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終わりの見えない相次ぐ値上げラッシュ、追いつかない賃上げに消費者のマインドはどうなっているのか。総務省の家計調査によると2023年5月の消費支出(二人以上の世帯、実質)は前年比-4%と大きく減少している。一般的に消費は弱いと解釈されるが、消費回復の兆しはないのか。現在の消費者の賃金の見通しや消費意識を調査した。
調査の結果、消費態度に明るい結果はみられなかった。しかし、街中の雰囲気について「活気が出てきた」と感じる人が全体で3割程度おり、「これから収入は増えていく」「思う存分お金を遣ってみたいという気分だ」と考えている一部の集団が確認できた。消費をしたいという空気感が漂っている。
まず、今後1年以内の物価の見通しをみると、全体では「上昇する」が71%だった。属性別にみると、60代が一番高く83%、50代が75%、30代が68%と続き、年収や職業には大きな差は見られない。次に今後1年以内の自身の収入見通しをみると、全体では「上昇する」15%、「変わらない」65%、「下降する」21%であり、収入の見通しは悪い。収入と物価の関わりでみると、収入が物価を上回ると考える割合は11%と低い。全体では物価上昇下で収入見通しも悪く消費回復が見込めない状況である。
しかし、世代別に特徴がみられた。収入が「上昇する」はゆとり世代が一番高く33%、続いてリオ世代が26%だった。特にゆとり世代の男女別では17%ほど差があり、男性ゆとり世代が42%と高い水準を示した。さらに男性ゆとり世代は「物価以上に収入が上昇する」が40%であった。男性のゆとり世代は収入増加見通しを持ち、消費をけん引する可能性がある。
消費支出と預貯金の割合をみると、「消費支出を増やす」と答えたのは、全体では15%、「変わらない」63%、「預貯金の割合を増やす」23%であった。属性別では、生活レベル意識が「中の上」以上の層で25%と高い。消費支出の割合を増やす層は、収入が増えた層や生活に余裕がある層と推測できる。しかし、実際のところ、自身の家計に「ゆとりが出てきた」と答えた層(6%)であっても、消費より貯蓄を増やす割合の方が高い結果を示した。収入が増えると予想する層ですら消費の割合を増やす結果にはなっていない。
このまま物価が上昇し続けるのであれば、値段が高くなる前に今買っておいた方が得と考えるのが合理的である。実際に確認すると「今買っておいた方が得だ」と考える人は、全体で3割弱にとどまる。
かつて、欲しいブランドや車はローンをしてまでも手に入れたいという時代があった。現在の意識をみると、ローンや分割に対するポジティブな意識は全体で14%、ネガティブな意識は半数を超える。ポジティブな意識は属性別では男性ゆとり世代が特に高く40%である。物価高が進むなかで消費に踏み込めず、男性ゆとり世代がスタートラインに立っているという状況がうかがえる。
続いて、街の雰囲気や気分について確認した。商店街や繁華街などの街中の雰囲気は、全体の30%が「活気が出てきた」と答えた。属性別では、生活レベルが高いほど割合が高い。年代では30代が37%と高い数値を示した。「3ヶ月前と比べて、思う存分お金を遣ってみたい気分になった」と答えたのは全体では14%、属性別では生活レベル別で「中の上以上」が23%、世代別ではゆとり世代が一番高く、29%だった。
消費意識は完全には回復しておらず、まだ弱い。しかし、街の雰囲気や消費意欲は、ゆとり世代を中心に、いわゆる「空気感」では改善方向に向かっているといえる。
ゆとり世代が消費に対してポジティブな要因として三つの仮説が考えられる。
ひとつ目は、コロナの抑圧からの解放である。厚生労働省の全国年代別新規陽性者数を累計で確認すると、男性20代から30代、女性20代から40代でTOP5を占める。特にライフステージの変化、働き盛りのゆとり世代に変化が生まれているのではないだろうか。
ふたつ目に、就職環境の良さである。ゆとり世代の就職期の倍率は1.61倍(2006年から2016年で推計)であり、競争率は高くなく、現在の転職環境においても転職者に有利な売り手市場となっている(図表1)。このことから、今後1年収入が上がっていくかという意識に関して、比較的楽観視できていると考えられる。
三つ目は、世代交代である。収入上昇のライフサイクル期にあり、家族形成で必需支出が増えるゆとり世代が、消費をリードするタイミングに差し掛かっている。価値観をみると、この世代はバブル経済を体験した新人類世代と、親子関係にあり共通点がみられる。まず、就職期の倍率は新人類が平均2.59倍、売り手市場、有利な条件で就職することができた。ゆとり世代も就職環境に恵まれているという点で共通している。価値観においては顕示志向が強い点が共通している。消費意識としてゆとり世代がアイデンティを意識し自分の趣味にはお金を惜しまない。ワンランク上の生活を目指し、より質の高い商品を求める新人類の親の影響を受けている。
最後に、当社代表の松田による因果分析の結果も確認する(図表2)。これは、各変数を用いてそれぞれの関係性をみたものである。この結果を解釈すると、消費態度が積極的になる経路はふたつある。ひとつは、街の雰囲気が良いところに若者が集まり、街の雰囲気が良いところで消費態度が改善されるという「若者-街」の相互作用経路である。もうひとつは、物価上昇を上回る収入増加予測が 消費態度の改善に結びつくという経路である。これは、若者が活気ある街に引かれやすいこと、経験やスキルが増えるにつれて収入が増加し、物価上昇を上回ることが多いという一般的な傾向を反映していると考えられる。
街の雰囲気など消費したくなる空気感はあるが実際の消費行動には移れない。これは日本人特有の同調圧力によるものがある。消費の活性化に向けて消費支出の高い富裕層と、街の雰囲気に敏感な若者を捉えることが重要である。先に行動した方がどれだけ得か、うまく同調圧力から抜け出せる仕組みを見つけることが消費に繋がる糸口となる。新人類の親を持つゆとり世代が「令和のプチバブル」をけん引する可能性に期待したい。
- 新人類世代
- 1961年から1970年の間に生まれた心理世代を新人類世代と分類する。現在の平均年齢は57.5歳、人口は約1,633万人である。20年世代区分では第10世代成長世代、その他の区分ではX世代に所属する。テレビの爆発的な普及やコンピューター、ゲームなどの技術革新の時代を生き、娯楽を好み子供心を持ち合わせている世代でもある。80年代のDCブランドブーム、バブル経済を体験。自己実現や、より質の高い商品を求める特性を持つ。
- ゆとり世代
- 1988年から1993年の間に生まれた心理世代をゆとり世代と分類する。現在の平均年齢は32.5歳、人口は約725万人である。20年世代区分では第11世代転換世代、その他の区分ではY世代に所属する。アナログからデジタルに切り替わる時代を生き、ゆとり教育を経験していることから多様性に対するポジティブな考え方や、創造力、独創性が豊かである。その反面としてメンタル力、コミュニケーション能力に否定的な評価をされることもある。他人を意識した顕示消費、自分の趣味にはお金を惜しまないなど、アイデンティティや自己実現を意識した消費をする特性がある。
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