「エゴグラム」という性格診断を1996年頃から提供している。狙いは、性格診断による消費者の心理的解釈を目的とするものだった。おかげさまで、利用者は延べ1400万人を超える。今回、性格診断サイトの大改修を行い、より利用していただきやすくし、データを刷新するために、匿名データをもとに、16年間の性格診断の結果を分析してみた。みなさんのご協力に感謝の意を込めて、日本人の性格の変化、としてまとめてみた。
診断結果を、全体の結果を合わせてご理解いただき、それの応用がよりよい消費社会につながる可能性が生まれてきたことを案内したい。
01
結論
2008年からコロナ禍を経て、2024年の現在までの約16年間の性格類型の分析を試みた。その主な結果は、以下のとおりである。
・ 出現頻度の高い上位10性格は変わっていない
・ 日本人にもっとも多い性格類型は、常に「様子うかがい」タイプである
・ 日本人の性格類型は集約(画一化)傾向にある(上位集中度が高まっている)
これらについて若干の解説を加えて、現代日本人の性格について考察したい。
02
なぜ日本人の性格はこの16年間変わっていないのか
データ取得の16年間、様々な変化があった。
日米中対立など日本を取り巻く地政学的な環境の変化、平成から令和へ、長いデフレ経済、地震などの自然災害、安倍元首相の暗殺など驚くべき社会的事件、そして、社会が停止してしまったコロナ禍などを経験してきた。
従って、日本人の性格も、随分変わったのではないか、という仮説を持っていた。しかし、統計的事実では、性格類型の集中度とその傾向に関して、あまり変化していないことがわかった。
「様子うかがい」がもっとも高く、11~13%、続いて、「ひたすら忍耐」、「現実逃避」、「自由奔放」の三つの性格が6%前後で続く。この傾向が持続している。
「様子うかがい」は、周りの状況に合わせ、ものごとを判断していこうという性格である。
「~すべき」という倫理観の代理指標である超自我、現実適応をめざす自我がともに中位で、子供の側面を示すとされる、社会順応性が高い性格である。このタイプは、現実への適応を自我の葛藤なしに無意識にするタイプと解釈され、「様子うかがい」と命名している。環境の変化に、「様子をうかがい」ながらちゃっかり適応してしまう。河合隼雄氏などが日本人として指摘してきた「状况依存的性質」である。
つづいて、「ひたすら忍耐」タイプは、超自我、自我と順応した無意識が高く、自由奔放な子ども性を持たないという特徴がある。親的な倫理観と現実適応をめざす自我との葛藤が生まれやすいタイプであることから「ひたすら忍耐」と名付けている。変化に対して、「~すべき」という模倣的親の指示と、折れない強い自我が葛藤し、うまく適応できなければ「ひたすら忍耐」するしかない。
「現実逃避」は、自我が弱く、超自我と無意識の欲望が強く、超自我と無意識が対立し、自我がまったく調整できない性格である。自我は、超自我と無意識の欲望の対立が激しいので、現実への適応を諦め、「逃避」するしかない。内的葛藤が大きいので現実を無視する傾向のある性格である。
「自由奔放」は、厳しい倫理観を持つ超自我が弱く、自我が中位で、無意識の欲望が強い性格である。従って、自分の欲望に従い、自由奔放に生きようとするタイプである。
これらの四つの性格が、常に上位を占めている。日本人全体の34%と約3分の一を占めている。
この上位四つに共通しているのは、現実を認知し、自分の倫理観や道徳感を尊重し、欲望を充足していく機能を果たす自我の弱さである。
「ご時世」や「時代」という言葉で状況を捉え、それに合わせていく。時代に自分の考えが合わないなら「ひたすら忍耐」する。そして逆に、現実を無視して、ファンタジーのなかで生きていく。主要な三つの性格は、異なるようで、自我が中位となり、比較すれば自我が弱いタイプである。「甘えの構造」(土居健郎)、「モラトリアム人間の時代」(小此木啓吾)、「母性社会日本の原理」(河合隼雄)などで指摘されているとおりである。
