冒頭に結論を申し上げると、現在、日本企業が利益を出そうとすれば、「市場プラットフォーム」を作るのがよいし、それしかないと考えている。では、どのように市場プラットフォームを作るのかであるが、意識的に作ろうと思ってできた事例は、知るうる限りあまりない。事業を始めてみたら結果として市場プラットフォームになったという事例がほとんどである。
プラットフォームという言葉は、駅のプラットフォーム、車の車体を意味するプラットフォーム、半導体など共通設計仕様としてのプラットフォームなどに使用されている。それぞれの分野で独自に解釈されているので、ここでは他の分野との混同を避けるため、市場プラットフォームと呼ぶ。市場プラットフォームとは、ビジネスの仕組みやシステムのひとつの「型」である。つまり、ビジネスモデルである。
現代では、戦略経営という観点から言えば、戦略を立てること=ビジネスモデルを選択して構築すること、だと考えられている。戦略は定義するものではなく、どのように現場で応用できるかが問われる。これは、司馬遼太郎も『坂の上の雲』で秋山真之にいわせているものである。
企業が置かれている環境はすべて異なるため、その環境に合わせた千差万別な固有の戦略が必要になる。他方で、成功している多様な戦略のなかには、戦略のパターンというようなものがある。それが論理的なビジネスモデルである。
たとえば、企業、特に、大手消費財メーカーのものとして考えられているビジネスモデルが五つある。マイケル・ポーターの5forcesと三つの競争戦略を考えると、わかりやすい。
- ・コスト優位モデル ライバルよりも30%以上の低コスト地位にある
- ・差別化優位モデル ライバルよりも30%程度の価値の大きさを認められている
- ・顧客集中モデル 特定の顧客向けにビジネスを集中している
- ・能力拡大モデル 自社の技術や能力を拡大して市場を拡大し、浸透させる
- ・市場プラットフォームモデル
この五つのビジネスモデルが、現在、高収益をあげているものだと考えられる。これらは、日本の産業をリードしてきたモノづくり企業では使われていない。つまり、現在の大手日本企業のビジネスモデルでは成功しないということを意味している。大手メーカーで企業向けの研修をすると、新規事業のアイデアをうまく発想できない場合が多い。それはモノづくりをして儲けるという考えが染みついており、モノづくり発想から抜け出せないのが原因であると感じている。
任天堂のビジネスモデルを考えると、同社は、ハードではなくソフト、そして、ソフトのカートリッジ生産で一番儲けている。ソニーにしても、ハードで差別化し、CD-ROMで儲けている。任天堂はハードを安くしソフトで儲ける戦略、ソニーはより高機能なハードで差別化する戦略という点で違いはあるが、実際にはハードとソフトの一体で統合して儲ける戦略は共通である。両者には、ハードとソフトの互換性はなく、垂直統合競争をしている。これだと経常利益は、10%程度となる。
一方、ソーシャルゲームのDeNAやGREEの経常利益率は45~50%で、同等の利益率をあげる企業は浮かばず、新規事業はできていないと言われるほどの高収益である。この高収益の秘密は、斬新なゲームのアイデアや技術力などと言われているが、私はビジネスモデルだと思う。
DeNAやGREEにおける市場プラットフォームとは、消費者にゲームを楽しんで頂くための関与者をつなぐ機能や仕組みのことである。従来、消費者がゲームを楽しむには、ゲームをするハードとゲームソフトが必要である。任天堂やソニーは、それぞれ1社でソフトもハードも一体にした上で、包括販売をして消費者に差別的なゲームを楽しんでもらう仕組みを提供しようとしている。しかし、DeNAやGREEは、携帯電話やスマホなどの端末を利用して、ネット上のサイトに来てもらえば、ちょっとした時間潰しになる易しいゲームから、友達づくりをして、友達と協力して敵を倒すロールプレイングゲームまで楽しめる仕組みを提供している。また、ゲームメーカーには、ゲーム提供の場を用意している。つまり、DeNAやGREEが消費者に提供しているのは、消費者がゲームを楽しむ場であり、「遊びの場」なのである。このように、消費者が何らかのニーズを充足するために必要な商品やサービスの関与者をつなぐ仕組みや機能がプラットフォームであり、このようなプラットフォームの提供を通じて事業の仕組みの中核となっているのが、市場プラットフォームのビジネスモデルである。
[2013.01 MNEXT]