1.RBV(Resource-Based-View)とは何か
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ポーターのポジショニングスクールに対抗するRBV
今回は、ポーターの戦略に対抗するスクールとしてRBV(Resource-Based-View/リソース・ベースド・ビュー)というのは一体どういう考え方をするのか、ということを話します。1980年代にポーターの競争戦略が、企業の競争戦略の標準的な考え方になっていきますが、ポーターの戦略論とは別の考え方として出てくるのがこのRBVです。
スクールという言い方をしましたが、学派という意味です。経営戦略など戦略を考える研究、あるいはそれを実践しているコンサルティング業界においてスクールという言い方が結構流行っています。このきっかけとなったのは、ミンツバーグ*1 という組織論で有名な人が書いた「戦略サファリ」という本です。ミンツバーグはポーター批判の急先鋒の人ですが、「戦略サファリ」*2 の中で、企業が病気になったときに、コンサルタントが医者だとすると、いろんな処方箋を書くわけですが、その処方箋の書き方が10個あると言ったわけです。その10個をスクールと言っています。
例えば、ある企業が病気になって、業績がうまく上がりませんと言われたときに、学派としては10個あって、10個の学派それぞれ違う処方箋を書くわけです。するとどれが本当なの?って話になるわけですが、その中で有力なスクールって言うのは、ポーターのいわゆるポジショニングスクールです。ポーターに対抗できるスクールとしては、最大かつ最も影響力のあるスクールとして考えられるのがこのRBVという考え方なのです。ミンツバーグはRBVを直接スクールと言っているわけではないですが、RBVという考え方をふたつか三つぐらいに細分化して捉えているように思います。
さて、RBVとは何かを説明するために、まず自分で戦略を組み立てる時に、どのように考えたらいいかについておさらいしておきます。
戦略とは、まず事業が成り立っている環境とその事業を展開している会社とをふたつに分け、その環境に対して企業がどんなふうに対応していったらいいのか、を考えることにあるというふうに経営学で考え始めたのが1980年のアンドリュース*3 というハーバードのポーターの前の世代の先生です。これは事例研究をやっていくと、どうも外的環境と自社の持っている資源というものをうまくフィットさせたりとか、組み合わせたりとか、適応させたりしているところが、非常に業績が良くてかつ長期の持続的な成果を得ているようだという経験的な認識のもとで形成されてきたひとつのファインディングです。それが洗練され高度化されていくのですが、戦略を考えるというのはどういうことかというと、まず、ガバナンス意識をもって外と内とを分ける。その外と内とを分けたときに、外というのはお客さんと競争、内というのは経営資源ということになる。経営資源というのは、「人・物・金・情報」ということになる。人というのは従業員、それから物は設備投資や、工場など、金はその会社の持ってる資本ということになる。企業が持っている経営資源というものを環境条件に合わせてうまく適応させたり、あるいはフィットさせたりするのが戦略だということです。
このように考えていくと、ポーターは、外が大事と考えた。だから競争とか市場をベースにして、自社の経営目標を明確にして、その目標を達成するために自社の経営資源をどう割り振ったらいいのか、戦略についていろいろなことが言われているけれども、未来の変化に向けて自分のもっている資源をどう適応させるかと考えたのです。
ポーターは、外を非常に大事にする。ポーター自身も言っていますが、競争力は外にある。つまり自分の競争力っていうのは外にあると考えています。それに対してRBVは、競争力は内にあると考えています。
大きな論点は、いい戦略、あるいは戦略はポーターの理屈からいくと三つしかない。ひとつは他者よりも差別的な価値を提供する戦略をとること。もうひとつは他者よりも安く作れること。最後の三つ目がどこかのお客さんに集中すること。この三つしかない。それに対してRBVの見方は、戦略はもっと多様だという考え方をします。そんな三つなんかで済むわけがないと考えます。
外を重視するポーターの戦略論と、内を重視する、つまり内の内部資源というものを重視するRBVという戦略論があるということです。スポーツに例えると、よく「練習通りにやりましょう」と言いますよね。自分たちの力量が発揮できれば勝てるというのはどちらかというとRBVの考え方。それに対して、相手はこう出てくるだろう、相手はこういう強みを持っているだろう、だからこちらはこうすると考えるのがポーターの戦略です。
[2004.12 MNEXT]