消費不況を乗り切るトレンド-ヴァーチャルゴールドラッシュ

1998.05 代表 松田久一

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消費低迷は将来の不安が主因

 消費が極端に落ち込んでいる。ところが、実質収入はあまり変わらない。収入に占める消費の比率も低下している。収入が変わらないなかで、消費を後回し(貯蓄)にしてまで、無駄な支出を押さえるというのが顕著な現在の消費行動である。なぜ、こんなことが起こっているのであろうか。理由は、誰もが自覚しているように思う。世界的な規制緩和の流れのなかで、日本的経営の美点のひとつであった年功序列賃金体系は、コスト競争のうえで、弱みになり、実力本位の賃金体系へと変わりつつある。もはや、年を加えれば賃金があがるというのは幻想にすぎない。現在の給与でさえ、保証されるかどうかはわからない。

 老後に大きなコストとなる医療費や消費税率は上昇し、収入源となる年金は減少する。長期の予想収入が不確実で、予想支出の増加が確実なのだから、現在の収入が少々あったとしても、消費を抑制しようとするのは当然である。短期の減税では効果がないことは明らかである。対策は、老後保障などの社会保障の共通水準を明確にし、すべての層ではなく「特定実力層」の長期の予想収入をどう引き上げるかにある。そして、もうひとつの消費低迷の要因は、商品やサービスを提供している企業の供給サイドの要因である。

 97年度のヒット商品を分析してみると、昨年度がいかに小ヒットに終始したかがわかる。「たまごっち」1500万個、「ポケモン」はゲームソフトで750万本、映画「もののけ姫」は1200万人。凄い数字が並ぶが、この大ヒットを市場規模に換算すると、2400億円である。前年ヒットした600万台を突破したパソコンの160万台分にしか過ぎない。他産業への波及効果を考えると97年度の「小ヒット」性が際立つだけである。なぜ、こうした事態になったのだろうか。ターゲット、価値観の読み違いと整理してみたい。先の見えない不安のなかで、こころの癒しが強調され、共通項として括れたものが、精神の退行現象としての「子供性」というものであった。高収入で老後に安心感を抱き消費拡大意欲をもった層は、このトレンドのなかで等閑視された。もうひとつは、価値観の問題である。商品やサービスが売れていくには、消費者に共感をもってもらうことが必要である。商品やサービスへの共感なくして売れる構造はつくれない。この共感のベースとなる価値観が「分裂状態」を呈していることが読み切れなっかった事である。

 豊かになれば、人々の価値観は多様化する、と社会学でも、マーケティングでも教えられてきた。しかし、実際は、民族的言語的多様性の小さい日本でそれを実感することはほとんど不可能に近かった。実際、社会調査の一般的な質問項目では、多様性を捉えることはなかった。ところが、多様性の現象は、われわれの日常において日々現実となっている。繁華街を歩けば中国語、韓国語などのアジア系言語が飛び交う。街を歩けば、コンビニの前で座り込んでカップラーメンを食べる若者がたむろし、電車では人目を憚らぬカップルに出会い、生活費のなかで携帯電話に支払う費用がトップの若者が主流を占めている。家賃か携帯電話の支払いか、という生活費用の構造である。