この論文は、差異的な情報(情報ディファレンス)による差別化の可能性を検討し、情報を武器とした戦略的マーケティングの原則と「情報的プロモーション」を提案するものである。自社のブランド認知やイメージを主にマスメディアによって形成する「説得的手法」ではなく、店頭やインターネットを通じて、メニュー提案、用途、使い方、暮らし方や生活スタイルなどの提案による情報的プロモーションを差別的な競争優位に結びつける戦略である。
主な論点は、以下のとおりである。
デフレ市場下で、これまでの主流的なマス宣伝と店頭での大量陳列によるプロモーションは勢いを失いつつある。現場のマーケターの間では「マス広告が効かない」という認識は半ば常識化しつつある。他方で、有効性が注目されている「情報的プロモーション手法」は実践が先行し理論化や有効性の検証は行われていない。マス広告が有効性を失っているのは、本来、ひとつの複合製品である製品と情報がメディアの多様化によってアンバンドリングされ、主にマスメディア特性からくる制約によって消費者に提供される情報の「質」が消費者の求める情報と乖離していることによる。製品サービス需要を増大させる情報は、製品サービスに付属する使い方や用途などの、情報消費社会で過少とならざるを得ない生活の知恵や知識に分類される「プログラム」的な情報である。しかしながら、このような情報は、誰もがアクセスできる公共的情報であり、消費者にとって価値ある情報であるにもかかわらず、売り手が買い手を識別できないという情報非対称性の市場下では、フリーライダー問題によって企業収益の専有化に結びつけることが容易ではない。しかし、フリーライダー問題はうまい制度設計によって回避可能であり、企業は差異的な情報を提供することによって、物的製品を差別化し販売することができる。情報の生産と提供による差別化の鍵はネットコミュニティの形成にある。情報的プロモーションは万能ではないが、説得的プロモーションと市場競争条件によってうまくミックスさせることによってより戦略的な効果を得ることができる。
一般に、特許などの知識を除いて情報によって企業は差別化できないと思われている。この論文は、情報消費社会においては情報こそ差別化の源泉であり、また、差別化は可能であることを主張する。主に、経済分析、事例研究、経験原則によって明らかにするものであり、我々の提案する「戦略的マーケティングの経済学」の一環である。
[2003.05 J-marketing.net]