オリンピック・パラリンピックを開催する一方で、政府や都が様々な行動自粛を要請するのは、明らかな「モラル・ハザード」でした。従って政府や専門家のとる感染対策への「20代の若者の反乱」が起きました。渋谷スクランブル交差点での路上飲み、銀座の残業OLの路上飲み、目黒川沿いの路上飲みなど様々な場所で反乱が起きました。

 しかし、9月に入ると20代のワクチン接種率も高まり、20代のネットワークの感染も一巡したので、単身世帯比率の高さ、年代間接触密度の低さや自粛による非接触層の多さなどの抑制力が上回り、感染確認者数は激減しました。もともとの感染抑制力とワクチン接種による集団免疫効果が効き始めてきました。しかし、エンデミック(風土病)の可能性は残っています。

 東京都の12才以上の人口は約1,263万人です。ワクチン接種率は75%まであがると予測できます。従って、デルタ株の基本再生産数が、「4」であれば感染拡大は起きない可能性が高いです。

 しかし、「5~8」の場合は、接種率は90%前後になり、12才未満の感染可能人口、すなわち感受性人口は約316万人が罹患する可能性があります。この12才未満の人口を含め約500万人の感染拡大が懸念されます。1日の感染者数は最大で2,000人程度でしょう。重篤者はほとんど出ないと思われます。この時に、政府や都が消費マインドを再凍結するような感染対策をとることが最大のリスクです。感染リスクは極めて低下したと思います。

04

17ヶ月で拡大した収入格差―消費凍結層

 2020年4月に発令された第1回緊急事態宣言から17ヶ月が経過し、生活者には大きな変化がありました。ひとつは、すっかり消費マインドが冷え込んで消費凍結が起こっていることです。ふたつ目は、この期間、年代、業種で、収入格差が大きく拡大したことです。コロナ禍の政策で打撃を受けた飲食、ホテル、飛行機や鉄道などの交通機関、旅行代理店などの20代の雇用者の収入を直撃しました。30才の独身者で、手取り13万円というのはよく聞きます。1Kの部屋に8万円、水道・光熱・スマホに2万円、3食に月3万円で、1日3食1,000円です。働くための憂さ晴らしの路上飲みは生活防衛です。

 他方で、株価の上昇は株を持つ層にたくさんキャピタルゲインをもたらし、水道ガスなどのインフラ企業はコロナの影響を受けないので好業績を反映して雇用者収入を上げました。

 結果として、勤労者の間に、少なく見積もっても年間32万円ほどの差が出ています。こうした層は消費マインドが凍結されたのではなく、財布のレベルで凍結されています。

05

今後の予測ー凍結した消費マインドを溶かす

 解除によってV字回復にならないなら、どうなるのでしょうか。消費マインドの凍結ー解凍というレヴィンの場の心理学モデルで消費者を4層に分けて、解除後の消費増加のプロセスを描いてみました。

図表.消費増加層と消費回復パターン
図表

 金魚を小さな鉢で飼育し、大きな水槽に移すと、小さな金魚鉢の空間の大きさの中でしか活動しません。カマスなら大きさを学習していない新しいカマスも水槽に放すと大きな水槽を泳ぐようになります。金魚は新しい金魚をいれてもダメで、少しずつ自分のテリトリーを広げていくので、長く時間がかかります。

 解除後の消費増加の動きは金魚型になるのではないでしょうか。金魚型のイメージで、どんな層がどんな商品から消費を増大していくかを整理しました。はじめ先行増加層の2%、続いて限定増加層の17%、増加見込層で23%。ここまでで42%です。残りの58%は、収入見通しの不確実性が高く、収入減少層も多いので消費は凍結したままです。従って、1年後に消費を増加させる層は42%までです。

 21年度下期及び22年度に企業が増収増益を狙うには、層を明確にセグメントして、プロモーションを打って、売りを完結することが大事になっています。具体策は、11月11日に開催する「消費社会白書2022」のワークショップで提案します。

>> 2.「静かに激変する『当たり前の日常』と解凍消費」

「消費社会白書2022」発表会 ネクスト戦略ワークショップ
消費回復の鍵は凍結した消費マインドの溶解
-アンフリージング・マーケティング
【会場/オンライン同時開催】2021年11月11日(木)10:00~12:00

経済格差が拡大し上流と下流に二階層化する社会の中で、 消費は延期化され潜在購買力が蓄積されている状況にあります。消費研究の分析結果に基づき得た結論は、消費を引き出す鍵は、あらゆる商品サービスを「経験財化」することです。
消費者の価値観、ライフスタイル、消費行動の分析結果や事例研究から、消費の回復を展望します。

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