当社オリジナル生活研究に基づき、98の生活予測と、今後のマーケティングの指針を5回にわたって論じていく、マーケティング実務家のための必読論文。
I.
消費低迷の要因は何か
ひとつは、「将来に対する不安感」である。約70%の人々が何らかの不安感をもっている。(弊社「97年生活者調査」)消費税の引き上げ、医療費負担の増加、年金危機、老後の不安、予想される生活コストは将来に向けて上昇していくことは確実である。他方、将来の収入はと言えば、グローバルスタンダードへの構造改革が進むなかで、必ずしも年功序列的な増加は見込めない。将来の予想コストが上昇し、予想収入が期待できないことから支出-消費が抑制されることになった。選択消費が支出の約50%を占める消費社会では、実収入よりも寧ろ将来の予想収入と支出が大きな役割を果たしている。特に、消費税の逆累進的性格から世帯収入700万円以下の層が支出を切りつめた。
ふたつめは、大型ヒット商品を創造できなかった供給サイドのマーケティングの失敗である。今年度のヒット商品は、「たまごっち」、「もののけ姫」、「ポケモン」などの「子供向け」小型商品に止まった。パソコンは、使いにくさから市場の大衆化に歯止めがかかり、携帯バブルも終わり、車、家電、住宅に象徴される大型商品はすべて不発に終わった。この背景には、ターゲットの見誤りがある。バブルによって資産価値が下落し、支出を決定する要因は資産から収入要因に移行している。世帯収入700万円以上の層は支出を減らした人よりも増やした層の方が多い。企業のリストラクチュアリングが進み、多くのベンチャー企業が誕生し、収入と年齢との関連性は薄まり、現在及び将来の収入格差は大きく拡大している。消費税が直撃し、将来に不安感をもつ層に向けたマーケティングの結果が消費低迷のもうひとつの要因である。
三つめは、後に詳細は譲るとして、十年、二十年では変動しない生活スタイルの「長期波動」(F.ブローデル)の変化に対応できるほどのイノベーションを連続的に創造できなかったことである。人々が、明治近代化以後の生活スタイルに限界を感じながらも新しいスタイルへの企業の提案があまりにも少なかったことである。結果として、インポートブランドへの関心が持続した。
日本の「ビッグバン」が、将来の生活への不安感を醸成し、収入格差による支出格差が生まれているなかで、マーケティング上の主流ターゲットを見誤った。その結果、もっとも財布の紐の堅い層を狙い、新価値、新生活スタイル提案よりも、寧ろ、コスト削減を前提にした低価格マーケティングを展開してしまったことにある。
97年の消費を動かす要因は多元的なものであった。複数のシナリオが複雑に絡まっていた。これらの選択肢のなかでもっとも悲観的なストーリーが主流になってしまったと分析することができる。将来に不安をもたず高収入、実力本位の層が、その豊かさを実現するために消費拡大するという動きは完全にかき消された。不安感が中流意識を直撃し、生活保守、生活防衛意識から財布のひもを堅くするという動きが消費全体を支配することになった。