趣都アキハバラ | ||
NEXT VISION 2006 ゲストスピーカー森川嘉一郎氏講演より | ||
森川嘉一郎氏 | ||
構成 弊社代表松田久一による紹介文
1.なぜ、秋葉原か 2.秋葉原の変貌―秋葉原から「アキハバラ」へ (*以下はメンバーシップサービスをご利用ください) 3.趣都「アキハバラ」の誕生 4.趣味、趣向でまちがつくられる-シブヤとの比較から 5.おたくの本質とは |
弊社代表松田久一による紹介文
マーケティングという仕事をざっくり言ってしまえば、自分の生きる時代を読み、目的を持った特定の主体が、何らかの価値を提供することによって時代に働きかけるということだ。従って、戦略、マーケティング、製品コンセプト、プロモーション、チャネルを設計し、実践する実務家は、その根底において、時代を認識しなければならい。時代を捉えるというのは実に高邁で大げさだが、簡単に言ってしまえば、何がクールなのかがわかるということだ。若いうちは自分が感じることが時代そのものだが、少し加齢が重なると言葉と理屈で手探りするしかない。 森川さんはこの難しい時代を見事に捉えているひとりだと思う。森川さんのおたくとアキバの研究は、現代がどういう時代であるかを鋭く抉り出している。 アキバがどのように変遷しておたくを集客するタウンになったのか、アキバのビルを中心とする景観が渋谷などの風景とどのように違うのか、官でも民でもない個人の趣味主導のアキバの景観の本質とは何なのか、おたくの本質とは何なのか、宮崎・押井作品の上昇志向に対しておたくの下方志向とは何なのか、おたくはなぜ世間が恥ずかしいと思うものに拘るのか、・・・・。次々と繰り出される森川さん自身の撮られた鋭い写真材料、テーマとソリューションは尽きない。ノンストップの90分間だった。 森川さんに言わせれば、おたくにモノを売りたいならおたくしかできないことで、おたくが喜ぶことは、世間が疎み、恥ずかしいと感じるものなので、おたくではない世間が注目したらその時点でおたくにとっての価値は失われる。従って、おたくではないマーケターがおたくを追いかけることは、おたくの通った軌跡を追うようなものだと批判される。おたくを知りたいならおたくを特定の宗教だと思えばいいのであって、その宗教の価値体系を信じない人に信者の気持ちは永久にわからない。信者でない人が信者を説得するのが一筋縄でいかないのと同じだ。 ひとつひとつが納得できるのだが、森川さんの研究の話を伺っていると自分のなかにある抑圧されたおたく的なものが炙りだされるような気がする。海洋堂の大嶋憂木氏デザインの秋葉原駅に跨る女子高生フィギュアに「萌え」てしまう「恥ずかしい中年のおっさん」がいることが実感できる。その自分を再発見したときが現代という時代との久しぶりの再会なのだと思う。この体験をマーケティングに結びつけていくことができるような気がする。マーケティングの実務家のみなさんにも是非聞いて頂きたい。恐らく、こんなくだらない前口上を書いたりすると、「おたくは、ドゥルーズ、ガタリやデリダなんかを読んで中野や杉並をうろついている上昇志向のサブカルとは鋭く対立するんですよね」と叱られそうである。 | |||||||||
1.なぜ、秋葉原か | |||||||||
森川です。私は現代文明とか現代社会をどうこうという人間ではまったくなくて、元々建築学出身です。未来の建築のデザインや未来の都市の姿がどうなっていくかに関心があります。これまでは、主に建築家の作品を勉強してきました。 1950年くらいには、建築の巨匠が四角いガラスで摩天楼のスタイルを生み出して、それをまわりの建築家が模倣していって、5年後には世界中の近代都市がミース * のデザインであふれかえりました。日本の建築は、今は全部ミースのデザインでできあがっています。
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2.秋葉原の変貌―秋葉原から「アキハバラ」へ | |||||||||
私がこれまで素材としてきたのは、秋葉原です。皆さんのお持ちの一般的な秋葉原のイメージは、家族連れが家電製品を買いに行く街だと思います。秋葉原にはラジオ少年のような人や、マニアックな人たちがいるというイメージは昔からありましたが、あくまで電気製品を買いに若い夫婦が子供を連れて来るという街でした。 石丸電器のテレビCMをご覧になったことがあると思います。若い家族が子供を連れてテレビを買いに行く映像になっています。あれが当時の秋葉原の典型的な客層でした。今であれば、ヤマダ電機やヨドバシカメラ、ビッグカメラのような量販店に家電製品を買いに行く家族というのが、秋葉原に来る主たる人たちでした。ところが、そういう人たちが秋葉原にだんだん行かなくなってくるということが、1980年代の末から起こってきました。その結果、秋葉原は大変大きな変化を被りました。
ガレージキットというのは、セーラームーンとかゲッターロボとか、マンガやアニメの主たるモチーフになった美少女やロボットを題材としたものです。マニア向けの高級な組み立て模型、玩具のことです。こうした物は一般には子供向けの玩具です。でも、一部に美少女が出てくるようなアニメやロボットが出てくるアニメを、思春期が過ぎても愛好する人が出てきます。そうした人たちを俗に「おたく」と呼びます。ガレージキット商品を扱うお店は、渋谷とか若者向けの街に点在していました。それが1997年からの3年間に秋葉原に押し寄せるようになりました。 | |||||||||
3階は、元々サトウムセンが占めていたフロアでしたが、その半分を買い取る形で、マンガの専門店が入りました。本屋の中に、不思議な神社もあって、不思議な物を祭っています。アニメーションのセル画や諸々のグッズも同じフロアで売られています。パソコンのゲームを扱うお店も入っています。そのお店はかつてビデオ関係の設備を扱っていたお店です。パソコンゲームというと、ロールプレイングゲームとか色々なジャンルの物がありますが、売られているゲームのジャンルが著しく偏っています。アニメチックな感じのキャラクターと恋愛や性愛を楽しむ、俗に美少女ゲームと呼ばれるゲームを専ら扱っています。そのお店の中を覗いてみると、このお店に来るお客さんと、そこで売られている商品のキャラクターに、ものすごいコントラストがあります。 7階部分には、レンタルショーケースというお店ができています。レンタルショーケースは、全国で100店舗くらいがやっています。レンタルショーケースに行くと、透明のロッカーがずらずら並んでいます。ロッカーには番号がふられていて、ひとつひとつ入っている物が全く違っていたり、同じような物が並んでいたりします。レンタルショーケースでは、自分の持ち物に好きなように値段を付けて、陳列することができます。よその人が入ってきて、これを買いたいと思ったら、紙切れにこの番号のこの商品が買いたいと書いて、店員に渡せば、店員がその商品を持ってきてくれます。商品が売れると手数料がお店に入って、残りが借り主に入ります。これは一種のフリーマーケットや古本屋のような物ですが、これらとの大きな違いとして、レンタルショーケースは濃縮された個室のようなもので、ひとつひとつを覗いてみると、借り主の趣味、趣向が分かります。個人の趣味を単位とした空間ができあがっているわけです。ひとつひとつがミニチュアの個人商店なのです。 (2005.11) | |||||||||
森川氏のご専門は建築意匠論で、都市の未来予測という観点から、秋葉原について着目された「趣都の誕生」という本も執筆されています。
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