of American Growth』
(Robert.J.Gordon 2016年)
2016年1月、ロバート・J・ゴードン(Robert.J.Gordon)の「アメリカの成長の隆盛と衰退―市民革命以来のアメリカの標準的生活」("The Rise and Fall of American Growth - The US Standard Living Since the Civil War", Princeton University Press )が出版された。
出版されると、すぐにノーベル経済学賞受賞者のP.クルーグマンをはじめ多くの経済学者が新聞書評やビジネス誌で取り上げた。すでに2016年の経済関係のベストセラーの呼び声が高い。正統派のマクロエコノミストであるR.ゴードンは、1940年生まれの75才。10版を越えるマクロ経済学の教科書も著している、ノースウェスタン大学の教授である。
本書は、このマクロ経済学の大家が書いた、リアルな生活者と生活史視点のイノベーション論であり、経済成長論による未来予測だ。応用数学者の色彩の強くなった日本の経済研究者にはとうてい書けない歴史知識に溢れる内容である。
しかもこの大書は、日本の「失われた20年」と、将来の日本経済を捉える上で価値がある。時期こそ違えども、日本の低成長をうまく説明できるのではないかと思う。
2015年に話題になったトマ・ピケティの「21世紀の資本」は、最近整備されてきた長期経済統計を利用した成長の分配論の話であった。量的には凄いものがあったが、内容はシンプルだった。
つまり、経済成長によってもたらせる収益は、資本(株などの資産所有者)と労働(一般勤労者)に分配されるが、歴史的にみると、収益の分配は資本への分配が労働への分配を常に上回っている。従って、資本主義社会では、富の集中が起こり、階層間の格差が拡大するというものだった。マルクスの「資本論」を意識したタイトルで世間の話題を集めたが、内容は資本論とは無関係で、単純なものだった。
日本でも、この数学モデルを実証しようとする試みがある。しかし、イギリスから200年、フランスから100年遅れて近代的な市場化が進んだために、データ系列が短く、分析に限界がある。そもそも平等意識の強い日本での実証は難しい。ピケティは、日本では、人口減少と世代格差を問題視しているようである。