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高まる貯蓄意欲
再び、貯蓄意欲が高まっている。銀行等への「預貯金を増やしたい」と思う人の割合は、約47%となり、昨年と比較して約9%上昇している。郵便貯金も、約43%となり、約6%増えている(図表参照)。その目的も、住宅購入などの特定目的ではなく、いわゆる、「予備的動機」と言われる将来に備えての理由である。貯蓄意欲が高まっているということは、とりもなおさず、消費意欲が減退しているということである。
バブル崩壊後の90年代、日本の最大の消費トレンドは何だったか、と問えば、それは貯蓄であったことは明らかだ。その結果、約1,400兆円の個人金融資産が積みあがった。この数字がいかに巨大であるかは、バブル消費に沸きあがっていた91年でさえ約980兆円の資産に過ぎなかったことからもうかがえる。国際比較をしてみれば、成長著しい中国の国内総生産(GDP)の約1兆ドル(約120兆円)のおよそ12倍という数字である。消費意欲が減退し、貯蓄に励むという「空気」が90年代を支配し、さらにまたその空気が強まろうとしている。
その理由は言うまでもない。ひとつは、景気後退の局面がはっきりしてきたからである。ふたつめは、政府には構造改革以外に打つ手は残されていないということである。これまでのように政府に財政出動で景気浮揚を期待することができないのだから、不況と失業を受け入れるしかない。当然、生活防衛上、節約して貯蓄ということになる。また、貯蓄ではなく、株式への投資に向えば、株高を誘発してゼロ金利下での金回りもよくなるのだがそうはならない。それが、不況の足をさらに引っぱることになる。
節約と貯蓄という極めて健全で勤勉な消費者の態度が不況の悪循環を生んでいる。赤字を増やす財政出動を行えば、将来の増税を懸念して、さらに消費の引き締めが起こるという経路が眼にみえるようになってきた。ゼロ金利のもとでの金融政策も金融機関の営業力がない状況では資金が流れない。せいぜい国債を買うだけに終わってしまう。日銀が短期のゼロ金利で銀行に貸し出し、不良債権を恐れて民間企業に貸し出さず、それを長期に国債で運用する。それを繰り返しているだけになっている。景気に対して打つ手がなく、構造改革を断行するのだから、消費者としては、失業や収入の減少を懸念して、節約して将来に備えるしかない。資産運用は100万円を1年間預けて、月167円の利子しかつかない預貯金しか運用先がない。2001年に入って、株式の利回りは約1%、長期国債の利回りも約1%である。借金返済がもっとも効率的な投資となり、預貯金の利子率が0.2%でも、購入の手間やリスクを考えれば預貯金に集中してしまうのは無理もない。投資家としての消費者が、貸し出し営業力のない金融機関を選択してしまう。結局、20代は老後を心配して貯蓄を、30~40代は失業を心配して貯蓄を、50~60代は病気を心配して貯蓄をすることになる。その金が国内に回らないで貿易黒字を国内金融機関の世界中の安全な国債購入を通じて世界にファイナンスすることになっている。