本コンテンツは、2014年5月22日に開催したワークショップでの講演に加筆・修正を加えたものです。
戦後の日本社会は、中流階級がふくれあがり、団子のようになっていました。しかし、戦後70年を過ぎ、この社会構造に変化が起こっています。具体的にいうと、いくつかの頂点がある複峰型の階層社会です。この変化に伴い、これまでミドル層を軸にしてきたマーケティングも変化が求められています。
戦後創業した企業も還暦を過ぎました。これから先も存続していくため、先の時代を見据えたタテの戦略が必要です。1月中旬にKADOKAWA中経出版より、「比較ケースから学ぶ戦略経営」を出版しました。今回は、その中からエッセンスを紹介します。
タテの戦略とは、危機を乗り越えるために、歴史的経緯を踏まえて事業活動を革新する新しい方針を指します。一方、ヨコの戦略は一時点での市場の機会と脅威を捉え、目標を設定し、それを事業活動に変換することをいいます。これは、一般的にマーケティングで使われるSWOT分析などです。
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コダックの経営破綻と富士フイルムの経営革新
現代社会では、たとえ大企業であっても時代に合わせた変化が求められます。それができない会社は生き残ることができません。その例が、アメリカの名門企業コダックの破綻です。コダックは、ハーバードビジネススクールのケーススタディでもたびたび取り上げられる超優良企業だっただけに、同社の破綻が世界に与えた衝撃は大きかった。一方、そのコダックを必死に追いかけてきた、富士フイルムはそのコダックを追い抜き、今や優良企業に成長しました。2社の差は、どこにあったのか。結論は、それぞれの企業がとった戦略が違ったからです。
デジタルカメラの台頭によってフィルム需要が年々20%ほどずつ減少していきました。そういった中で、コダックはモトローラからプロ経営者のジョージ・フィッシャーを招聘。フィルムの落ち込みをカバーするために、ネットワークと消耗品の提供に力を入れ、潤沢だった剰余金を使ってフィリップスなど様々な企業と組んで、新しい商品を模索しました。
一方で、ソニーやパナソニックなど有力な家電メーカーがデジカメを続々と発売する日本にいた富士フイルムでは、フィルムがデジカメに完全に取って代わるという強い危機感が生まれました。そこで、富士フイルムは本格的にデジカメに参入することを決めました。同社は、独自のCCD技術を使い、他社とは差別化されたデジカメを発売し、人気を獲得していきました。
また、富士フイルムにとっては、富士ゼロックスを買収できたこともラッキーでした。ゼロックスは、日本名J-starというワークステーションを開発しましたが大失敗に終わり、そのため資金難に陥っていました。そこで、富士ゼロックス売却の話が持ち上がり、富士フィルムにも買わないかという話しが来ました。この買収により、富士フイルムの売上高は、1兆4,400億円から一挙に2兆4,000億円に跳ね上がることになります。
また、コダック、富士フイルムの両社の組織を比べると、フィッシャーは後にコダックのCEO時代を振り返り、組織が全く動かなかったと説明しています。一方で、富士フイルムは生え抜きの古森重隆CEOの下、危機意識が社員に浸透し、全社一丸となってフィルムからデジカメの方向へと動いていきました。