20年世代をベースとした大きな時代変化の流れの中、2023年という時代の断面として、社会と消費の現在の姿がどう見えてくるのか。「消費社会白書2023 感情社会の生活イノベーション」の内容をもとに、消費の今を、以下の八つの断面で示していきます。
まず階層化の進展と分断社会の到来についてです。
継続調査の結果をもとに個人年収金額の分布の推移を見ると、2005年時点ではピラミッドの形状をしていたものが、時間の経過とともに上から2段目の層が細くなり、一方で一番上の層と一番下の層が厚くなる、砂時計の構造に変わりつつあります。
日本の社会構造に関する現状認識も、この砂時計のような分断社会といわれるものが32%、将来予想でみても36%となっており、最も多くなっています。分断社会が到来するという認識・見通しが優勢となっていることがわかります。
分断社会の到来を背景として、価値観と消費の潮流に関して注目すべき点を、次の四つの断面で示していきます。
断面のひとつ目が、「感情保守」の意識の台頭です。価値観に関する因子分析結果をみると、第1軸には「あたたかな家庭や社会をつくりたい」「他人同士でも助け合える人間関係をつくりたい」「義理や人情を大切にしたい」「自分の国や民族の文化を守りたい」という意識を総括したものが表れています。
私たちは今回、この意識を「感情保守」と名付けており、これは現在を代表する価値観になっています。この「感情保守」の根幹にあるのは、社会に広く受け入れられてきた一般道徳や規範を大事にしたい、守りたいという情緒的な保守の空気のようなものです。
この「感情保守」は、上の世代になるほど強くなる傾向があります。加えて、階層が上の層ほど、収入が上の層ほど、また階層意識が上の層ほど強くなる傾向が見られます。
「感情保守」が現在の代表的価値観として台頭している背景として、大切なものへの喪失感が「感情保守」の意識を刺激していることが考えられます。「今の世の中、何か大切なものが失われている気がする」という喪失感が、50~60代の高齢層で特に強くなっています。
こうした喪失感が強くなるほど、「感情保守」の意識が強まる傾向も確認できています。大切なものが失われていくことへの漠然とした危機感が、情緒的な保守の空気といわれる「感情保守」の意識を刺激していると示唆されます。
断面のふたつ目は、消費マインドについてです。消費者にとって、将来の見通しは不透明なものとなっています。1年後の収入の見通しに関して「増えていない」と答えている層が76%と、大勢を占めています。次に多いのが「わからない」で13%です。「増えている」「やや増えている」を合わせても11%余りで、「わからない」を上回っています。
消費者のマインドは今も冷え込んだままです。今後の消費について、支出全般、個別のカテゴリーいずれでみても、「増やしたい」という意向が全くみられない「消費凍結層」の割合が65%と、過半数を占めています。
こうしたマインドの凍結傾向は、収入見通しが不安定で不透明であるほど強くなることが確認できています。
断面の三つ目は、値上げの動きが消費に与えるインパクトについてです。値上げの動きは、収入見通しや支出意欲に悪影響を及ぼしています。1年後の物価見通しに関して「上がっている」「やや上がっている」を合わせた割合は7割を占めています。こうした物価上昇の認識や見通しが強いほど収入減少見通しも強くなり、支出意向でも減少が強まることが確認できています。
こうした値上げの動きが、収入見通しの悪化や支出意向の減退という形で、消費にデフレインパクトをもたらしていることが示唆されます。
値上げの動きは、消費意識の面でも大きな影響を及ぼします。消費意識の項目で、賛成率が50%を超える7項目のうち、チェックマークが付いている項目が、堅実な消費意識を反映したものになっています。
こうした堅実な消費意識といわれるものは、収入が下の層ほど強く、物価の上昇見通しが強いほど、強くなる傾向も確認できています。今後、値上げの動きが進むにつれ、下位層を中心にしてさらに強まり、定着していくことが考えられます。
断面の四つ目として、注目すべきもうひとつの動きが「マウンティング消費」です。消費意識に関する因子分析結果をみると、第1軸には、「他人に自慢できるような商品や店を選びたい」「他人よりもワンランク上のものを買いたい」という意識が表れています。
私たちはこれを「顕示消費」と名付けており、これが現在の代表的な消費意識となっています。これは別名「見せびらかし消費」とも呼ばれます。消費行動を通じて他人に自慢したい、出し抜きたい、優越性を示したいというマウンティングの姿勢が顕著となっています。
この意識は、収入が高い層ほど、階層意識が上の層ほど強くなる傾向も確認できています。上位層が下位層に対してマウンティングを取る、見せびらかしの消費行動をするという意識は、今後も上位層を中心にして主導されていくものと考えられます。
ここまで、今の時代を捉える八つの断面のうち、価値観や消費意識を中心に四つを紹介しました。ここからは、そうした意識を背景としながら進んでいる、生活のイノベーションについて、四つの観点から説明します。
参照コンテンツ
- MNEXT 2023年の消費と戦略経営~マーケティングの6つの革新~(2022年)
- JMRからの提案 感情社会の生活イノベーション エモーショナルブランディング(2022年)
- JMRからの提案 感情社会の生活イノベーション サクセスマーケティングの参考事例(2022年)
- MNEXT アフターコロナの本格マーケティング 2023年の消費を捉える10のポイント(2022年)
- MNEXT 眼のつけどころ Z世代攻略の鍵は時代にあり(2022年)
- MNEXT 眼のつけどころ 値上げの時代の生き残りマーケティング(2022年)
- MNEXT ePOPで成熟ブランドのリブランディング― 2022年春の提案(2022年)
- プロの視点 イラスト効果で売上130%増の謎を解く―エモーショナルマーケティング(2022年)
おすすめ新着記事
消費者調査データ レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア
調査結果を見ると、「咖喱屋カレー」が、再購入意向を除く5項目で首位を獲得した。店頭接触、購入経験で2位に10ポイント以上の差をつけ、3ヶ月内購入では2位の「ボンカレーゴールド」のほぼ2倍の購入率となった。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場 背景にある簡便化志向や節約志向
どんな人がパンを食べているのか調べてみた。主食として1年内に食べた頻度をみると、食事パンは週5回以上食べた人が2割で、特に女性50・60代は3割前後と高かった。パン類全体でみると、朝食で食事パンを食べた人は女性を中心に高く、特に女性50代は6割以上であった。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場 背景にある簡便化志向や節約志向
どんな人がパンを食べているのか調べてみた。主食として1年内に食べた頻度をみると、食事パンは週5回以上食べた人が2割で、特に女性50・60代は3割前後と高かった。パン類全体でみると、朝食で食事パンを食べた人は女性を中心に高く、特に女性50代は6割以上であった。