新型コロナウイルスの新規陽性確認者報道はこれまで、日々の消費支出に大きな影響を与えてきた。しかしその影響は次第に薄れ、8月までにほぼ消滅した。
まず、前回モデルで推定された消費支出の予測の有効性を検証するために、8月の消費支出の日別支出金額実測値と予測値の比較を行った。実測値は19.4万円、予測値は18.3万円である。前年同月比でみると、実測値は-9.6%、予測値は-14.8%の減少であり、5.6%の乖離がある。8月の消費支出は予測ほど減少しなかった。
上記の結果を踏まえ、8月の消費支出の日別データを追加し、前回と同様のモデルで再推定をおこなった。詳しい推計方法はこちらを参照してもらいたい。
これまでに行ってきた、JMRモデルでの前日の新規陽性確認者数の係数推定値の変遷を図表1に示した。
図表1.JMRモデル 陽性確認者数の消費へのインパクトの変遷
5月までと6月までの係数推定値はそれぞれ-2.99(p = 0.005)、-2.87(p = 0.005)であり、前日の新規陽性確認者数が1人増加で消費支出は約3円減少の影響があった。7月までの係数推定値は-0.92(p = 0.08)であり、1人増えると消費支出は約1円減少と陽性者数インパクトは小さくなった。今回推計した8月までの係数推定値は-0.42(p = 0.30)であり、さらにインパクトは小さくなっている。
消費支出の予測に、新規陽性者数変数を投入したモデルが妥当であるかを確認するために、新規陽性者数変数を投入した場合と、しない場合のモデル比較を行った(図表2)。
図表2.消費支出に対するコロナ新規陽性者数の影響
それぞれのモデルにおける各変数の係数推定値の違いは、ほとんどみられない。また、各変数の標準偏差は、新規陽性確認者数変数を投入したモデルのほうが、大きくなっている。つまり、予測の精度は悪化しているといえる。
モデルのあてはまりのよさを表すAICをみると、新規陽性確認者数を変数として投入したモデル(AIC = 3170.26)のほうが、投入しないモデル(AIC = 3169.36)よりも高い。つまり、新規陽性確認者数変数を投入したモデルは、支持されない。8月までで、報道が消費支出に与える影響はなくなったといえる。
人々の陽性者報道への関心の低下や、Go Toキャンペーンなどの政府の経済政策が、陽性者報道のインパクト低下の要因とみられる。
この結果から、今後の新規陽性確認者数に基づく日々の消費支出金額の予測は妥当ではなくなった。
特集:コロナ禍の消費を読む
- MNEXT 眼のつけどころ 市場「アップダウン」期のマーケティング戦略―コロナ後、消費の反発力はどこへ向かう?(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ コロナの出口シナリオとV字回復戦略―日本の「隔離人口」は約39%(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 2021年「消費社会白書」の中間総括 「きちんとした」私と「ヒトとの結縁」を守る価値へ転換―id消費へ
- MNEXT 眼のつけどころ 新型コロナ禍で消費はどう変わるか-シンクロ消費と欲望の姿態変容
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 第125号 認知率100%!ウィズコロナ時代を楽しむ「GoToキャンペーン」
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 第122号 働き方の多様化が後押しするデリバリーサービス利用
- 企画に使えるデータ・事実 消費支出
- 企画に使えるデータ・事実 旅行業者取扱高
- 消費からみた景気指標
参照コンテンツ
- JMRからの提案 月例消費レポート 2020年8月号 消費は最悪期を脱し、水面下での回復の動きがみられる(2020年)
- JMRからの提案 コロナ禍で強まる「外からウチへ」の消費者行動変容と消費の「イエナカ・シフト」(2020年)
- MNEXT 眼のつけどころ マーケティング・プラットフォームで農業を成長産業に-アフターコロナの産業基盤
- MNEXT 眼のつけどころ 新型コロナ禍で消費はどう変わるか-シンクロ消費と欲望の姿態変容(2020年)
- MNEXT 眼のつけどころ コロナ危機をどう生き残るか-命を支える経済活動を守る戦いへ(2020年)
- MNEXT 眼のつけどころ 新型コロナウイルス感染症の行動経済学的分析
-第三弾 収束と終息の行方 - MNEXT 眼のつけどころ 新型コロナウイルス感染症の行動経済学的分析
-第二弾 恐怖と隔離政策への対応 - MNEXT 眼のつけどころ 新型コロナウイルス感染症の行動経済学的分析
-非合理な行動拡散を生む感情 - 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 第120号 "ウィズ・コロナ時代の新たな食生活 増える女性の調理負担
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 第119号 "自粛"で変わる購買行動とライフスタイル
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 特別編
新型コロナウイルスのインパクト!コロナは購買行動にどのような影響を与えた!?
おすすめ新着記事
消費者調査データ レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア
調査結果を見ると、「咖喱屋カレー」が、再購入意向を除く5項目で首位を獲得した。店頭接触、購入経験で2位に10ポイント以上の差をつけ、3ヶ月内購入では2位の「ボンカレーゴールド」のほぼ2倍の購入率となった。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場 背景にある簡便化志向や節約志向
どんな人がパンを食べているのか調べてみた。主食として1年内に食べた頻度をみると、食事パンは週5回以上食べた人が2割で、特に女性50・60代は3割前後と高かった。パン類全体でみると、朝食で食事パンを食べた人は女性を中心に高く、特に女性50代は6割以上であった。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場 背景にある簡便化志向や節約志向
どんな人がパンを食べているのか調べてみた。主食として1年内に食べた頻度をみると、食事パンは週5回以上食べた人が2割で、特に女性50・60代は3割前後と高かった。パン類全体でみると、朝食で食事パンを食べた人は女性を中心に高く、特に女性50代は6割以上であった。