II. 現代の戦略とマーケティング

3.競争戦略のヒント

やられたらやり返す戦略を考えたいひとのために
-「決戦!業界関ヶ原」の自薦文

2008.02 代表 松田久一
決戦!業界関ヶ原
2強対決から勝利の戦略を学びとれ

松田久一 JMR生活総合研究所
書影

発行日 2008年1月
版形  B5版 本文125頁
定価  本体1,000円+税

 この本は、「週刊エコノミスト」に2007年度に連載したものを再編集したものである。連載ではスペースの都合で小さかった図表も大きくでき、文字も見やすくできた。利用した決算データなども最新版に更新した。「決戦!業界関ヶ原」と題しているが、内容は実に真面目なものだ。18の対決事例を厳選した「読める」業界競争の事例集である。

 事例及び事例を活用した学習はビジネススクールでよく使われる。ここで作成したものはビジネススクールの事例とは主に四つの違いがある。ひとつは、極めて鮮度が高いことである。旬の事例を扱っている。ヤマダ電機の東京攻略、東芝対ソニーの次世代DVD競争、シャープの液晶戦略などをカバーしている。この事例を読んで頂ければ、ヤマダ電機の東京進出は成功するのか、あるいはどんな影響を業界に与えるのか、なぜ、東芝は次世代DVDから撤退したのか、なぜ、シャープがソニーと手を組み、なぜ、ソニーがサムスンと手を組んだのかが理解できるはずである。ふたつ目は、実務のマーケティング及び戦略経営の観点から、先端の競争の現場を記述していることである。一般的な教科書では得られない現実競争の凄さをできるだけリアルに描写しようとしている。三つ目は、ミクロ経済学及び産業組織論の経済モデル分析を盛り込んでいる。これが従来の事例にはない最大の特徴かもしれない。マーケティングは多くのヒントを与えてくれるが理論的根拠が弱い。経済学は実に多くの原理と原則を教えてくれるが、実際には役立たない。こうした反省に立って、理論のあるマーケティング、使える経済学を志向している。最後に、実にコンパクトに短くまとめていることである。しかし、内容はロングケースに勝るとも劣らない。オリジナルの図表や理論でうまくカバーしたからである。

 読者のみなさんに提供したいのは、この18の事例を学んでもらうことによって、ビジネスで勝利する戦略の原則を身につけ、実践に応用できるようになって頂くための材料である。

 ビジネスは一度やられたらそれっきりだ。個人に敗者復活はあるが会社という法人にはない。やられたらやり返さないと生き残れない。ところが、世界で日本を見渡せば、力があるのにやられ放しだ。外交、政治、スポーツ、ビジネスのどの分野でもそうだ。学校ではやられたらやり返さないと教えている。暴力の連鎖が生まれるからだ。これは政府が警察によって治安と秩序を維持しているから言えることだ。しかし、その治安と秩序は力によって保証されている。私たちの住んでいる国際社会、日本社会、経済、そして、ビジネスを貫徹しているのはこの力の論理だ。平和、秩序や業界秩序は、みんなが法律を守り、道徳を遵守しているから維持されているのではなく、力と力が均衡しているからである。ビジネスは、力と力のぶつけ合いによって顧客のニーズを満たし、世のためになることで利益をだす力の世界だ。このような至極当然のように思える力の現実認識から戦略思考は生まれてくる。日本人の若い世代が学ぶべきは戦略思考である。

 序章を読んで戦略についてのおよその概念と原則を見通し、事例によってそれらを検証し、自分の言葉で言える概念と原則を学び取り、実際に実務で実践感覚を身に付ける。理論の学習、事例による検証、実践による応用という三段階を想定している。本当に戦略思考が身に付く唯一の方法である。ただ、やはりひとりでの勉強には限界がある。楽しさや効率の面では仲間がいた方がいい。できたら弊社サイトでうまくサポートできたらと思う。

 ハーバードビジネススクールで知人が教えている。生徒が平均年齢30歳に近い中で、まだ、20代の超若手である。

 赴任一年後に、日本人はどうかと聞いたら、まあできるよ、と言ってくれた。お世辞だとすぐわかったが、彼にクラスでできるのはどんな人かと続けて聞いた。「世界最高のコンサルタント会社」を自称する組織から来ているイギリス人はまあよくできるね、中国系の女性シンガポール人も頭がいい、そして、誰よりも凄いのはまったく経済やビジネス知識はないが、戦いを知っているドイツの軍人だ、と言う。これを聞いて、やられたらやられ放しで、戦う文化を失った日本を嘆きたくなった。無駄に嘆くよりも、実際の戦略思考を身に付けるには、ありきたりの戦略本や業界本と比べて1,000円で学べる実に安い事例集であると自賛し、自薦する。

[2008.02]

寡占対決に勝利する戦略 -事例で身につける戦略作法 -「決戦!業界関ヶ原」巻頭言