本コンテンツは、「生活研究所報 Vol.1 No.2」の巻頭言として掲載されたものです。
不況と風邪が猛威をふるっています。
第二号は、不況対策としてブランドマーケティングと21世紀への新しい経営原理を提案します。
多品種少量生産と感性マーケティングの主張によって、強いブランドが壊れてしまいました。
90年代は、ブランドの時代になると考えます。
ブランドロイヤリティの形成こそが長期の研究開発と投資を支えてくれるものです。ヒット商品に依存した長期戦略も長期投資も人材育成もないことは明らかです。ところが、どのマーケティングの教科書を開いてみても、ブランドは登録商標の問題としてしか扱われません。後は、感性の問題になってしまいます。
私たちが提案したのは、
- 現実のブランド形成に則したブランド再理解
- 経験と実感で納得できるブランドパワーの測定
- 具体的な解決策と結びつくブランドマーケティング施策
です。この三つを狙いに、ブランドマーケティングをみんなで議論してまとめました。村田と増岡が論文を担当しました。是非読んでご批判下さい。ブランドをめぐる最近の動きも資料として添付しました。
もうひとつの提案は、企業とは何か、これからの新しい経営原理は何か、を探ってみた論文です。マーケティングは、市場と企業の存在を前提にしています。しかし、近年の日本的経営をめぐる論争は、市場とは何か、企業とはなにか、という本質的な議論が展開されています。経済学でもないし、マーケティングでもない。実務で、こうした問題に取り組んでおられるスタッフの方々、経営トップ向けに書いたつもりです。まだまだ、こなれていませんが、これまでにない論理を展開してみました。参考にしてみて頂きたいと思います。
研究のために、翻訳論文も試訳、研究用として載せました。差別化、製品差別化、市場細分化、市場セグメンテーションという概念の混乱を見事に整理した論文です。こうした概念をもう一度、再定義してみたいと思われる方は、この試訳が参考になると思います。
不況下で大ヒットしているモノがあります。
貨幣です。
不況下において競争しているのは、競合商品や競合メーカーではありません。貨幣との競争です。
すべての人が欲しい商品、それが不況下では貨幣です。現金であり、貯蓄ということです。
マルクスは、売り手がその商品を買い手に売ることを、「命がけの飛躍」と言っています。膨大な商品が売れていくのは、日々、「命がけの飛躍」があるからです。どんどん物が生産されていく風景をみると、誰がこれだけの膨大な物を購入するのだろう、と感じることがあります。その感触が、「命がけの飛躍」だと思います。
貨幣よりも魅力あるブランドを創る、マーケティングを展開する、それを必要とするのが不況期です。
何せ命がけなのですから。
「そこだ!飛べ!」(「資本論」)
[初出 1993.03 「生活研究所報 Vol.1 No.2」 JMR生活総合研究所]