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情報的マーケティングへの転回―消費社会白書2019年版
消費社会白書2019年版を発刊するにあたり、ここでは要点を紹介し、消費行動の通説の検証によって明らかになった八つの現実と、それにもとづく新しいマーケティングへの「転回(transition)」を提案する。実際には、八つの通説の真偽を明らかにし、「情報的市場化」、つまり「情報的(Informative)マーケティング」の概略を紹介する。結果は、通説が偽となり、一見、真理(通説)にそむいているようにみえて、真理を言い表しているパラドックス(逆説)が明らかとなった。
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消費行動に関する八つの通説と現実
2019年版の白書は、生活や消費行動の前提となっている仮説や通説を疑って検証してみた。その結果、塗り替えなければならない多くの現実が明らかになった。その主なものは、以下の八つである。
- 消費は経験にもとづく→消費はネット情報にもとづく
- 人々の価値観は多様化している→夢や理想を求め規律を重視する価値観に収れん
- マズローの不可逆的な欲求5段階説は現代日本人にも適合する→日本人は八つの欲望
- 消費は将来不安から伸びない→世代ZJは将来不安より自助で夢の実現へ
- 食の「孤食化」がすすむ→家族主義と現実の乖離
- ロングセラーブランドは飽きられ衰退する→ブランドにライフサイクルはない
- 流通では組織小売業がシェア拡大し、ネット化が進む→拡大する地域業態格差
- ネットプロモーションは送客効果がある→限定されたネット吸引力
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八つのパラドックス的な現実とマーケティングの革新―情報的マーケティング
これまでのマーケティングのスキルやノウハウは、消費行動が経験に依存するというリアル世界から生まれた。しかし現在は、消費欲望も、消費行動も、ネット情報に依存している。
消費者行動も、売り手の行動も、情報技術革新によって、根底から変化している。「ST+4P」(セグメント(Segment)、ターゲティング(Targeting)、商品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion))の政策をメインとする微調整では対応が不十分だ。情報技術革新の一方で、人が目的を設定し、経営の意思決定をする階層性は変わらない。業務レベル、管理レベル、戦略レベルの3層で、考えていく必要がある。
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情報技術革新による情報構造の変化
マーケティング革新を概括すると、「情報的マーケティング」に「転回」することだ。
転回する理由は、意思決定に必要な情報「構造」が拡大したことへの対応だ。巨大なビッグデータを得られるようになり、技術的には個人の情報依存行動までも追えるようになった。この意思決定に利用できる情報が拡大したことがマーケティングに新たな課題を要求している。
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マーケティングオートメーション
業務レベルのマーケティングでは、ネットを通じて、売り手が消費者に直接アプローチできるようになった。マス広告や小売店などのチャネルだけでなく、Webサイト、メール、メールマガジン等を通じて、ダイレクトに情報発信できるようになった。従って、ビッグデータを用いて自動的に目標達成できる「マーケティングオートメーション」の構築が可能になった。
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情報的マーケティングの核心―売れる仕組み、経路設計と顧客の感情理解
管理レベルのマーケティングは、ネットの中で、自社の製品やブランドに興味のある顧客を見つけ、いかに欲望を形成するか、その欲望を最終的な購入に結びつけ、長期的な満足をどう得ていくかの「売れる仕組みづくり」と「経路」の設計、顧客の感情変動の解釈が重要な意思決定課題になる。
インターネットを通じ、直接的に行動に影響を与える情報チャネルが生まれた。その結果、情報がすべてを包括するものになった。さらに、感情依存的な情報が組み込まれ、消費行動を因果関係として理解する高度な解釈を要求されるようになった。
また、関与者の共通コストや重複コストを削減する「市場プラットフォーム(MSP)」を構築し、「マッチング」などで付加価値を得るモデルが生まれた。伝統的な卸の仲介による付加価値に近似しているが、IoTによって消費者にまで対応できるという点で革新的である。
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時代を解釈した戦略構築
最後の、戦略レベルの意思決定に対応するのは、企業事例や消費者質的データの高度な読解と解釈をもとに行われる決定だ。この意思決定の本質は、経験的な直感にもとづく時代の解釈であり、規定である。
八つの現実と、それにもとづく提案は、この三つのレベルのマーケティングを総合した「情報による市場化」、すなわち、「情報的マーケティング」である。