自我意識の高い欧米との比較では、日本は自我の弱さがその特徴であり、母子依存的な生育環境のなかで、周囲との協調を優先する性格になりやすい、と推測される。国際比較では、フィリピンや韓国が、日本よりも母性依存的性格が強く、欧米では、自我が強く、父性的性格が多いことが知られている。性格が誕生する生育環境の違いが、自我が強くない性格を再生産していると思われる。河合氏によると、中東のイスラム社会の厳しい戒律は、自我や意思の弱さを前提に強制的な性格が強い。日本は、自我は弱いが、自我-超自我-イド(無意識)を高みから捉える「自己」の視点を持っていると指摘している。
「リーマンショック」の前年から始め、激動の16年が経過したが、主要性格はあまり変化していなかった。特に、主要3類型は同じだった。
なぜ、この16年間、主要な性格とその特徴は変わらなかったのか。その理由は、極めて簡単である。性格が生まれる家庭環境が変わらず、性格形成に影響を与える母親的役割や父親的役割を果たす人の性格が変わらないからである。
性格とは、人や物などの対象に対する安定的な「好き嫌い」などの態度である。この性格は、自我-超自我-イド(無意識)の形成とともに形づけられる。これらの意識は、母親的役割をする人への依存から始まり、父親的役割をする人との対立などによって、磨かれていく。ここには、経済、社会や自然環境の影響は、直接的には影響されない。従って生育環境が激変しない限り、主要な性格は再生産されることになる。
多くの日本人は、就職したら、結婚したら、子供ができたら、子供が手離れしたら、というようにライフステージが変更するごとに、自分の価値観を変えていく。しかし、性格は状況に合わせて変わることはない。
03
日本人の性格類型は画一化する傾向
日本人の価値観の多様化が進んでいるといわれて久しい。会社や組織で多様化を進めることは、肯定的に捉えられている。しかし、この調査では、性格類型の傾向はより上位集中している。このエゴグラム測定では、測定項目から243の性格が識別できる。しかし、実際に数量的に識別できる性格は31である。この31性格の30%にあたる10性格類型の集中度をみてみると図表3のとおりである。
16年間で次第に上位集中していることがわかる。社会的に集中度が高いといわれる水準は、「2-8」(上位20%の項目で80%を占める集中度の意)や「3-7」とされるので、2024年は、性格の集中度が高く、同質化、画一化が進んでいるといえる。延長推計では、長期的には、上位10性格類型で約70%を超えることになる。
この理由は、生育環境が同質化していることがあげられる。両親の役割を果たす人々も性格の同質化が進み、育児方法や対処などは、IT化によって、マニュアル化、電子化、制度化されている。その結果、同じような親的存在に育てられ、同じような方法で育つので、当然のことながら同じような性格の子供が育つことになる。
従って、ソメイヨシノのように、挿し木や接ぎ木でしか増やせないので、同じ遺伝子を持つことになり、同質的な気候条件などの環境では、一斉に桜が花開く。同じようなことが日本人に起こっているのかもしれない。
04
「かんしゃく玉」「冷静沈着」「ポジティブモンスター」の性格は消失傾向
マクロなレベルでは、性格類型の同質化によって、ミクロレベルでは、この16年で消失する可能性のある性格がみられる。これは、激動した16年間で、これから注目する性格では生き残っていけないことを示し、淘汰されるのではないかと推測できる。
よりわかりやすくするために、性格の出現頻度で順位(降順)づけし、年次ごとに順位の推移をみてみた(図4)。
その結果は、以下のとおりである。
順位を一貫して上げている性格
・ 「自由奔放」
・ 「火山爆発」
順位を一貫して下げている性格
・ 「かんしゃく玉」
・ 「冷静沈着」
・ 「ポジティブモンスター」
この16年という「時代」は、欲望に素直に生きる「自由奔放」や「火山爆発」のように、他者攻撃をして生きる人たちにとっては環境適応的だったのだと思われる。「FIRE」やネットでの「炎上」や「ディスる」ことが日常化したことと整合的である。
