不況下でも伸びる企業は飛躍する。
バブル崩壊以後、日本の企業は三度の景気後退を経験している。日本の大手消費財メーカー約50社の業績を調べると、この三度を増収増益で乗り切っている企業はおよそ30%前後である。業績の差は、市場や技術などの産業の成熟度よりも個々の企業の経営努力の差による。しかし、2008年度に後退局面に入ったとみられる戦後14度目の不況は、世界同時不況などの呼称は様々だが、より厳しい情況が予想され、増収増益企業は20%程度となるであろう(図表)。ちなみに、不況期においての増収増益企業は、1991~93年のバブル後不況期には28%、97~98年の金融不況期には40%、01~02年のITバブル後不況期には32%だった。
身近な食品メーカーでは、山崎製パン、江崎グリコ、エスビー食品、東洋水産などが増収増益である。これらの企業の特徴は、2008年度の原料高騰に伴う値上げを見事に乗り切ったことである。ライバル企業は、原料高騰による単なる値上げ策をとったのに対し、これらの企業は、新技術・新製品などによる品質改善を加え、値上げの理解を顧客に求めた。この結果、市場が伸びない中でシェアを拡大し、増収増益につながった。
流通では、セブン&アイ・ホールディングスやイオングループなどの大手組織小売業のプライベートブランド(PB)が伸びている。セブン&アイは、2008年度、増収増益とされるが、タバコの成人識別販売制(タスポ導入)への移行による対面販売増の影響でコンビニエンスストア業態が好調なのに加え、本格参入したおよそ600品目、約1,800億円のプライベートブランド事業の好調が寄与している。減収減益ながらPB事業では先行するイオンでも、およそ5,000品目、約2,647億円が前年同期比138%の勢いである。
何が企業の業績の明暗を分けているのか。答えは市場への価格対応の差にある。
消費者からみれば、今回の不況は、素材・原料の高騰に始まり、食品や石油などの日用品の値上げに及び「増えない収入、増える家計費」の実感が広まり、財布のひもを締め、企業の業績悪化から、雇用不安に陥り、さらに節約に走るという経路を辿った。その結果、節約のためにおよそ32万円の1ヶ月の生活費が、価値や品質、価格、そして、パフォーマンスで見直され、絞られた。
ふだんの生活のなかでの必要性を厳しく問われた自動車や情報家電はこの見直しに十分に対応できなかった。増収増益の企業は、消費者の支出の見直しや商品サービスの再選択に応えられた。しかも、単なる低価格ではない。実例は値上げにも関わらず好業績をあげた先の食品企業に見られる。食品業界では、中国餃子事件や相次ぐ企業の不祥事によって食品の品質への信頼が大きく揺らいだ事は記憶に新しい。このような中で、世界的な素材・原料の高騰によって、多くの企業は値上げを余儀なくされた。企業への不信が渦巻く中での値上げは企業と消費者との信頼関係をさらに悪化させる危機でもあった。多くの企業が単なる値上げに走り、割高感が高まり、信頼を失った。この機に、消費者が期待する品質を訴求することによって、新たに信頼を醸成し、値頃感を訴求することで乗り切った。大手小売業のPBが伸びているのも、安さだけでなく、製造者が有力企業に代わり、さらに、大手が販売するという製販二重の信頼の仕組みが品質を保証していることにある。従って、PBがトップブランドの食品カテゴリーも増えている。不況期は、低価格競争が激しくなり、消費者との信頼の絆である価格が揺れる時期である。この機には、消費者との信頼を勝ち得た企業がライバルを振り切れる。
[2009.01 エコノミスト]