新しいマーケティングの切り口

2015.06.10 代表取締役社長 松田久一

 本コンテンツは、2015年5月19日に行われた当社イベント「ネクスト戦略ワークショップ 格差消費時代のマーケティングの新しい切り口」の講演録と、同日使用したプレゼンテーションをもとに構成したものです。

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 いつもお世話になっています。今日は、マーケティングの新しい切り口として、今の消費をどうとらえるかということをご提案させていただきます。

 最初に提案するのは、「現代がどういう時代か」ということです。私達の提案は、「格差消費の時代」と捉えたらどうでしょうか、ということです。

 マーケティングには、市場をどう捉えるかという面と市場にどう政策的にアプローチするかというふたつの側面があります。前者は、市場環境を時間のヨコ(現在)とタテ(時代)からどう認識するかということと同じです。後者は、製品、価格、流通、コミュニケーションなどの機能を通じて市場にどうアプローチするかです。

 私見ですが、このふたつの側面でより重要なのは前者だと思います。最近は、前者は、ビッグデータなどの情報探索と情報処理の問題になっています。近年はビッグデータなどが注目を集めております。私たちもこの分野に注目しています。しかし、その有用性はデータの量とそれを処理するシステムに依存しています。従って、恐らく世界で数社しか投資に見合う画期的な成果を生むことはできないのではないかと思います。

 他方で、市場の捉え方は、ヨコ的な断面分析も大事ですが、本質は、我々が暮らしている時代をどう捉えるかであり、社内外にコンセプトを提示することがもっとも大事で有効なものだと思います。時代の捉え方をコンセプト(概念や理念)として、ひと言(統括)で言い表すことです。マーケティングの創造的な側面です。

 P.ドラッカーやP.コトラーのライバルで早世したK.レヴィットは時代の捉え方が見事でした。戦後の日本では司馬遼太郎さんが名人でした。

 時代というのは、過去から現在までのおよそ10年の期間の特徴のことです。この時代をどういうくくりでとらえるかということが重要です。「戦後復興」、「高度成長」、「安定成長」、「バブル経済」、「バブル崩壊」などの経済成長で捉える時代区分もひとつの捉え方です。

 経営やマーケティングにとって、このような時代の捉え方が大事なのは、ひと言で人々を納得させ、進むべき方向や行動の是非を暗示してしまうからです。バブルの時代、10万円のワインをつぎつぎと飲むことが欲望の対象となったのは「バブル」だからという言い訳がありました。そして、人々の行動を同調させて時代的な変化を生んでいきました。

 アップル社は、パソコンがIT時代の主導権を失うなかで、パソコンが「デジタルハブ」になるということをジョブズが予言(時代規定)して、iPodなどが生まれました。現在のアップル社はこの時代認識をすでに変えています。このように、現代がどういう時代かを規定することは、経営やマーケティングの舵取りには大変重要です。

 ところがその捉え方に科学的な方法論があるか、というと難しい面があります。将来、ネット上のペタバイト級のビッグデータをもとに、最近、流行の「ディープラーニング」などのAI(人工知能)技術を活用して、現代を捉える言葉を仮説として創造的に類推(Abduction)できるかもしれません。しかし、「ドラッカーロボット」や「ジョブズロボット」ができるのは相当先のことでしょう。

 さて、話が横道にそれましたが、私たちにとっては、アベノミクス以降のこれから10年を見据えて、この期間をどうとらえるかということが大切になってきます。われわれが、2020年くらいまでの時代の切り口として提示したいのは「格差消費の時代」という捉え方です。