3.戦略とは何か
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戦略とは目的合理的な思考の追求に過ぎない
戦略とは何か。私の考えでいくと、戦略というのは、目的合理的な思考、つまり企業が生き残るという目的のためにどういう手段を採るかという、目的手段関係を明確にするということに尽きます。目的と手段の関係をとことん合理的に詰めるということでしょう。目的を実現するために、外の環境と内の資源をどう結び付けていくか、ということです。
ミンツバーグは、戦略研究者の間でコンセンサスが得られそうな戦略の定義は五つあり、五つのP(「Strategy's 5Ps」)で表しています(図表)。今「戦略とは何か」という問いに対する答えを出すとすると、ミンツバーグが言うように、計画(Plan)、策動(Pattern)、策略(Ploy)、機動(Position)、展望(Perspective)の五つの方法があります。
私がどう考えるかというと、目的手段関係、合理的思考、論理性、もっと易しく言うと、筋道のある考えをつくる、ということです。筋道をつくるということは「人に説明できる」ということです。人に説明できるから、筋道を通じて理解されていくから、それで人が動くという、戦略と実践との結びつきがあるということが大事です。
私の定義と非常によく関わってきますが、戦略と戦術は入れ子構造になります。入れ子構造になるというと、ロシアのマトリョーシカという人形みたいなもので、戦略というものを大目的、戦術というものを小目的、さらに作戦というものを細目的、というふうにしていくと、目的というものと手段、目的手段というものが入れ子構造になるわけです。抽象的な世界と具体的な世界がどこまでも合理的に結びついている構造です。目的が手段になり、手段が目的となることを繰り返す世界です。
例えば、リデル・ハート(1895-1970年)になると、大戦略=グランドストラテジー(Grand Strategy)、戦略、戦術と3階層になります。クラウゼヴィッツは「いつ戦うか」「どこでどう戦っていくか」「どんなふうに戦うか」、つまり戦闘をどう運用するかということで戦略を捉えていました。戦争とは「政治の継続である」、だから政治目的があって、その政治目的を達成するために戦争があるということです。ですから、政治目的が達成されれば、別に戦争はしなくてもいいということになります。戦争を政治の継続として考えた、という理屈については、別に好き好んで戦争をしているわけではありません。国家が設定した政治目的を達成するために戦争するわけです。そういう意味で、戦略を捉えているから、政治目的があって、戦略があって、戦術があります。戦前の軍人は「政略」というふうに従来考えられていました。まさに、階層的な入れ子構造です。
戦争の政治目的を設定するのは政治家の仕事です。政治目的を軍事目標に転換するのは軍人の仕事です。統一ドイツを形成するために、プロシアのオットー・エドヴァルト・レオポルト・フォン・ビスマルク(1815~98年)とヘルムート・フォン・モルトケ(1848-1916年)は、個人的には仲が良くなかったそうですが、うまい連携をやってドイツ統一を成し遂げました。大陸軍を持つフランスとポーランドに挟まれ、オーストリア帝国が干渉する四面楚歌の状況のなかで、外交政策によって他国の干渉を受けない状況を作り出し、鉄道を利用した機動包囲によって普墺戦争(1866年)、普仏戦争(1870~71年)に勝利しました。政治目的の明確性、政治目的と軍事目標の一致、自軍の強みを生かした機動包囲戦略など目的合理性の追求は一貫しています。A型血液の多いドイツ人らしい勝利です。戦略思考の本質は何か、と問われれば、普通の合理的な考え方ですよ、と言えばいいと思います。優れた戦略を研究すればそこには一貫した論理的筋道があります。理屈と行動がぴったり一致しているんですね。これは不思議ですね。まるで、ガリレオが言っているように自然法則が数学で理解できるのと同じかもしれません。しかし、なぜ自然法則が数学的な構造を持っているのか説明できないのと同じでその理由はわかりません。
論理的な合理性の追求をやや抽象的な意味合いで言うとすれば、マックス・ヴェーバー(1864-1920年)によれば、近代の思考について、合理性の追及の仕方は三つあると言っています。ひとつは目的合理性です。理屈上目的に対して非常に合理的な説明が行われます。ふたつは目的手段性です。目的に手段関係がはっきりしていることです。三つが目的道具性です。目的に対して達成するための道具との対応とでもいうものです。その意味で、戦略思考とは何か、というと目的合理性の追求ということです。目的をどう設定して、どう手段を考えていくか、というその目的手段関係を考えるときに、生き延びる戦略主体を明確にして、その戦略主体と環境との関わりで目的合理性を考えていくことが、戦略思考です。
[2004.09 MNEXT]