顧客接点のリ・デザイン─ 次世代マーケティングの提案
消費回復期のマーケティング

2014.06 代表 松田久一

 印刷用PDF(有料会員サービス)

本コンテンツは、2014年5月22日に開催したワークショップでの講演に加筆・修正を加えたものです。

01

顧客接点のリ・デザイン

消費者の購買行動がネットの影響を受けて大きく変わっている。この構造変動によって、企業は、マーケティング戦略の革新が求められている。そのためのキーワードが顧客接点という考え方だ。

02

顧客接点という視点

伝統的なマーケティングについて考えてみる。マーケティングの教科書は、個人の段階的な購買行動を前提にして組み立てられている。消費者はCM広告や口コミ、店頭などで商品ブランドを認知する。そのブランドに対して、様々な受動的な体験を通じて、評価や態度が形成されて、商品が購入されるというものである。

従って、ブランドを記憶してもらえるように広告宣伝を大量投入し、広告メッセージでブランドの心理的ポジショニングを明確にし、ブランドに好意を抱いていただき、購入先の店頭の配荷を最大にし、優位置陳列や店頭プロモーションによって購入に結びつけるように営業活動を行うというように組み立てられている。商品差別化(Product)、価格づけ(Price)、マスプロモーション(Promotion)、チャネル政策(Place)の「4Pマーケティング」である。このマーケティングの優等生が世界及び日本の消費財メーカーである。

そして、この組み立てがよって立つ消費者の購買行動が、ネットの買い物が加速度的に浸透することによってまったく違うものになっている。1980年代以降、企業はIT技術によって大きく変わった。すべての意思決定にITが利用され、企業活動が根本的に変わった。同じことが、21世紀に入って、消費者の買い物行動を変えている。特に、近年のスマホの普及は決定的なものになった。

1960年代ごろからは、テレビCMによって認知率や心理的なポジショニングをコントロールできるようになった。そういう意味でテレビCMは画期的なものであった。消費者の購買プロセスであるブランド認知に影響を与えたからである。しかし、買い物へのネット利用は、もっと大きな変化をもたらしている。認知、評価、態度、購入のすべての意思決定プロセスに、ITを利用した情報が影響を与えるからである。

特に、注目したいのは、消費者の認知制約、行動制約がなくなったことである。人間は1カテゴリー5ブランドくらいしか覚えられない、認知能力に限界があるというのが認知制約。消費者は、さまざまな情報からブランドを選び、各自が移動できる範囲内の行動制約の上で商品を購入する。行動制約というのは、消費者の買い物出向の移動範囲が制約されているということである。ふだんの食品や日用品の買い物は、家や会社帰りなどのもっとも近い店舗が選択される。特に、「多頻度小口購買」の多い日本では、自宅から500メートル程度の距離にある店舗での買い物が多い。

この2つの制約を踏まえ、企業は消費者に認知される5ブランドの中に入るためのプロモーション、系列店政策、ポジショニング戦略などマーケティング投資を行ってきた。