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(2009.01)
消費不況で変わる小売業のエコシステム
本稿は、「週刊エコノミスト2008年12月9日号」掲載記事のオリジナル原稿です。
舩木龍三・菅野守

 小売業は90年代以降、店舗が大型化したが生産性は低下し、長期低迷傾向が続いている。09年は消費不況が深刻化するなかで、寡占化と主役の交代、業態進化、個店格差に拍車がかかり、小売業のエコシステム(生態系)が大きく変わる。

進む店舗の大型化、低下する生産性
図表1.店舗大型化のもとで伸び悩む小売業の収益性
 小売業界はここ10年来、長期低迷傾向から抜け出せずにいる。
 経済産業省「商業統計調査」をもとに90年代以降の小売セクターのマクロ動向を整理すると、年間商品販売額はほぼ横ばいで97年をピークに緩やかな減少傾向にある。1事業所当り売場面積の伸び率は91年比で195.2%、年率換算で+39.0%成長という驚異的なペースで拡大する一方、売場面積当り年間販売額の伸び率は91年比で68.4%、年率換算で-30.2%成長と急速に下落している(図表1)。
 90年代以降、小売業では店舗の大型化が進んだものの、生産性の低下に一向に歯止めがかからない。

三つのミクロトレンド
 マクロには長期低迷傾向が続いているが、ミクロレベルでは、この傾向を打破する可能性のある三つのトレンドが着目できる。
 第一は、寡占化のなかでの主役交代である。小売企業上位10社の07年度売上は約20兆円で全小売販売額の15%を占めている。この間のグループ化や再編がすすんだ結果といえる。消費不況で競争は激化し、業態を超えた再編は今後もすすんでいくだろう。そのなかでリーダー企業の交代がすすむ。10年前の上位10社は百貨店と総合スーパーで占められていたが、現在はヤマダ電機、エディオン、ヨドバシカメラの3社が入っており、ヤマダ電機は2桁の成長である。逆にイオン、ダイエー、ユニー、Jフロントリテイリング、高島屋、三越伊勢丹ホールディングスはこの中間決算で減収ないしは減益に陥り、コンビニエンスストア事業が好調だったセブン&アイのみがかろうじて増収増益となっている。
 第二は、業態進化である。百貨店は改装投資を中止し、総合スーパーは閉店ラッシュを迎える。ショッピングセンターも出店ペースは一気に落ちる。逆に成長しているのは家電量販、ドラッグストア、食品スーパーなどの専門量販店、それにコンビニエンスストアとネット通販である。とくにネット通販は、経済産業省調査によれば3.3兆円、前年比+22.1%と高成長している。ライフスタイルにあわせた業態進化がすすんでいるのである。
 第三は、地域格差にもとづく個店格差である。長期低迷傾向が続いているものの、地域により様相は全く異なる。商業統計調査から02年と07年の成長性を都道府県別にみると、成長しているのは15都道府県、最大値は三重県、沖縄県の+7.7%、最小値は島根県の-9.8%とその差は17.6%に拡大している。伸びている地域と低迷する地域と間で、成長率の格差が鮮明となっている。あらゆる業態で既存店売上が低迷しているのは、この地域格差による影響が大きく、09年はこの傾向がより鮮明になるだろう。

小売業から地域業へ
 人口減少が地域格差をもたらし、個店格差を生んでいる。ライフスタイルの変化が新たな成長業態や業態進化を生み出し、古い業態を衰退させている。また、消費低迷下で競争が激化し寡占化と主役交代を促進している。09年は小売業の新しい棲み分けの時代、エコシステムが変わる節目となろう。とくに着眼すべきは地域の視点である。その地域のライフスタイルにピッタリあった小売業のエコシステムが求められているのである。現在の大手企業主導による商業集積開発は画一的で地域にフィットしない。地域にフィットした業態や商業集積を実現する地域業ともいえる企業が出てくるかが見どころとなる。


本稿は当社代表・松田久一からの貴重な助言のもとに執筆されました。ここに謝意を表します。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。

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