2022年の消費の読み方-価値拡張マーケティング

2021.11.12 代表取締役社長 松田久一

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本コンテンツは、2021年11月11日に開催したネクスト戦略ワークショップでの講演内容を総括したものです。
各セッションの講演録は順次公開してまいります。

01

ワークショップ

 11月11日の「消費社会白書2022」発表会には、日本を代表する消費財メーカーの多くの方々にご視聴いただき誠にありがとうございました。ご視聴いただいた方々の売上合計は約30兆円になります。日本のGDP個人消費の約10%を占めます。みなさんとともに、低生産性・低賃金の日本を、「価値あげ」で乗り切るマーケティングを提案させていただきました。

 ここに重ねてお礼を申し上げるとともに、視聴いただけなかった方々に概略を説明させていただきます。

02

2022年の消費の読み方と価値拡張マーケティング

 私は、「2022年の消費の読み方と価値拡張マーケティング」というテーマでお話ししました。基本的な内容は、「2022年の消費の読み方」です。消費の読み方は三つの視座で読めます。「コロナ感染拡大の行方」、「はがれた格差」、「深部ですすむひとり本位」です(図表1)。

図表1.
図表

03

コロナ感染拡大の行方

 コロナ感染拡大は、「感受性人口数」とデルタ株の「基本再生産数」で決まります。また、実効再生産数は過去18ヶ月間「0.5」を切ったことはほとんどありません。従って、小さな流行を繰り返すエンデミック化しています。現在、東京では、2021年末(12月31日)でワクチン接種率は74%と予測できます。それ以後は上昇しません。この前提で感受性人口と予測される基本再生産数から、今後の流行を予測しました。基本再生産数を「2.5」(従来株)と設定すると年内に収束しますが、それ以上の値になると、2022年度に、12才未満を中心に、1日約4,000人~56,700人と感染拡大があると思われます。すでに東京(11月12日時点)では、前週比が1.0を超え、2週間で倍増のペースになっています。

 重篤者や死者数が増えませんが、問題は感染症への不安感が拡大し、「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」が再発動され、消費マインドを再凍結させてしまうことです。

04

コロナではがれた格差

 ふたつ目の視座は、「コロナではがれた格差」です。代表的な家計の消費の動きをみるのに、家計調査の「2人以上の勤労世帯」の収入と支出が使われます。しかし、この世帯が少数世帯になるなかで、全体の支出動向がつかめなくなっています。そこで、国税庁「民間給与実態統計調査」から収入の変化を分析しました。すると、消費を決定する収入は、コロナ禍で、特にボーナスの急落で減少に転じるとともに、「地割れ」のように業種間で大きな差が生まれていました。業種業界ごとに生産性の違いがあることに加え、コロナ禍の業績格差が直撃しました。

 結果として、個人収入の階層化がすすみ、過半数を占める55%の年収400万円以下層と45%を占める年収400万円超層へと分断されました。自立生活不可能な200万円以下層も22%います。コロナは、個人の収入格差を覆っていたベールを剥がし、「低下層」個人が存在することを示しました(図表2)。

図表2.
図表

05

深部ですすむひとり本位

 三つ目は、「深部ですすむひとり本位」の価値観です。「親ガチャ」で「自己実現」できるかどうかが決まると思われています。従って、みんな自己実現できる時代ではなくなりました。コーホート分析の結果です。変わって世代交代で強くなっているのは、明日のことなど考えない「自由気ままな生活」です。渋谷の路上飲み、銀座のOLの路上飲みの若者達です。そして、強まっているのは、「家族離れ」です。「最後に頼りになるのは家族」という意識は約10年で10%ダウンし、54%に落ちました。さらに、「結婚はした方がいい」は25%ダウンの47%。「子供はいた方がいい」も30%ダウンの49%です(図表3)。こうした「ひとり本位」志向を支えているのは、「人間関係のわずらわしさ」を避ける意識とSNSなどの情報ネットワーク環境です。

図表3.
図表

 サルとゴリラなどの類人猿を区別するのは家族です。人間も類人猿から進化した家族社会です。アメリカはZ世代の家族づくり志向は極めて高いです。サルは「ひとり社会」です。日本は「ひとり本位」を志向しています。この志向は、日本だけでなく、家族を大切にする儒教倫理が支配した東アジア全般に広がっています。結果として「合計特殊出世率」が下げ止まっていません。

06

個人階級の時代と40代女性

 2022年を読む三つの視座を総合して、2022年という時代を規定してみると、中流社会がひび割れした「個人階級の時代」と言えるのはないでしょうか。

 この時代に、もっとも注目できるのは、「40代女性」という年代です。なぜなら彼女達は動かざるを得ないからです。ライフステージ、子育て、仕事での出世、転職や再就職、カラダとこころなどあらゆる人生の節目を背負っています。都心ラグジュアリーホテルのインセンティブを活用したランチ会で盛んに情報交換しているのは彼女達です。

 彼女達を「Salad Bowl Women」と捉えビジュアル提案しました。当社のクリエイティブチームがイラストをベースに提案しました(図表4)。

図表4.
図表

07

価値拡張のマーケティングで価値あげ

 このような時代にどんなマーケティングを展開すべきでしょうか。

 「価値拡張のマーケティング(Value Extension Marketing)」を提案しました。消費マインドの溶解は、消費者層によって違ってきます。ターゲットはリーダーを狙うのではなく、「スライド」させていく必要があります。固定化する低階層向けの新しい事業定義が必要なのかもしれません。消費者に、メディアで、認知を上げ、属性評価を訴求し、好意をあげて、固定化を図る手法は、消費者のこころのあり方には馴染みません。もっと、商品を選ぶ「近道」や、「利得よりも損出回避」を重視する「心の歪み」に対応した展開が必要です。新たな4Pを提案させて頂きました。

 最後に、低生産性・低賃金の日本を変えることができ、値上げを説得できるのは、価値をあげることのできるマーケティングしかないということを提案しました。商品、価格、取引ネットワークは、短期的には変えることができません。2022年は、リアルプロモーションが成功の鍵となります。

書籍イメージ

2021.11 発行
版形:A4版カラー
本体11,000円(税込み)

「コロナからの、KAITOU」
2021年に2022年のみなさんに送るわたしたちのメッセージです。コロナによって、とりもどせるはずの「あたりまえの日常」は、はるか遠くにあるのかもしれません。消費のマインドは凍結してしまいました。
コロナに今どんな回答(KAITOU)をすればいいのか?どんな解答(KAITOU)があり、どんな解凍(KAITOU)の方法があるのか?
事実を提示し、みなさんに少しでもヒントを提供できればと存じます。