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21世紀の流通はどうなるか
-近代組織小売業崩壊後の小売業サバイバル8(八つの流通ドメイン)
大澤 博一


構 成


はじめに
 「流通革命」が林周二氏によって提唱されてから約40年がたった。その間、イトーヨーカ堂やイオン、セブン-イレブン・ジャパン、ローソンなどの大手組織小売業が台頭し、成長してきた。しかし、今その「流通革命」の担い手が低迷を続けている。
 2003年9月のチェーンストア販売金額の前年同月比は95.4%(店舗調整後)で、2002年7月から15ヶ月連続で前年同月を下回っている。唯一前年を上回った2002年6月以前もマイナスの結果である。一向に業績回復の兆しを見せていない。
 セブン-イレブンが1万店を越えて、以前として成長を見せているCVSも、2003年9月の既存店売上前年同月比は99.4%と7ヶ月連続で前年割れとなった(図表1)。
 大手GMS4社の中間決算は目標を下方修正した決算となった。イオンを除いたイトーヨーカ堂、ダイエー、西友の3社の単体決算は対前年比マイナスの結果であった。各社とも冷夏や景気の低迷を直接の原因にしている。

図表1 チェーンストア(GMS・SM)とCVSの既存店売上対前年比推移


 一方で、北陸でスーパーセンター(以下SUC)を展開するPLANTやドンキホーテのように順調に業績を伸ばしている企業もある。この現状をみると、大手GMSやCVSの訴える「業績マイナスの原因は天候や景気の不透明感」という説ははなはだ疑問である。
 本稿では、イトーヨーカ堂やイオン、セブン-イレブン、ローソンなど既存のGMS、CVS業態大手企業を大手組織小売業とし、大手組織小売業が低迷している要因を近代組織小売業の構造的な問題とする視点に立って、近代化の担い手である大手組織小売業の誕生から現在までの歴史的アプローチから、大手組織小売業が低迷する要因と21世紀の流通業のドメインを展望することを狙いとしている。

1.今、流通業界のなかで何が起きているのか
 今、流通業界はこれまでとは違う動きが起こっている。大手組織小売業が低迷し、その一方で、局地市場圏が活性化し、化粧品専門店などの業種小売業の店舗数と販売金額減少が下げ止まり、再び上昇に転じている。

(1) 組織小売業の更なる低迷

 組織小売業の代表的存在である大手GMSが苦しんでいる。2003年度中間決算では、イトーヨーカ堂の売上前年比は単体ベースで、-2.0%、ダイエーは-12.7%、西友は-3.9%、唯一前年をクリアしたイオンでさえ、営業利益は-54.4%と散々たる内容であった。イトーヨーカ堂の例を見れば、中間期の既存店の客数は前期比-2.0%、客単価0.0%であった。既存店での衣料品の売上伸び率は-5.0%、住居関連-0.4%、食品0.0%となっている。集客力は大きく低下し、食品で踏みとどまっている。店離れが起きている。客数減少を補うために、より単品管理を強化し、高単価・高粗利商品を積極的に品揃えし、ゴールデンスペースに陳列するように本部指示が出ている。品揃えの選択の幅が少なくなり、売場の魅力度を低下させ、店離れを加速する悪循環に陥っている。
 こうした現状を打破するための方法を大手GMSは模索している。顕著な例をあげれば、深夜営業化である。営業時間の緩和を利用し、イオンは全店24時間化を、パート比率の低いイトーヨーカ堂でさえ23時まで営業時間を延長している。
 比較的好調を維持している食品への集中も進んでいる。ダイエーは食品スーパーの出店を拡大する。2004年2月期末までに新規2店、2005年2月期以降は毎年10店以上を出店する計画である。西友も同様にSMの出店を強化している。
 新しい業態の実験展開も見られる。イオンは天理店でホームセンターと食品スーパーとDSの要素を併せもつSUCを展開している。ローコストオペレーション(以下LCO)に下支えされたEDLP化を強化している。イオンでは、このSUCを今後の中核事業と位置づけている。一方で、都市型GMSのプロトタイプとなる東雲店が2003年10月28日にオープンした。この店舗では、GMSで最も粗利が高い衣料品を扱っていない。脱GMS化を模索している。
 CVSも成長に陰りが見えてきている。既存店の前年割れが続き、出店し続けなければ売上拡大が図れない構造になっている。一方で、その出店速度も減速してきている。唯一セブン-イレブンだけが名古屋を中心に出店を加速している。出店速度減速の背景には出店余地の減少があげられる。そのため、CVS各社はこれまで閉鎖商圏として出店を回避してきた都市部のオフィスビル内や学校、ホテル、病院、郵便局、地下鉄構内などへの出店を積極的に進めている。ローソンは丸ビル内の出店、郵便局内に出店するタイプのポスタルローソン、地下鉄や大学の構内への出店を進めている。ファミリーマートも高速道路のサービスエリアやホテル内に出店を行っている。

