眼のつけどころ

「モノ消費」の再定義
―クリエイティブワーカーを攻略せよ

2017.07 代表 松田久一

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 消費とは「費やしてなくすること」、「欲望の直接・間接の充足のために財・サービスを消耗する行為」(「広辞苑」)などと定義される。

 衣食住などの生活にはおよそ20万品種の財・サービスが必要だ。これらへの支出が、消費である。消費の合計は、国民所得統計でみると、GDPの約60%のおよそ300兆円だ。個々の企業とマーケターの努力の積み上げである。日本経済は、この消費が浮上しないと、安定的な経済成長は望めない。また、人口減少で今後10年は、消費者数が減少することは明らかであり、ひとり当たりの消費支出の増加が鍵を握る。

01

消費についてのフェイク・ファクツ

 最近、消費者がモノを買わなくなり、コトや新しい経験を欲望し消費をするようになったといわれている。しかし、このとらえ方には対応できる答えがない。従って、答えのない捉え方は価値がない。さらに、いくつかの事実にも反する。例えば、コト消費の代表格が「余暇・レジャー」である。

 「今後の生活の力点」(内閣府「国民生活に関する世論調査」)では、「レジャー・余暇生活」が約36%、「食生活」が約29%、「住生活」が約23%、「自動車などの耐久財」が約9%、「衣生活」が約6%である。この数字を見れば、余暇時間が増えれば、「レジャー・余暇市場」は、巨大な潜在市場として注目される。

 しかし、政府などもよく使う数字には「作為性」がふたつある。最近の流行言葉でいえば、「印象操作」がある。

 ひとつは、「レジャー・余暇市場」は、金額でも伸び率でも、他の自動車などのモノ的消費に比べて、支出金額も低く、増えてもいないということである。家計調査でみると、1世帯あたり1ヶ月の消費支出は、約240千円である。内訳は、食料62千円(26%)、住居18千円(8%)、衣料9千円(4%)、保険医療が10千円(4%)、自動車関連費用が18千円(8%)、余暇・レジャーは12千円(5%)である。伸び率も、食料などは5年前に比べ増えているが、余暇レジャーは、もっとも減少幅が大きくマイナス2%である。つまり、この世論調査の質問は、欲望と同時に支出の少ない項目が高く出る傾向にあり、必ずしも欲望だけを反映したものではない。

 もうひとつの作為性は、「レジャー・余暇生活」の36%に並ぶ項目がふたつある。ひとつは、「所得・収入」が31%、「資産・貯蓄」が30%である。合算すると、収入や資産を増やしたいと経済力の充実を力点に思う比率は61%である。ところが、作成され、利用される図表には、この2項目が削除されているケースがある(政府系機関の資料など)。それは、「余暇・レジャー」の潜在市場性を強調するためだと推測される。

 しかし、実際に統計が言えることは、消費者は、自分の時間を、余暇・レジャーに割くよりも収入や資産を増やすことに、力点を置きたいと思っているということを意味する。

02

消費が伸びない理由-20年サイクルの世代交代期

 なぜ消費が伸びないのか。

 その長期的な主因は、20年で区分される世代の20年サイクルの交代期にあることだ。短期的な要因については、「消費は浮上しているのか?」(2017年5月「眼のつけどころ」参照)で明らかにしたとおりである。

 理論的な裏付けはこうだ。これまでの世代論で繰り返し主張してきたことだ(「『嫌消費世代』の研究」(2009年)「ジェネレーショノミクス」(2013年)、ともに東洋経済新報社 参照)。

 消費に対する態度は、幼児期の子育てや若年成人期に体験した景気や物価の影響を強く受ける。そのため、消費好きと消費嫌いの世代特徴が現れる。

 日本の現在の人口を20年単位の生年で区分すると、1940~60年までの「団塊の世代」を含む「戦後世代」、1960~1980年生まれの「成長世代」、1980~2000年生まれの「バブル後世代」、そして21世紀以降の「新世紀(ミレニアム)世代」の4世代に区分される。

 平均消費性向でみると、戦後世代は消費嫌い、成長世代は消費好き、バブル後世代は消費嫌いだった。ミレニアム世代は消費好きと考えられる。消費の申し子と思われがちな団塊の世代は戦後の消費に様々な影響を与えたが、彼らは個人的には決して消費好きではない。しかし、世代の数が圧倒的に多いため、様々な消費ブームを創った。

 家族の系譜的な世代論で言えば、子供は親の傾向に反対し、祖父母の傾向を継承する。精神分析的には、子供は親を乗り越えて育つので、このような傾向が生まれるのは自我形成論からみれば自然なことである。

 一方で、ライフステージは、収入と支出に影響を与える要因である。現代の四つの日本の世代が、同時代体験を共有し、同質的な価値観や消費態度を持ちながらライフステージを通過している。

 戦後世代は老齢成熟期を、成長世代は最も高い収入を得て、子手離れ期の壮年成人期を、バブル後世代は、キャリアの蓄積で収入の増加が見込まれ、家族を形成する青年成人期を、そして、ミレニアム世代は収入の少ない若年成長期を通過している。

 もうおわかりのように、消費嫌いのバブル後世代がリタイヤに備え始める壮年成人期に入り、消費好きのミレニアム世代が、収入が伸び、支出も増える青年成人期にはいる2020年までは、デモグラフィック的には消費の下方傾向が続かざるを得ない。

03

消費が伸びない理由-クリエイティブワーカー

 もうひとつの要因は、消費の本質が変わったことだ。それは、生産に必要な労働が、ブルーカラーからホワイトカラーへ、そして、ホワイトカラーから「クリエイティブワーカー(専門的・技術的職業従事者)」へと変わったことによる。市場社会では、消費の社会的役割は労働力の再生産に必要な財やサービスの購入である。賃金とは、労働力の再生産に必要な費用であるというのが現代でも認められる古典経済学の考え方である。つまり、労働をするために必要な健康で文化的な生活をするのに必要な支出が消費であり、「平均的な欲望の範囲」である。これは歴史的に段階的に変わってくる。