眼のつけどころ
個人消費を復活させる「第四の矢」とは?

2015.10.21 代表取締役社長 松田久一

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 消費の低空飛行が続いている。その大きな要因は、消費増税の影響をいまだに引きずっていることだ。アベノミクスによって上昇基調に転換したようにみえた消費は、2014年4月に8%に上げられた消費増税以来、いまだに回復したとは言いがたい状況が続いている。消費増税のインパクトが長引くのは、なぜなのか。

 消費増税の影響が最も大きく現れたのは2014年5月だ。消費支出は、前年同月比で91.2%と落ち込んだ。その後、2015年4月にようやく前年同月比で100.5%と改善したが、増税前の2013年同月と比べると、まだ悪化から抜け出せていない。15年8月でも13年同月比では97.2%となっている。

 日本のGDP(国内総生産)約500兆円のうち、個人消費は300兆円に上る。百貨店や家電量販店の業績を押し上げているといわれるインバウンド消費は、この個人消費の約1%の3兆円程度だ。そのため、個人消費を刺激することが、低空飛行から脱出するための大きなカギになる。

 増税の影響が長引く理由として、具体的には三つが考えられる。

 ひとつ目は、60代、70代といった高齢層への影響が大きいことだ。多くの人がリタイアしたり、リタイア間近のこの層は、他の年代と比べて収入が少なく、資産運用や年金で生活している。増税で支出だけが恒常的に3%増えたため、消費を削減せざるをえなくなった。

 ふたつ目は、40代、50代への影響が予想以上に響いていることだ。アベノミクスによる収入アップも、一部の大手企業に限定される。一般的に消費は収入によって決まると考えられており、中でも長期的な生涯収入見通しが消費に大きく関わっている。見通しが明るいのは一部の人だけ。一方で増税により支出は確実に増えている。結果的に消費水準を下げて、貯蓄を増やそうという人が多くなっている。

 最後の理由は、現在20代前後の若い層は、それより上の消費に対してネガティブな層に比べて消費にポジティブだが、まだ本格的な消費をする段階に至っていない。また、アベノミクスで恩恵を受けた株式の保有者も数が限られていることだ。そのため、このプラスの効果が消費全体に及ぼす影響が小さい。

 アベノミクスの金融緩和で、円安となり、輸出が増え、企業業績が回復。その結果、個人消費が上向き、企業の設備投資が増えるというシナリオはもはや通用しない。

 一方で、日本の個人金融資産はGDPの3倍以上の約1,700兆円ある。これを消費や投資に回すだけで、低空飛行から簡単に上昇できる。そのためにも、政府の打つ矢ではない、産業界や企業独自の消費者を惹きつける新しい価値の創造が必要だ。