IT革命の進行は製造業主導で進行し、メーカーマーケティングにe流通革命をもたらす。メーカーと消費者を繋ぐパイプが再仲介業の出現によって複雑に枝分かれする。これは製造業にとって最大のチャンスと脅威である。店舗依存流通とeリテイルの強みを組合せ、弱みを相互補完し、顧客の多様な買い方に対応する新しい流通システムを創造することが、e流通革命への戦略的回答である。
本日は「IT革命が拓く新しいマーケティングの可能性」ということで、短い時間ではございますが、私の方から問題提起をさせていただこうと思います。
それでは早速、四つの観点からお話をさせていただきます。
基本的には、まず第一にIT革命、私どもはネット経済化と呼んでおりますけれど、それが現在どんな形で進んでいるのかということについてです。当社では、ネット経済化についてのプロジェクトを立ち上げて研究をすすめており、そこでの調査結果を皆さんにご案内します。第二に、ネット経済化がどれくらいのインパクトがあるのかということをお話します。第三番目には、どんなビジネスモデルが成功しているのかということです。そして最後に、どんなマーケティングを作る可能性があるかということについてお話をしていきたいと思います。結論から申し上げますと、おそらくマーケティングに与えるインパクトは相当大きなもので、これまでマーケティングをリードしてきた方々、理論体系を作り上げてきた方々のフレームが通用しなくなるのではないか、という強い危機意識を持っているわけです。とりわけ本日はチャネルの問題に焦点を当ててみたいと考えています。
IT革命がもたらすネット経済化の現在と未来
まず、IT革命につきまして、いくつか私どもの整理の仕方をご案内したいと思います。ご存知のようにIT革命というのはインフォメーションテクノロジーということです。通信のひとつの手順、インターネットプロトコルとか、あるいはデジタル化といった技術を中心としたいろいろなインフォメーションテクノロジーが起こっております。これがいわゆる技術革新の部分でのIT革命ということです。これがいろいろな形でインパクトを与えてまいります。企業、市場、消費者ということです(図表1)。企業のほうでは企業ネットワークが再編されていくだろうということ。結論から申し上げますと、今までのフルセット型のメーカーというようなものからモジュール型のメーカーになっていくのではないかということです。このIT関連は、マーケティングとか経営戦略というものとは無縁の方々がいろいろリードされていますので、徹底的にカタカナが多くて恐縮ですが、BPR、JIT、FPS、SCSというようないろいろな形で企業の仕事のやり方が変わっていくということです。私どもは天気予報で今日傘を持っていくかいかないか、ということを決めるわけです。私どもの仕事も情報を見ながら判断していくわけですから、インプットの情報が変わりますと行動が変わります。それをBPR、ビジネスプロセスリエンジニアリングとか、あるいはフレキシブル生産システムとか、あるいはサプライチェーンシステムとかいった形でひとつのパッケージにしている、そういうビジネスコンサルティングのやり方もございます。いずれにしましてもIT革命というのは企業の仕事のやり方と企業間のネットワークを変えていくものであります。
同時に消費者のほうは、インターネットが普及していきまして、インターネットが使える携帯電話、iモードですが、これに全面的に切り替わります。そういう形で、消費者の方もAny Place 、Any Time、Any Way、いつでもどこでもどのような形でも商品を入手することができる市場ということになってくる。この企業と消費者を結ぶマーケットが、いわば小売の電子化、エレクトロニックコマース化、電子取引化が進んでいくということで、当然競争はグローバル競争になっていきます。シティバンクの会長が言っていますのは、これからの銀行を世界レベルで考えていくと、いわゆる口座レベルで1億口座ないと生き残れないということです。1億口座というと、日本の人口が1億2,000万ほどですから、子供まで含めてほとんど全部の方が加入するような大銀行が出来ない限り世界の中では生き残れないということになり、競争はグローバル化せざるを得ない。こんな形で企業、市場、消費者がネット化されていくことによって新しいネット経済というものが出来るのだということです。いわゆる小売業経済からネット経済といった形で、21世紀の新しい資本主義、基本的には水とか空気とかが商品にならなかった小売業経済の時代から、水や空気や土とか、そういうものが商品となる新しいネット経済の段階に入っていくというように理解しております。
何故今ネット経済化、IT化なのかということでございますが、IT市場だけに焦点を当ててみますといろいろな指標があります。成長曲線と呼ばれるものですが、1950年代に蝿の成長、人工研究というのをやった方がいて、そこで発見した法則というのがS曲線というものです。栄養完備した中で蝿を飼育しますと、蝿の数が時間の経過とともにS曲線を描く。そのS曲線を適応してみると、いろいろなものが成熟して普及していくにはそういう成熟曲線を描いていくのだということです。現時点でPC普及率が25.2%、つい先頃発表されました郵政省の通信白書の調査では、インターネット利用者は、昨年度末は1700万人と言われていましたが、今年度の発表では何と2706万人という数字になっております。ネット化、インターネットを使えるような環境が出来ていくというのを整理いたしますと、いろいろな指標が15%から30%に達してきております。これを先ほどのS曲線に適応しますとちょうど15~30%の段階が最も成長率が高くなっていくということでございます(図表2)。こういう15~30%の段階から一挙に駆け抜けていく、これが今注目されている理由だと思います。それに対して企業のほうは、ビットバレーと呼ばれるような渋谷のベンチャー企業の人たちは非常に関心が高いのですが、日本の基幹産業であるメーカー系の人々は関心が薄いという大変残念な状況になっております。そのメーカーのマーケティングにどのようなインパクトを与えていくのかということをお話していきます。
普及していく背景にはいくつかポイントがあります。ひとつはEC端末が多様化していくこと、パソコンの時代はもはや終わったということです。インターネットが使える端末と考えると、これまではパソコンオンリーだったわけで、日本でなかなかパソコンが普及しなかった理由には、やはりキーボードの問題があります。それを突破するような商品が出てきました。ご存知iモード、続きましていろいろなメーカーがインターネットプロトコルが使える携帯を出していって、端末が多様化していく。もっと言いますと、プレステ2のようなゲーム機が端末になっていく、テレビが端末になっていく、冷蔵庫が端末になっていく、電子レンジが端末になっていく、電子レンジと冷蔵庫を組み合わせた機器間ネットワークが可能になってくる、家が端末になってくる、自動車のカーナビが端末になってくる、自動車が端末になってくる、といったような形でどんどん端末が多様化していく。その多様化していく中で使われているOSは、MSウィンドウズではないわけです。ああいう重いOSでは動かない。従ってマイクロソフトについては、分割という問題もありますけれども、それ以前の問題としてこの市場をリードしていくのは難しいだろうと見ております。こんな形で端末が多様化して爆発的に成長していくということです。そして現在、この成長率をそうとう過小に見誤っているのではないかというのが私たちのひとつの結論です。