シリーズ展開にあたり―一寸先は闇での戦略判断
一寸先は闇のなかで、何事かを判断し、決定しなければならない。不確実性のなかの感情的なバイアス判断である。この判断にもとづく行動が結果に繋がり、歴史を動かしていく。その積上げが恐らく、AI(人工知能)では模倣できない「経験にもとづく知恵」である。予想外、想定外に問われる判断に挑戦するために連載を始めることにした。当方の判断の「外し方」を楽しんで戦略判断を鍛錬していただければと願う。
減税政策は人気とりのバラマキ政策か
バブル崩壊を象徴する1991年の地価ピークから34年が過ぎた。この間、消費を支配してきた価値意識は、「現在よりも未来の消費」、つまり、節約と貯蓄で欲望を自制して将来に備えることである。その結果、2024年の個人金融資産は2,179兆円である。しかも、大半がリスクの低い預貯金なので驚くべき金額だ。金融資産行動からみれば、現在の楽しみを先へ、先へと延ばしてきた結果だ。個人から見れば、楽しみを先延ばしにし、そのうち寿命が尽きて、資産は国庫へということになる。
従って、政府としては、減税しても、消費性向が1以下なので、消費には結びつかず景気刺激効果は低い。それなら利回りの高い財政投資をした方がよいという発想になる。
このデフォルト化した行動が転換しはじめている。円安という外圧による物価高と新NISAなどの政府の投資奨励が刺激になって、30年という時間経過が、およそ1.5世代分交代し、消費に前向きな世代が主役に躍り出たからだ。消費者は、生きがいややり甲斐を求め、我慢しないで現在を楽しもうという価値意識へと転換している。
この変化をうまく捉えたのが、「国民民主」の減税政策である。極めて、テクニカルであるがネット世論を基盤にして大きく支持を得ている。さらに、一般の人々にとっては、税金と同じ「天引き」に含まれる社会保険料を下げるという「維新」の政策も打ち出された。機を見て敏の政治が少しは機能し始めたようだ。
政府からみた戦略判断は、コストベネフィット判断になるが、消費者の節約意識の脱却を踏まえれば、財政出動よりも減税の方が需要創出効果の方が高くなった、と見るべきであろう。ざっとした目分量を考えてみる。消費税の税収が1%で年約3兆円、GDPの1%成長分は約6兆円。つまり、3兆円の予算を、減税か、財政拡大かで割り振るなら、現在なら3兆円分の財政拡大より減税をした方が財政負担にはならないと推測できるのはないか。減税の効果は、ありきたりの経済モデルを使えば、減税効果は低く予測され、バラマキ批判になる。しかし、減税は、節約意識からの脱却で、消費に回る比率が高くなるだけでなく、意識転換を裏づけ、消費拡大の呼び水になる可能性を持っているからだ。
減税政策は、単純な人気政策ではなく、消費者の意識転換を捉えているので、国民民主の支持基盤は拡大している。節約の時代は、消費者が節約するので代わりに政府が支出を拡大した。現在は、その主役が政府から消費者に代わるべき時期だ。日本でも、減税効果が作用するようになってきた、と判断すべきだ。