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ビッグバンとデジタルコンバージェンス
企業は、常に収益性を追求していかねばなりません。なぜなら資本主義というシステムが、より高い収益性を条件に成立しているからです。企業は休む間もなく、より高い成長性、より高い利益率を求めねば、資本主義システムを維持できません。ゆっくりしたスローな経営などは、例外や個人の趣味としてはあっても社会的にはあり得ません。
時代によって、技術や市場が異なり、産業も変わるので、企業が高い収益性を得るための原則や戦略は異なります。従って、企業は、常に自社の収益性に影響を与える環境条件と環境の中で、より収益性の高い地位を得る方法を探索し続けねばなりません。常に、新しい市場の捉え方と、より賢明な戦略が求められます。
現代において高い収益性を求めるならば、「デジタルコンバージェンス」 [1] 【 デジタルコンバージェンスとは 】
私たちが住む宇宙の始まりは、ビッグバンと呼ばれる大爆発によって始まったと理論的には推定されています。最初の一撃が「神の手」によってなされたのか、なんらかの物理的な「ゆらぎ」で生じたのかは、まだわかりません。大爆発はやがて収斂(コンバージェンス)していきました。収斂の過程で、素粒子、原子、分子から地球、そして、生物まで様々なシステムが生まれました。それから約150億年が経過し、まだ、膨張を続けていると考えられているのが現在です。
「デジタルコンバージェンス」とは、コンピュータと家電、放送と通信などの境界を形成していたアナログ技術の異質性がデジタル技術によって共通化し、それぞれ単独で成り立っていた産業の垣根が崩れ(ビッグバン)、異なる産業間の融合によって、再び、新しい産業へと収斂(コンバージェンス)していく過程を意味しています。
現在、放送と通信の間で起きている現象は、ひとつの典型と言えます。NTTグループのぷららネットワークスなどは、映像や音楽のコンテンツを企画し、仕入れ、光ケーブルを利用した伝送技術の上で、視聴者に、通信とコンテンツ配信サービスを提供して対価を得ようとしています。フジテレビなどの放送局も、映像や音楽のコンテンツを企画し、仕入れ、地上波を利用した伝送技術の上で、視聴者に、コンテンツ配信サービスを無料で提供して、企業から広告収入という対価を得ています。それぞれ異なるアナログ技術で区分けされていた通信と放送の業界ですが、アナログ技術のデジタル技術化、インターネット・プロトコル(IP)などの伝送技術の共通化が進み、同じデータを地上波で流すか、光ファイバーで流すかの違いだけで、役割は同じになってきました。ユーザーからみれば、目的のコンテンツが視聴できれば、地上波であろうが、光ファイバーでも、どちらでも構わないのです。結局、放送と通信の違いは、法規制だけになりました」 [2] 。
通信業界に属するNTTグループと放送業界に属するフジテレビは、今やソフトバンクやライブドアを含む、より大きなひとつの産業に融合しつつあります。コンピュータと家電においても、デジタル技術への共通化が進み、同様のことが起きています。放送と通信(コンテンツ・サービス)、コンピュータと家電(ハードウェア)は、これらを繋ぐソフトウェア産業をも吸収し、今やひとつの巨大な産業へと生まれ変わろうとしています。新たに出現した巨大な産業の中で、従来の業界の枠組みを越えるような新たな製品・サービスが生み出され、全く異なる産業へと姿を変えつつあります。
【 ビッグバン以後のデジタルライフ 】
技術の共通化によって進むビッグバンとコンバージェンスは、産業革命に匹敵する巨大な変化といっても過言ではありません。この変化は、私たちの生活を、音楽や映画などのコンテンツを、HDTV(高精細テレビ) [3] や携帯端末などのハードウェアを通じて、よりタイムレスに、よりスペースレスに、楽しむ生活へと一気にシフトさせる革命的なインパクトを持っています。新たな生活への変化は、既に至る所で起きています。
ひとつは、音楽や映像コンテンツの楽しみ方が根本的に変わったことです。アメリカでは、アップルの「iTunes Music Store」、リアルネットワークスの「Rhapsody」などの音楽配信サービスが定着し、SBCコミュニケーションズの「U-Verse」、コムキャストなどの映像配信が始まっています。日本でも音楽はauの「着うたフル」、映像はYahoo!BB光TV(ソフトバンクBB)、光プラスTV(KDDI)、IPV6マルチキャスト放送 [4] のPlala.TV on 4th MEDIA(ぷららネットワークス)などが、次々とブロードバンド放送、オンデマンドサービスを開始しています。放送局はこうした無数の通信サービス業者と競争することになりました。このように、音楽や映像コンテンツは、買いに行くものから、会員登録して、クリックひとつでダウンロードやストリーミングで視聴するものへと変わっていきます。メジャースポーツとニュースを除けば、あらゆるテレビ番組は、オンデマンドで、いつでもどこでも、好きな時間に、好きな番組を視聴するようなスタイルにシフトしています。こうした視聴スタイルを可能にさせたバックボーンにあるのが、「帯域爆発」です。「ネットワークの速度は6ヶ月で倍になる」というギルダーの法則 [5] の通り、ネットワークにおける総通信量は、90年代半ばの数百メガビット(百万)/秒から、テラ(兆)ビット/秒級になり、今もなお、通信の帯域が爆発し続けています。ブロードバンドの普及は、まず韓国や香港、台湾などアジアの一部の地域で先行しましたが、アメリカや日本でも総世帯の約3割を超える水準にまで浸透してきました。ブロードバンドの普及と帯域の拡大によって、家庭に音楽や映像コンテンツを容易に配信できるようになりました。
ふたつは、新たなハードウェアの進化と普及が進んでいることです。テレビについては、日本や、韓国などアジアメーカーの大規模な設備投資によって、薄型テレビ、中でも液晶テレビの価格が累積生産量の拡大に伴うコストダウンによって急速に低下し、1インチ1万円の需要のブレークポイントを越えました。各社の投資計画をベースにすると、2009年までには、さらに50%価格が下がります。こうした低価格化による普及拡大と、ブロードバンド回線を通じた家庭への映像配信によって、薄型テレビが家庭を埋め尽くしていきます。ユーザーはテレビの解像度に見合う、より高精細な映像配信、大容量回線を求め始めています。一方、携帯電話は、全世界で13億人と言われるユーザーが、2007年には20億人にまで膨れあがります。端末の進化により、いつでもどこでもインターネットにアクセスして、電話やeメールだけでなく、音楽、映像コンテンツを利用することがきるようになっています。日本でも、CDMAなど第三世代携帯電話の普及に伴い、音楽のダウンロードや、映像コンテンツ配信サービスの利用が拡大しています。auの「着うたフル(2万2,000曲配信)」が、半年で500万曲もダウンロードされるほど、浸透しています(4月3日時点)。
現代の市場は、テレビや携帯電話などのハードウェア、音楽や映像などのコンテンツ、それらをつなぐサービスとの相互依存性が高まり、もはやそれぞれが単独では成立しえなくなっています。このインパクトは、ハードウェアをはじめとして、音楽や映像コンテンツ、サービスのあり方を根本から変えていくものです。
[2005.4 MNEXT]