(2) 現在、顕著になっている動向

 新たな動きも見えている。まずは、ドラッグストアの成長である。マツモトキヨシの2008年3月期を最終年度とする中長期計画では、トータル1,000店舗の店舗網を構築(現在約600店)し、マツモトキヨシグループ全体で1兆円の売上を目指している。北海度・東北に基盤を置くツルハも2010年に店舗数1,000店舗(現在386店舗)を実現することを宣言している。既存店売上高もマツモトキヨシでは2002年度1.3%増、ツルハでは2002年度約5%増と拡大させている。90年代に急激に成長したドラッグストアは未だ成長路線を維持し続け、H&BCの中核業態として生活に定着している。今後は、郊外型店舗では食品の取り扱いを強化し、消費者の来店頻度を高め、より生活に密着した、利便性のある展開を検討している。
 局地市場圏が活性化している。農協などが野菜や果物などの拡販を目的に「道の駅」や直売所を活用し、地元で栽培されたものをその土地で消費する、いわゆる「地産地消」型の局地市場圏が急拡大している。通常の流通ルートに乗せないために実現できる低価格化と生産者が見える安心感を武器に伸びている。千葉県八千代市の農事組合法人のクラフトが運営する「道の駅・八千代」では、今春から生産記録の記帳を義務づけ、安心感を醸成させている。ここでは、八千代市以外からも集客し、2003年6月期の売上は8億5,000万円と3年前と比べ23%も伸びている。埼玉県の花園農協が経営する直売所では、低価格さと鮮度の良さからSMが仕入れにくるほどで、埼玉県内のみならず東京、群馬、神奈川からも来店する。2002年度には67万人を集客している。1日約1,800人、SM並の集客力を持っている。
 都市部でも変化が見られる。都市型SMが注目されている。都市型SMにはふたつのタイプがある。ひとつは、クイーンズ伊勢丹に代表されるアップグレード型のSMである。PBと高級食材を豊富に品揃えし、自家製のベーカリーや総菜を充実させた展開を行っている。もうひとつは、マルエツのフーデックスに代表される深夜営業の小型SMである。マルエツの「リージョン10」(首都圏の食品シェア10%を目指す)を実現する業態のひとつがフーデックスである。現在、東京都区部を中心に12店舗を展開している。飲料売場をリーチインにするなど、SMにCVS的販売要素を取り込み、深夜化が進む都市型のライフスタイルに対応した業態である。深夜の時間帯の売上構成比は20~30%を占めている。
 変化は店舗だけに留まらない。通販業界が好調である。従来のカタログ販売ではない、ネット販売やテレビ販売の分野で著しく伸びている。2002年度のネット通販だけの売上高は日経MJの「eショップ・通信販売調査」によれば、2,671億円、前年比145.9%である。通販最大手千趣会の全体売上前年比は98.7%に対して、ネット通販部門では売上構成比は11%足らずであるが、前年比150%と伸長させている。店に行かない買い物が定着しつつある。
 オペレーションのグローバル化、高度化も進んでいる。カルフールが日本に出店し、ウォルマートが西友を通じて日本に進出、さらにイギリスのテスコも進出するなど、日本の流通環境はグローバル化が進んでいる。イオンは世界で10位内の小売業になる「グローバル10」構想を目標に掲げている。ウォルマートとの本格的な決戦を前にイオングループ全体の力を結集し、オペレーションの高度化を推進している。世界規模の共同調達を可能にするWWREへの加盟、直接取引の推進、自動補充システムの構築、EDLPの実現、グループMDの推進、PBの拡大などローコスト化と販売力の強化を追求している。
 経済産業省の後押しもあり、マルエツがICタグの実験を展開し、次世代のオペレーションづくりを推進し、オペレーションの高度化を模索している。ICタグとは、ICチップにIDを記録し、無線電波で読み出しを行う小さなタグ(荷札)のことである。ICタグは、レジ精算の際にカゴの中身を一括して読み取ることを可能し、在庫の棚卸しの自動化、盗難防止、さらに生産履歴や物流履歴などを記録でき、トレーサビリティを可能にする。マルエツでは、NTTデータや丸紅と潮見店でICタグの実験を2003年10月から開始した。まずは、来店客に生鮮食品の産地情報の提供を実験している。実際、ICタグをつけた商品は実験前に比べ2倍程度伸び、来店客の15%程度が端末を利用して、商品情報を確認してから購入している。

 業種小売業が衰退し、大手組織小売業が成長するという対立の構図から、GMSが低迷し、CVSが成長に限界を迎えるなかで、成長を続ける業態、店舗が存在しているという新たな構図が現在生まれている。その一方で、オペレーションがますます高度化しているのが現在である。こうした構図はいつから生まれたのだろうか。大手組織小売業の誕生から現在までの経過を歴史的に辿ってみる。

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