この秋、パンやめん類、乳製品などを中心に食品メーカー各社が再び値上げに動いた。昨年来、消費者物価指数は上がり続け、もはや大半の消費者が「1年前に比べて物価があがっている」という実感をもっているし、「今後も物価は上昇する」と見込んでいる。
もし物価の上昇に合わせて、収入と資産価格も上昇するならば、支出を抑制する必要はないし、むしろ、将来のさらなる物価高を予想して「今買った方が得」という選択をするのが合理的である。しかし実際には、この春頃から勤労者の所定外労働時間(残業)が減少し、現金給与総額が減少しはじめた。また、株価の低迷により家計が保有する金融資産残高も減少しているという認識が広がっている。
全体的には収入が増えない、または低下する中で、物価があがって生活費が上昇するという状況に突入しつつある。これまでは、家計費のうち生活費や教育費などの日常的支出の増加に対して、余暇レジャーなどの選択的支出を減少させてしのいできたが、ここにきて日常的支出を抑制するために、商品選択行動を変えて、消費者は明確に「節約モード」にスイッチを切りかえはじめた。
消費者の増える生活費への対応行動は、多様である。値上げの代表例となったいくつかの品目、醤油など調味料、ビールなどのアルコール飲料、カップ麺などのインスタント食品について商品選択の変化を見ると、三者三様、単純に値上げによって安いものを選ぼうとしているわけではない。醤油などは、以前に比べて品質志向への変化が起こっており、購入数量を減らしてより品質を重視して選ぶ、という変化が起こっている。結果として1ヶ月当たりの支出金額は増加している。ビールは、数量と頻度を減らし、購入価格帯がより安いものを選ぶ人が増加傾向にある。ビールカテゴリーが減少し、低価格の第三のビールへ需要がシフトしていることがうかがえる。カップ麺は、品質よりも値段を重視する価格志向が強く、他の2品目に比べ購入数量と頻度を減少させている。
現在の家計は、支出を抑えると同時に、貯蓄を殖やそうとしている。本当に購買力がなくなったのではなく、節約ムードに支配されて消費を抑制し、潜在的な購買力を蓄積していると捉えられる。さいふのひもを引きしめて、品質を見極めようとする消費者に選ばれるためには、今こそライバルに対して品質で差別化を図るか、価格と品質のバランスが消費者ニーズとズレていないかを見直す必要がある。