半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2021年10月29日

「消費社会白書2022」のふたつのアナザーストーリー
文責:大場美子

 今回の「消費社会白書2022」には、三つの異なる表紙デザインとキャッチコピーがありました。当社顧問の西橋裕三氏より、ご提案いただいたものです。いずれも現在とこれからの消費市場と消費をみつめた白書2022の三つの側面が見事に表現されています。

 制作物としては、ひとつに絞らざるを得ないのですが、他の2案を埋もれさせるのはあまりにもったいなく、西橋氏に許可をいただき三つの作品と、その意図をここでご紹介させていただきます。


A.コロナからの、KAITOU 




 「コロナからの、KAITOU」の「KAITOU」は、敢えてローマ字で表現しています。ここには、消費者と消費の状況を表す三つのキーワードが掛けられています。

 ひとつめは、コロナという事態から引き出された消費者の反応・対応という意味での「回答」(Response)です。人々がコロナに際してどのような気持ちを抱き、どのような行動をとってきたのか、これからどう変わっていこうとしているのかを捉えようとしています。

 ふたつ目は、昨年から続いてきたコロナの下で、凍り付いてしまった大多数の消費者のマインドの「解凍」(Unfreeze)です 。

 10月下旬、新規陽性数は減少傾向が続き、ワクチン接種も進展するなど、コロナ感染収束への展望も開けつつあります。しかし、現時点では一部の層を除き、大多数の消費者のマインドは凍結したままです。

 それでも、消費者マインドは来年以降、徐々に改善されていき、消費回復の層も領域もともに緩やかながら、段階的に広がっていくと期待されます。

 消費を取り巻く状況が徐々に「暖まって」いき、凍結していた消費者のマインドも少しずつ解けていくという意味での「解凍」というコトバです。

 三つ目は、今後の消費の先行きをどうみるべきか、そしてこれから拓けるチャンスをどのようにつかんでいくべきかを示す、解決策としての「解答」(Solution)です。

 デザインは、積み上がるピラミッド構造の氷の結晶のうち、右下端のひとかけらがこぼれ落ちている、解凍がはじまるというイメージです。

 凍り付いた消費マインドを、「解凍」(Unfreeze)するマーケティングを進めていこう、と言うメッセージが込められています。


B.「ひとり本位」社会の到来




 「ひとり本位」社会の到来は、「消費社会白書2022」の中の価値観についてのメッセージの柱です。

 コロナの下で人づきあいが疎遠になって、「人と人とのつながりを大切にしたい」という気持ちがある一方で、長期的にはむしろ、「人付き合いはわずらわしい」「ひとりの方が気楽だ」といった意識が強まっています。また結婚や子育てを回避する意識も高まっていることがわかりました。

 こうした結果は、社会のシングル(Single)化、ソロ(Solo)化、「サル化」*1を示唆するといえそうです。

 ひとりでも生きていけると感じられるのは、ネットなどのITC技術の支えのおかげでもあり、バーチャルな連携が保たれていれば生きていくのに困らない、といった感覚が生まれていると思われます。

 一方で、対面で他者に共感を覚えるという、人間らしさに欠かせないモノが失われつつあるのではないか。人間どうしが共感する力がホモサピエンスのサバイバルする力になっていた、という説があります。大人に差しかかかると遠い祖先は一泊以上の長い旅に出て、旅先で別の集団に出会い、そこで世話になり一宿一飯の恩義を受ける、そうして世界を拡げていった。

 「サル」から「ヒト」へと進化を続けてきたはずが、デジタル技術を手に入れたことで「ヒト」は再び「サル」へと先祖返りしてしまった、とも言えます。

 表紙デザインは、一見すると3本の木のように見えますが、幹から広がっているのは幹から伸びる枝や葉ではなく、一枚の葉っぱだった、というものです。最初は大地も描いたのですが、根を張る大地さえも見えない空間に立っている一枚の葉の姿が「ひとり本位」社会を象徴しています。