他方で、「生きづらく」なったのは「かんしゃく玉」「冷静沈着」や「ポジティブモンスター」である。さまざまなハラスメントが指摘される社会では「かんしゃく玉」的性格の非協調的性格は嫌われやすいことは想像できる。また、少子高齢化と人口減少が叫ばれる時代に、「冷静沈着」であり続けることは難しく、ましてや、16年間も、「ポジティブ」であることも難しい。この結果、今後は出現率が2%を下回り、1%以下になる可能性が高いと予測される。
マクロでは性格類型は変わらないが、ミクロでは性格類型が消失する可能性がある。これは、生育環境を含む時代環境への適応結果である。時代に適応しやすい性格とそうではない性格があるからである。
05
日本人の性格類型の画一化
この16年間は激動の時代だった。平成から令和への転換は、主観的には大きなものだった。性格でみる日本人は、大きく変わったに違いない。加えて、性格の多様化が進んでいるだろうという仮説をもって分析した。結果は、これまで述べてきたとおり、性格類型は集中化、個人間の同質化が進み、母性依存的な他者依存的な性格が増えている。
性格類型からみれば、日本人は、環境適応に順応した性格に集中することによって、時代を乗り越えようとしているようだ。一般的には、大きな変化のある環境においては、生き残り主体は、個体の多様化で進化しようとするが、日本人は変化に強い類型に集中し、同質化して、全体の生存確率を高める進化をしているようだ。
06
性格診断と消費者満足
最後に、性格診断の応用可能性についてまとめてみる。性格とは、生活者の精神の反映である。それは、人を含む対象への好き嫌いの感情などの安定した態度である。この意味で、消費者接点で主にふたつの可能性を持っている。
ひとつは、顧客セグメントとしての可能性である。消費者を非合理的な感情から捉えるサイコグラフィックな変数として、ブランドや商品選択のセグメントやターゲティングに応用し、より充足度の高いマーケティングを展開できる可能性を持っている。
ふたつ目は、人的販売などの人的対応である。様々な商品のネット購入比率が高まっているが、接客なしでは購入できない商品サービスも多い。自我関与度の高い商品、高級ブランドや新技術新製品などである。こうした接点では、消費者と販売員の性格的相性が大きな影響を与える。エゴグラムは、相性によって対応者を変えたり、相性別のセールストークの準備をしたりして、よりよい説得の可能性ができる。
こうした応用を進めていくうえで重要になるのが、性格診断項目である。弊社ではおよそ25項目を必要とする。これを現場で応用するのは、個人情報保護に抵触せず、消費者の合意の上で、消費者への質問負担を軽くする必要がある。
これまではこうした課題が応用を難しくしていたが、AIの学習機能により、集約度の高い質問による判別や、自己選択によって代替できる可能性が高くなっている。
最後に、消費者の個人情報保護などの権利を侵害せずに、よりよい消費社会を創造できるよう、エゴグラム診断を継続、刷新してまいりますので、みなさまのより一層のご理解とご協力をお願いいたします。
注) エゴグラムとは
エゴグラムは、G.フロイトが構築した精神分析理論に基づいて、娘のA.フロイト(防衛機制の研究で知られ、カウンセラー制度の普及に貢献した)が移住したアメリカで発達したものであり、実用的で実証性が強い手法である。成熟した性格診断の方法である。利用用途に応じて性格診断は他にも多数開発されている。しかし、フロイト理論を基礎にもつものはエゴグラムである。個人的には、中期フロイトの「自我論」の局在的自我論がベースになっているので、その後の理論的進展を反映していないので、全面支持できるものではない。しかし、およそ16年間のデータ蓄積をしてみると、うまく自我を捉えられているのではないかと感じる。他方で、超自我やイド(無意識)は、少し課題がある。弊社の欲望論や価値論を踏まえて理論構築が必要である。
注)データの見方について
このデータは、年間100万人以上の延べ利用者から2,000サンプルを無作為抽出したものであるが、もともとの利用者の属性は、性格診断好きなどの特性をもったサンプルであることが考えられ、全国の男女個人の定義の母集団とは必ずしも一致していない。しかし、サンプル数が巨大なので一定の傾向を反映していることは言うまでもない。
注)参考文献