本稿は、ネクスト戦略ワークショップの早期申込み特典冊子「創造立国の時代―Z世代と循環史観」より、松田久一が特別に書き下ろした論文をコンテンツ化したものです。
10月31日までにワークショップにお申し込みいただくと、本冊子のPDFをプレゼントします。冊子の詳細はこちらをご覧ください。
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創造立国の時代
(当社クリエイティブチーム作成)
「創造立国の時代」と時代規定してみてはどうだろう。
創造立国とは、先進国の豊かさと社会の成熟を踏まえ、人と人の繋がりが生まれる社会だ。情報ネットワークや場が多元的に共有され、暮らしを豊かにする価値が加速度的に倍増していく時代である。
おいしい食パンの開発が、新しいトースターを生み、さらに新しいパン中心の朝食メニューが生まれ、ネットで拡散し、生活知識資産として誰もがアクセスできる情報インフラが生まれる社会である。
日々の生活のイノベーションにより、政治対立が暗くても暮らしが豊かに楽しく進化していく。暮らしが変われば政治が変わる時代と展望しておく。
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世代は変わってライフステージを通過するー世代循環史観
根拠は、20年世代区分にもとづく世代循環史観にある。近代に入って、宗教に取って代わった科学への対抗意識として生まれたディルタイやオルテガの思想を受け継いだものだ。アメリカのストラウスとハウが図式化している。少々の難はあるが、史的唯物論(ハーバーマス)後の史観として現実活用できるものだ。アメリカの政治が世代論をベースに変化していることは明らかだ。
この20年世代区分を日本に応用して、現代という「まさか」ばかりの時代を捉えようとするのがこの小論の試みだ。日本には、日本の世代論がある。第二次世界大戦を基点とする区分だ。戦前、戦中、戦後という区分があり、ベビーブーマーなどの人口統計的視点が加わる。従って、戦後世代、団塊世代、断層世代、新人類、団塊ジュニア、バブル後世代、ゆとり世代などと続く。難点は、欧米の20才刻みに対して、5~7才刻みと短く、一定でないことだ。これは時々の論者が命名したもので、世代論を体系的に論じようとしなかったためだ。特に刻みが不定であることによって、世代の循環性が見過ごされることになった。日本の成り行き世代論では世代交代で時代がどんどん変わるという史観になる。しかし、本来の世代史観は、世代交代が起こっても引き継がれるというものである。継続と変化のバランスがとれている。
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現代という時代
世代循環という視点を活用すると、ふたつのことが見えてくる。
第一は、現代(20年区分)が見えてくることである。世代循環史は、4つの転換期を持ち、80年でひとつの時代が交代する。80年時代交代説だ。実証的根拠は、アメリカの歴史をうまく説明できるからだ。
現代日本は、新型コロナ感染症の蔓延、ウクライナ侵略、世界の地政学的分断など「まさか」の事態が続き、未来を上下の「分断社会」と描く人が多くなっている。
この時代に、マーケターには「どんな時代か」が問われている。時代を規定して問うのは、時代が要請する企業の「使命」を知るためだ。ドラッカーが「企業の使命は技術イノベーションとマーケティングだ」と言った意味だ。生活者が時代を動かし、そのニーズに答えることが使命である。
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創造立国の根拠
ひと時代を80年で考え、4つの転換期があるとすると、明治以降、日本は3つの時代を通過している。
まずは、約79年の「明治維新のサイクル」である。日本の近代化の始まりである、政治の民主化、社会の自由化、経済の市場化は、明治に始まる。1806年頃から対外意識が高まり、1853年のペリー来航を機に、「尊皇攘夷」運動の活発化と倒幕、新政府樹立へと繋がる。新政府が近代化をすすめることになった。
第二の100年は、日本が欧米列強に伍して大国の道を歩む「大国興亡のサイクル」である。日本が坂の上の欧米を追いかけ、並び、覇権に挑戦し、敗れた時期である。
第三のサイクルは、戦争に敗れ、空爆後の焼け野原からの「経済大国のサイクル」の100年である。この時期は、「安定と異議」、「成熟と衰退」、「バブルと崩壊」へと続く。そして、現在は時代の転換期である。明治なら維新立国の1860年代の明治維新の時代、戦後なら1950年代の復興からの成長戦略への転換期に相当する。
