半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

消費回復のカギは消費者マインドの刺激にあり
 
大場美子

消費回復が顕著に
 昨年末くらいから各種統計で消費回復の基調が顕著になってきた。今年4月の勤労者世帯の家計調査では、1世帯当たりの消費支出は前年同月比の7.2%増加し、21年6ヶ月ぶりの高い伸び率を示した。最新の5月の家計調査でも、同5.6%増加で伸び率が2ヶ月連続で5%を超えるのは14年ぶりのこと。所得も、勤労者世帯の実収入が4.3%増、可処分所得が2.5%増と、ともに約7年ぶりに5ヶ月連続で前年同月比を上回っている。
 ただ、今回の景気回復の図式は従来とはやや異なる。というのは、従来型の所得に依存した消費回復基調ではないからだ。2003年度の大手企業の業績をみると、多くの企業が過去最高益をあげている。しかし昨今の経済情勢では、業績が上がったからといってすぐに給料に反映するわけではない。にもかかわらず、消費が拡大している要因はどこにあるのか。
 今回の状況を見ていくと、所得の上昇よりも先に消費のほうが回復している点に特徴がある。したがって、今回の消費回復は「マインド主導の回復」といわれている。たとえば、株価上昇といった明るいニュースや、デジタル家電などの新製品が市場に次々と出回ることで、期待感や高揚感が生まれ、消費に結びつくというものだ。いま、液晶テレビやDVD、ハードディスクレコーダーといったものが一つのセットになって、50歳代や60歳代の間ではホームエンターテインメントを形成している。最近のデジタル景気というのは、技術革新を経て値段も下がり、新たな機能がどんどんふえてくることによって付加価値と期待感とがうまく結びついて、消費に繋がっている例である。
 したがって、これまでは消費そのものに対する欲求水準が低かったので消費に向かわなかったと捉えるほうがむしろよくて、消費意欲がなかったのである。しかし、心理的側面に刺激を受けたり、実際にほしいものが見えてくると、雰囲気が盛り上がってきて財布の紐が緩むというのが「マインド消費」のひとつの見方である。また、価格に説得力や価値があると判断したら、高額な商品でも購入するという特徴もあって、自分たちが消費をすることを通じて何かを実現していきたいという意欲の表われでもある。
 今後こうした傾向が続いていくのかということは一番気になるところだが、老後や雇用など将来に対する不安が大きいので財布の紐が締まるという言い方もされるがそれは別次元の問題で、市場が多様化した「個」のニーズに応えられるだけの商品やサービスを提供しつづけることができるか否かがカギを握っている。

サービスの品質向上
 昨年、当社で「不満調査」というものを行ない、たとえば、不満で文句を言いたくなった経験が最近あったかなどを聞いて、実際それはどんな所で体験したのかを調査した。そこで上位にあげられたのが、銀行の窓口対応、コンビニエンスストア、ファミリーレストランなどで、これまでサービス産業という意識が薄かった業種であった。十数年来のデフレのなかで多くの企業がサービスの部分を切り捨て、価格戦略のみを重視してきた。しかし、もともと日本人はサービスに対する欲求が強い。低価格化が限界にきたいま、あらためてサービスの品質が見直されてきており、サービスを新たな差別化や強みとする企業もみられる。満足度を左右するのは体験している時間や、得られる情報によるウエイトが高く、納得できるサービスならばその対価としていくらでもお金を払いたいという人も多い。
 レジャー・集客施設は、サービス産業として人を通じたサービスに依存する度合いが強く、いかにリピート客をふやしていくかという過程でポイントとなるのがサービスの違いになってくる。訪れてもらった時間内でいかに楽しい時間を提供できているか、いま一度見直しが必要ではないだろうか。その際、自施設に来るお客が誰なのかを特定して、そのお客が望んでいることをいかに理解できるか、理解したことをどう行動に移すか、その行動をどうやってお客により上手に伝えていくか、という一連のパッケージが大切になる。マーケティング担当者がいくら顧客分析をしても、現場の人たちが問題点を理解して一人ひとりが行動を変えていくことができなければ、それはお客には伝わらないし、効果も期待できない。
 最近の消費がマインドに左右される側面をもつということは、サービスを主体とするレジャー産業にとっては集客増加に向け、まさにいまがチャンスである。
(2004.07)
綜合ユニコム刊『月刊レジャー産業資料』8月号掲載

本稿は当社代表・松田久一からの貴重な助言のもとに執筆されました。ここに謝意を表します。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。

お知らせ

2024.12.19

JMR生活総合研究所 年末年始の営業のお知らせ

新着記事

2024.12.20

消費者調査データ No.418 サブスクリプションサービス 広く利用される「プライムビデオ」、音楽サブスクには固定ファンも

2024.12.19

24年10月の「商業動態統計調査」は7ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「広告売上高」は、6ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「旅行業者取扱高」は19年比で83%に

2024.12.18

提言論文 「価値スタイル」で選ばれるブランド・チャネル・メディア

2024.12.18

24年11月の「景気の先行き判断」は3ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.12.18

24年11月の「景気の現状判断」は9ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.12.17

24年10月の「現金給与総額」は34ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.12.16

企業活動分析 SGHDの24年3月期はロジスティクス事業不振で2期連続の減収減益

2024.12.16

企業活動分析 ヤマトHDの24年3月期はコスト削減追いつかず3期連続減益

2024.12.13

成長市場を探せ コロナ禍の壊滅的状況からV字回復、売上過去最高のテーマパーク(2024年)

2024.12.12

24年10月の「家計収入」は再びプラスに

2024.12.12

24年10月の「消費支出」は6ヶ月連続のマイナスに

2024.12.11

提言論文 価値スタイルによる生活の再編と収斂

2024.12.10

24年10月は「有効求人倍率」は改善、「完全失業率」は悪化

2024.12.09

企業活動分析 江崎グリコ株式会社 23年12月期は国内外での売上増などで増収増益達成

2024.12.09

企業活動分析 日清食品ホールディングス株式会社 24年3月期は価格改定浸透で増収、過去最高益達成

 

2024.12.06

消費者調査 2024年 印象に残ったもの 「大谷選手」「50-50」、選挙も五輪も超えてホームラン!

2024.12.05

24年11月の「乗用車販売台数」は3ヶ月ぶりのマイナス

週間アクセスランキング

1位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

2位 2024.04.05

消費者調査データ ノンアルコール飲料(2024年4月版) 首位は「ドライゼロ」、追う「オールフリー」「のんある気分」

3位 2024.12.04

提言論文 本格消費回復への転換-価値集団の影響力拡大

4位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

5位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area