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納豆騒動 九つの事実
消費研究チーム

構成

 1.3週間で95%の認知
 2.番組視聴者の64%が信じた理由
 3.なぜ、簡単に信じてしまったのか
 4.納豆ダイエットの伝導者たち
 5.口コミ、マスコミ、タナコミの相乗効果が生んだ高速浸透
 6.8%トライアル層のプロフィール


1.3週間で95%の認知
 1月7日(日)の「発掘!あるある大事典Ⅱ」の納豆特集番組に端を発した納豆騒動は、わずか3週間で95%の認知を獲得した。
 番組放送時の1月7日(日)時点では、20才から69才までの成人男女個人全体における認知率は19%であった。その後は、1週間後に42%、約2週間後の捏造会見前には62%と上昇、さらに1月20日(日)の捏造の記者会見で再拡大し約3週間で95%まで到達している(図表1-1)。

 このように広く浸透している納豆騒動だが、その認知の広がりには番組放映後、大きく三つの『波』があったことがわかる。ひとつめの波は番組放映後翌日から1週間以内。ふたつめの波は放送翌日から2週間目にあたるところ。最後の波は3週間目の捏造謝罪記者会見後のところである。
 興味深いことに、これらの波ごとに消費者の属性にも違いがみられることが確認できている。
 まず、テレビ放送当日の1月7日(日)までについて確認すると、この日までに知っていた人は、女性50~60代の比率が高くなっていた。
 次いで、ひとつめの波、放送翌日から放送後1週間以内にかけての時期に認知した人は23%である。ここでは女性30~40代が高い。この層を中心に口コミで一気に広がっていったのである。
 そしてふたつめの波、捏造記者会見の前日1月19日(金)までの放送後2週間目の間である。この間に認知した人は17%であった。このあたりから、女性先行で進んでいた認知が男性にまで広く浸透し始めている。
 最後に、1月20日(土)の捏造謝罪の記者会見以後、番組放送後3週間目の波である。ここで認知した人は36%であり、男女60代の比率が高くなっている。納豆騒動が捏造報道によって社会問題化し、属性問わず広く浸透が進んでいった様子がうかがえる。
 このように、最初は女性50~60代、次いで女性30~40代、最後に男女60代というように、タイミングごとに異なる層へと情報が波及していっているのがこの納豆騒動の特徴である。

図表1-1 納豆ダイエット問題認知者累積推移


2.番組視聴者の64%が信じた理由
 番組放映後、短期間で納豆ダイエットの認知が拡大した背景には「納豆を食べれば痩せる」というまゆつば情報を番組視聴者の64%が信じてしまったという事実がある(図表2-1)。
 1月7日の放送をたまたま視聴した人が、ふだん食や健康についてテレビの情報番組を信頼している比率はわずか29%に過ぎない。にもかかわらず、今回の納豆ダイエット情報については、64%が信じたのだ。
 なぜだろうか。信じた理由をストレートに訊いた結果(図表2-2)、「もともと納豆は健康によい」「納豆は血液サラサラになる」などそもそも納豆から連想される健康イメージが上位にあげられた。もちろん「テレビで紹介されたデータが科学的な感じがした」という回答も77%と2番目に多い回答であった。
 つまり、ふだんはテレビ番組を信頼していない人も今回に限っては、納豆という食材が持つそもそもの健康イメージを背景に、捏造データを簡単に信用してしまったのだ。

 その結果、テレビを観て「納豆ダイエット」を信じた人が熱心に口コミを発信、その口コミの多さや店頭での品切れやメーカーがお詫び広告を掲出といった事実が報道され、さらに納豆ダイエットの信憑性を高めたと推測される。
 なぜ、いとも簡単に信じてしまったのか、その要因を消費者の視点から分析した結果を次回紹介する。

図表2-1、2 あるある大事典II納豆ダイエット特集の信頼度と納豆ダイエットを信じた理由


3.なぜ、簡単に信じてしまったのか
 常識的に考えて「納豆」を「食べるだけ」で体重が減るはずはない。なぜ、いとも簡単に信じてしまったのだろうか。その要因を「多段層別分析」という統計的手法を用いて分析してみた(図表3-1)。結論としては、情報の受け手に信じたい理由があったというのが今回の分析結果だ。
 具体的には、第一に、「痩せたい」というダイエットニーズの強さである。ダイエットというと女性限定の印象が強いが、ここ最近、特に男性においても『メタボリック症候群』に対する不安から健康のために「痩せたい」というニーズが顕著に高まっている。全体の83%がダイエット意向を持っているご時世、ダイエットニーズの強い人が信じてしまったのである。
 第二に、ダイエットに関する正しい情報が不足していること、すなわち情報ニーズの強さが、ついつい捏造とは知らず、うまく演出された各種実験データを信じさせたという側面がある。