C.コロナの地平を超えて




 今や、コロナはアマゾンやヒマラヤなどの奥地まで席巻しております。地理的な距離だけでなく、人々の間でのイデオロギーの対立やパラダイムの対立といった、さまざまな壁も乗り越えて、コロナは我々の生活を浸食していき、現在に至っています。

 地球全体を覆ったコロナ、ひいては地球環境問題、今の我々の立ち位置から見える地平の先がどうなっているのか、この先ずっと延々と続く大地が広がっているのか、それともどこかで断崖ができ大地が途切れてしまっているのか、我々の文明の先の姿は見えてはいない。

 それでも、先に拓ける地平を見極めていきたい、コロナ後の社会と消費の展望を開いていこう、というメッセージがこの第3案のタイトルと表紙デザインには込められています。


 「消費社会白書2022」の表紙は、A案としました。お伝えするメッセージが、皆様が抱えておられます課題の解決に資する「KAITOU」となりましたら幸いです。


11月11日に開催する「ネクスト戦略ワークショップ」では、「消費社会白書2022」のエッセンスをご紹介します。オンライン開催ですので、お気軽にご参加下さい。

    【注釈】
  • *1 山際寿一(2014)「『サル化』する人間社会」、集英社インターナショナルより


参照コンテンツ


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツ プレミアム会員サービス 戦略ケースの教科書Online


新着記事

2025.02.06

25年1月の「乗用車販売台数」は3ヶ月ぶりのプラス

2025.02.05

提言論文 新しい群れ集団が生む市場ダイナミズム

2025.02.04

24年12月の「新設住宅着工戸数」は8ヶ月連続のマイナス

  

2025.02.03

企業活動分析 本田技研工業 24年3月期は、販売台数増加により増収増益、営業利益は過去最高に

2025.02.03

企業活動分析 日産自動車株式会社 24年3月期は、販売台数増加に加えコスト管理により増収増益

  

2025.01.31

消費からみた景気指標 24年11月は7項目が改善

2025.01.30

24年12月の「ファーストフード売上高」は46ヶ月連続のプラスに

2025.01.30

24年12月の「ファミリーレストラン売上高」は34ヶ月連続プラス

2025.01.29

24年12月の「全国百貨店売上高」は2ヶ月連続のプラスに

2025.01.29

24年12月の「チェーンストア売上高」は既存店で2ヶ月連続のプラスに

2025.01.29

24年12月の「コンビニエンスストア売上高」は13ヶ月ぶりのマイナスに

2025.01.29

24年11月の「商業動態統計調査」は8ヶ月連続のプラス

2025.01.28

24年12月の「景気の先行き判断」は4ヶ月連続の50ポイント割れに

2025.01.28

24年12月の「景気の現状判断」は10ヶ月連続で50ポイント割れに

2025.01.27

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター No.168 管理職は筋トレ率2倍! 20〜30代の美容・健康意識がプロテイン市場をけん引

2025.01.27

企業活動分析 サンドラッグの24年3月期はインバウンド・化粧品需要回復で2期連続の増収増益

2025.01.24

成長市場を探せ コロナも値上げも乗り越えて成長するドラッグストア(2025年)

2025.01.23

24年11月の「広告売上高」は、7ヶ月連続のプラス

2025.01.23

24年11月の「旅行業者取扱高」は19年比で80%に

2025.01.22

24年11月の「家計収入」は2ヶ月連続のプラスに

週間アクセスランキング

1位 2025.01.27

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター No.168 管理職は筋トレ率2倍! 20〜30代の美容・健康意識がプロテイン市場をけん引

2位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

3位 2025.01.27

企業活動分析 サンドラッグの24年3月期はインバウンド・化粧品需要回復で2期連続の増収増益

4位 2025.01.24

成長市場を探せ コロナも値上げも乗り越えて成長するドラッグストア(2025年)

5位 2013.03.22

MNEXT ビックカメラによるコジマの買収はメーカーを巻き込んだ衰退業界再編の始まり

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area