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「NANA-ナナ-」にみる時代の共感メッセージ
エイティーズ世代の価値観変化  
消費研究チーム

『NANA-ナナ-』をご存じですか?
図表1 主なマンガの単行本発行部数
 最近発行部数2,200万部を突破した(単行本12巻累計)、集英社の月刊少女コミック誌「Cookie」(以下クッキー)で現在も連載中の少女マンガです。今秋公開予定の実写映画、トリビュートCD、ゲームソフトの発売とメディアミックスによる展開への期待も高く、急速に情報露出量と話題性が高まっています。
 2,200万部というのが出版業界でどの程度のヒットかというと、一般書籍で大ヒットといわれる『ハリー・ポッター』シリーズ5巻までの日本国内発行部数が約2,000万部といわれております。一方、コミックのヒット作品といえば『ドラゴンボール』、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、『ドラえもん』など1億部を超えるといわれる並はずれた作品があります(図表1)。数量の規模の違いに改めてコンテンツとしてのマンガの強さに目を見張ります。連載期間と巻数の違いから単純に比較はできませんが、2,200部というのは現在連載中のものの中で1巻あたりにすると充分上位に食い込んできます。ちなみに主要なマンガ単行本の公称部数でみると、ベスト10のうち9つまでが少年誌・青年誌に連載されたもので、少女マンガとしては『ガラスの仮面』『花より男子』以来の脅威のヒット作といわれています。
 しかし、最近になって話題が拡大するまでは少女マンガを読まない層にはまったく知られていないヒット商品だったといえるでしょう。

ターゲットとテーマ
 掲載誌の「クッキー」は集英社から「りぼん」を源流として1999年に創刊され、10代後半、女子中高校生に的を絞ります。単行本の部数に比べて月刊「クッキー」は公称20万部にすぎません。90年代以降、マンガ誌の創刊が相次ぎ月刊誌の数が増え、それぞれの月刊誌がターゲットを絞り込むことで読者層の固定化を図ります。こうした事情も特定層に狭く深く浸透し、ターゲットをはずれた層にはほとんど知られないヒット作品が生まれる所以です。
 『NANA』の読者層のコアは、雑誌のターゲットである10代後半女性です。常に中高校生を掴みながら主人公の二人が高校卒業から社会人へと読者とともに成長して20代にまで拡大してきたと考えられます。99年当時の15才から18才(81年から84年生まれ)は世代区分でいうとエイティーズにあたります(図表2)。2005年現在の年令は20才から23才になっています。

図表2 世代の共通体験(15~20歳頃の出来事)
画像をクリックすると別画面で拡大図表が表示されます


 作者の矢沢あいは、兵庫県出身で67年生まれ、世代区分では新人類世代(61~70年生まれ)の後半にあたります。85年高校在学中の作品『あの夏』が「りぼん新人マンガ賞」で佳作入選してデビュー、その後『ご近所物語』『下弦の月』などのヒット作を生み、ヒットメーカーとしての地位を確立しています。一貫して読者である現実の女性の悩みをくみ取って、読者が自分を投影できるように等身大の主人公を描きます。『NANA』の連載スタート時、作者の年令は既に32才、高校生作家が自分と周囲の経験をもとに気持ちを絵にして同世代の共感を得たのとは違い、どうしたらターゲットの共感を得られるかを検討して細部まで書き込まれているように思われます。
 内容を超要約すると「ナナ」と「奈々」という2人の主人公のそれぞれの恋愛と生き方探しがテーマにみえます。ナナはパンクバンドのボーカルで気が強くてかっこよく、ついにデビューを果たします。一方の奈々は、他者への依存心が強く一途でかわいいけどとりたてて特徴のない女の子として描かれています。一見正反対の2人の主人公同士の精神的絆の強さが読者の共感を呼ぶ、という点において話題作「下妻物語」の桃子とイチゴの関係にも似ていますが、桃子とイチゴが強烈に個性的で強かったのとは異なります。2人とも常に悩み、弱さを読者にさらしています。かといって深刻に自分探しに走るわけでもなく、周囲の友人達を巻き込んで何とか現実に適応していくのです。

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