 さらに、納豆をもともとよく食べている、納豆が好きな人が、納豆の健康イメージを背景に信じたという面や、テレビ番組という情報ソースをもともと信頼している人が信じたのである。
 納豆を食べるだけで痩せるはずはない。情報が客観的に信頼度が高いというのではなく、納豆を食べさえすれば痩せるという情報を信じたい人が信じた。ダイエットニーズやダイエット情報へのニーズが強い人、納豆をよく食べる人、そしてテレビの情報番組を信頼している人が信じたのである。つまり、信じたい人が多い情報だったといえる。

図表3-1 信頼への影響要因 (多段層別分析結果)


4.納豆ダイエットの伝導者たち
 納豆にダイエット効果があるという情報を認知した人のうち40%がその情報を人に伝えている(図表4-1)。情報の伝え方としては、「実際に会って話をして伝えた」77%、「メール」や「ブログ」などネットは13%というように、ネットが拡大しているとはいえ、リアルな口コミの影響力の大きさがみてとれる(図表4-2)。
 だれが伝道者となって口コミを発信したのか、属性を確認すると(図表4-3)、性別では女性が相対的に多いとはいえ、さほど性差に違いがなく口コミが発信されている点が着目できる。性別年代別にみると男性の30代。メタボリックシンドロームへの不安があり、運動や正しい食生活でやせたいというニーズが強い層である。一方女性も男性と同じく、生活習慣病不安から「健康のためにやせたい」30代、ついで「美容のためにやせたい」20代、生活習慣病のリスクが顕在化し、家族の健康も気になる50代が伝道者となった。
 納豆が単に「おいしい」ではここまで伝道者はつくれなかったはずである。生活者全体の7割が生活習慣病を気にし、二人に一人が健康について信頼できる情報が少ないと感じている状況下において、納豆にダイエット効果があるという情報が、生活者の潜在的ニーズとマッチし、納豆の価値を高め伝道者を形成したといえる。
 伝道者をつくるためには、当該商品へ潜在的ニーズを持つ層を見極め、その層へ向けた情報開発が鍵である。




5.口コミ、マスコミ、タナコミの相乗効果が生んだ高速浸透
 「あるある大事典II」は、1月7日に番組が放送され、平均世帯視聴率は15%であった。その後、わずか3週間で納豆騒動は95%が認知するまでに高速浸透した。その背景を分析すると、口コミだけでなく、マスコミや店頭でのタナコミ(品切れ)の相乗効果が確認できた。
 具体的には(図表5-1)1月7日に番組をみた人が、1月8日以降口コミで情報を拡大、同時に店頭は納豆が品切れとなっていく。1月11日には大手納豆メーカーがお詫び広告を掲出。お詫び広告がさらにニュース番組で取り上げられ、「品切れ」であることが納豆ダイエット情報の信憑性を増幅し、さらに口コミを誘引していったということだ。テレビ番組をみて当初はばかにしていていた人も、店頭から納豆が消え、メーカーがお詫び広告をしたという情報にふれると、「まんざらうそでもないらしい」と感じたはずだ。
 口コミ、マスコミ、タナコミといった複数の情報源の相乗効果が消費者を説得し、情報を高速浸透させたといえる。


図表5-1 納豆騒動の波及プロセスと情報ソースの相互作用


6.8%トライアル層のプロフィール
 実際に納豆ダイエットを、試した人はどのくらいいたのか。
 調査では8%という結果であった。この8%のトライアル層はどんな人なのか、分析してみると、年代や性別とは関係なく、五つの特徴があった。

 具体的には
  • ふだんから納豆をよく食べていて
  • 「発掘!あるある大事典II」を毎回かかさずみていた人
  • ダイエット意識が高く
  • 実態としてBMI値25以上
  • 健康情報ニーズが強い人
というように、納豆ダイエットを実際に試したのは、もともと納豆好きでかつ、「発掘!あるある大事典II」をよくみていた人であった。


図表6-1 納豆ダイエットへの影響力-「実際に試した人」の比率
(2007.04)

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