つまり、旧制度が崩壊し、新しい枠組みが見えてくる時代である。現在は、1950年代に生まれた、成長優先、大衆民主主義、消費欲望から脱却する時期であり、破壊期にある。この破壊の末に生まれるのは、創造力による立国に思える。なぜなら人々が個々の暮らしのイノベーションを盛んに行い、その総和が時代であるからだ。創造立国が生活者の求める時代だ。
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Z世代の攻略法
創造立国の時代。Z世代が注目されることが多い。アメリカでも同様である。少々、食傷気味である。創造立国を踏まえて、その主役となる世代攻略で提案したいことは3つある。
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影響力はアメリカほど大きくない
ひとつは、日本とアメリカのZ世代の共通性と違いである。
Z世代の定義について正確に整理したい。Z世代とは1996~2005年生まれの世代であり、2022年現在は17才~26才である。この世代区分はおよそ20才刻みである。
日米のZ世代は、大きな意味で同じ世界史体験を持つ世代であり、アメリカと同じ次元で議論ができるようになった最初の世代と言える。1996年以降は日本でもアメリカでも世代体験は同じである。
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日本のZ世代マーケットはマイノリティ
しかし、人口に占める割合でみると、およそ30%を占めるアメリカでは大きな政治パワーと影響力を持つが、日本では少子高齢化を反映して人口の10%程度である。日本では、数の民主主義の観点から、いかに少数意見を反映させるかが課題である。
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Z世代はソロ志向
2つ目は、この世代の価値観である。これを誤解するとZ世代は捉え損ねる。Z世代は、「モノへの欲求が希薄」、「環境意識が高い」、「コミュニティ意識が高い」、「リアル体験」志向などと「意識高い」系のように言われる。弊社の分析によれば、「強い消費要求を持つ」、「環境への意識は薄い」、「仲間よりはひとり」、「ネットの方が心地いい」という差が検証できる。これはステレオタイプとして捉えられるZ世代の価値観とは「真逆」だ。このように低収入の若年期の価値意識を強く反映している。
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Z世代の本音は前意識
3つ目は、世代とは「前意識」への説得である。私は断層の世代である。玉置浩二を聴いてメランコリーに陥ってしまう世代だが、音楽や昔話の時以外は、世代を意識して行動することはない。従って、世代ごとにマーケティングアプローチできるのは、動画や音楽の配信サービス程度だろう。申し上げたいのは、当該世代の話をインタビューでいくら聞いても、若輩者の戯事程度にしか世代意識を捉えられないということだ。発言は意識レベルであり、欲望は無意識レベルである。この中間意識を捉える精神分析に明るいプロが分析的に抽出すべきだ。
恐らく、Z世代の価値意識は、「同世代からのひとり勝ち」意識のようなものだ。これも巷で指摘されていることとは違うが、彼らの昇進意識は他世代よりも強い。同世代から抜け出れば楽になると思っているからだ。自尊心を自然にくすぐり、同調圧力の強い世代内からの飛び抜け観があることの説得がセリングポイントである可能性が高い。
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Z世代よりも時代を攻めよー今はどんな時代か?
アメリカと同じ20才刻み世代区分を用いるメリットは、未来が読め、現在がどんな時代かを定義できることだ。
人生には、3つの坂がある。のぼり坂、下り坂、まさか。松下幸之助さんの話だと聞いたことがある。真偽はわからない。2022年は、日本のまさか、が続いた。新型コロナの世界的蔓延、グローバルロジスティクスの分断、ウクライナ侵攻などである。
メリーゴーランドのような歴史を何とか読んで、落ち着いた経営とマーケティングを展開したいと思うのは人情だ。
まさかの時代、創造立国に向けて、価値を生むクリエイティブな製品サービスをこの時代へのマーケティングとして組み込んでいくことがZ世代攻略の鍵だ。