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(2008.12)
「NEXT VISION 2009」より
2009年の消費をどう読むか
本コンテンツは、2008年11月10日に行われた当社イベント「NEXT VISION 2009」の講演録と、同日使用したプレゼンテーションをもとに構成したものです。
大場美子

 これから、お客さまの変化をどう捉えていくか、消費社会白書2009の内容にもとづいてご紹介します。
 消費社会白書2009は7章構成で、1章は全体的な消費の動向についてで、2章が価値意識の変化、3章は消費をリードする新デモグラフィックスと行動としておりますが、セグメンテーションと新しい購買行動について、4章は商品選択の基準について、趣味選択される商品やサービスとその方向についてまとめています。5章以降は商品カテゴリー別にトピックスをまとめています。食品・飲料、美容健康、AV・情報端末についてです。ベースとしているのが日本における、全国15-69才の男女個人2,000人の消費者調査で、特定層のグループインタビュー調査と、今回は、米中の消費者調査もあわせて実施し、3カ国比較を行っています。
 2004年から消費白書を発刊して今年で5年目になりますが、1年でこれほど消費が変化したのは、はじめてです。昨年夏の調査時点では消費は堅調でしたが、今回の調査結果では、この1年で消費者の意識は様変わりしています。物価上昇、アメリカ発の金融危機、株安、円高、市場環境は悪化するばかり、のように思えます。
図表1.2009年の消費をどう読むか
 こういう時こそ、冷静に市場の変化を見極めて、短期的変化と中長期の変化を仕訳し、チャンスを探したいと分析をすすめてきました。全体タイトルは、「新しい消費の現実、求められる信頼価値」としました。その内容をこれから三つに絞ってご紹介します(図表1)。
 1.2008年のトレンドは何か
 2.どんな層が消費を牽引しているのか
 3.どんな消費スタイルが生まれているのか
 最後に、4.チャンスと脅威、としてまとめます。

図表2.格差意識の浸透と拡大
 2008年の消費トレンドの最初にあげるのが格差意識の浸透です(図表2)。
 「日本は個人間で収入や資産に格差がある」と思う人は90%に達しています。そう思わない人はわずか3%です。さらに、「今後、日本の格差はますます広がっていく」と思う人が87%います。大半の生活者が格差が拡大すると考えています。
 10月に発表されたOECD調査によれば、日本の所得格差は、80年代以降、長期的に拡大してきたのですが、2000年からの5年間で所得格差は縮小したという結果でした。
 それは主に高所得層の所得が減少したことによっています。小泉改革と格差拡大を結びつける言説がありますが、統計的にいえば格差拡大は、80年代以降の長期トレンドであって、最近数年間はそうでもない、ということです。
 生活者の実感は、長期トレンドを反映したものだと思われます。
図表3.求められる安心信頼志向
 格差が目に見える形ではっきりする社会になると思われている中で、現在主流となっている価値観は、「安心信頼志向」です(図表3)。
 59の項目をあげて、そう思うかどうかを訪ねた結果を因子分析しますと、潜在的な五つの価値観の方向がありました。安心信頼志向、上昇・顕示志向、自己実現志向、内閉志向、享楽主義です。
 グラフ中の数値は、説明力の大きさを示しますが、この中で、最もウェイトが高いのが安心信頼志向で、35%になります。心の豊かさ、義理人情、伝統文化、家族を大事に思い、安心安全に地道にこつこつとやっていこうという伝統価値の重視であり、競争よりも協調を求め、戦いを避ける価値観です。
図表4.自己実現志向の低下
 改めてここ数年の価値観の変化を追っていくと、2004年時点で自己実現志向が主流だったものが、年々低下してきていて、最近2、3年で安心信頼志向に主役をゆずったとみられます(図表4 )。
 自己実現志向は積極的に自己投資しようという価値観ですから、自己実現志向の低下は、消費意欲の低下をもたらし、社会の活力を低下させる方向に作用します。
 自己実現の低下に伴い、気心の知れた仲間うちだけとつきあいたいという、内こもりの内閉志向が強まる傾向にあります。
 昨年のこの場で私達は、価値意識の潮目をみているのだと、みなさんに申し上げました。それが、自己実現志向と安心信頼志向の主役の交代です。
 この図式は変わっておらず、公益志向というより、もっとベーシックに安全で安心できる生活をもとめる気持ちが強まっていると思われます。格差が拡大し、さまざまな不安が強まる世の中で、価値意識は保守化傾向を強め、自己実現志向は弱体化し、内閉志向を強めていると捉えられます。
 価値観からみると、400年来の精神的な鎖国状態が生まれているともいえます。
 こういう変化は日本だけでもなく、先日のアメリカ大統領選でオバマ氏の圧倒的勝利に終わり、この選挙戦を通じて、強い個人を前提にした自由主義的な価値観から、弱者に目配りした公共性公益性の価値にシフトしていることが明らかになったと思います。アメリカでも価値意識の大きな潮目をのぞいているようです。
図表5.物価上昇を契機とした消費マインドの低下
 価値意識の変化と同時に、2008年消費市場での変化は、昨年から今年にかけて、急速に消費意欲が低下したことです(図表5)。
 これは、世帯支出を今後増やしたいかどうかをきいたものですが、2005年以降、「減らしたい」は減って、「増やしたい」が増えていました。それが、昨年8月から今年の7月の間に、風向きが変わり、「減らしたい」人が10%増え、「増やしたい」が9%下がっています。
 昨年夏以降の物価高が直接的な契機になって、最近の株価下落などによって消費意欲が落ち込んでいます。
図表6.値上げによって強まる品質志向
 昨年に比べて、物価があがったという実感をもっている人が93%に達しています。ほぼ全員です(図表6)。収入があがる見通しがないのに、生活コストがあがっているわけですから、ムダな支出を抑えようと、財布のヒモを固くしているわけです。
 短期トレンドとして、消費意欲の急速な悪化が、今年最大のインパクトがありました。
 その結果、生活者は単純に価格志向に走ったか、というとそうともいえません。ふだんの買い物で商品を選ぶときに、価格を重視するか、品質を重視するか、ときくと「以前に比べて品質を重視するようになった」と答えている人が59%です。
 主に食品などの日用品の値上げによって、値上げしても同じブランドを買う価値があるのか、品質を見極めている、ということだと思います。値上げによって消費者がどう選択を変えたか、についてはこのあとのセッションで詳しくご報告することになっています。

 いずれにしても、今後、雇用や収入見通しが本格的に悪化してくると、さらに財布のひもが固くなると思われます。2008年のトレンドは、安心信頼志向の価値観が支配する中での消費マインドの低下、ということです。

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